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TOTO 東陶機器(株)

住宅には不可欠の水回り周辺住設機器を取り扱うTOTO。新設住宅着工中心の事業から、リモデル事業へと、自ら需要を作り出す体質への転換を図った。ショールームを拠点に全国のリフォーム業者を組織化し、地域に密着した販売体制を確立、競争優位性を維持している。

“住まいのお医者さん”を目指し日本最大の増改築ネットワークを構築

 日頃から体質や健康状態を把握し、ちょっとした体調の変化にもすぐに気付き、相談に乗ってくれるかかりつけのお医者さんが近所にいたら、こんなに心強いことはない。住宅についても、破損したリ、老朽化した部品の調達から、取り付け、器具の修理、点検、リモデルの提案、施工、メンテナンスまで一手に引き受けてくれるお医者さんが近所にいたら、どんなに安心して暮らせるだろう。
 日本を代表する水回り周辺住宅設備機器総合メーカーのTOTOは、新しい住空間を企画提案し、これに沿って施工を担当する最寄りの会員業者を紹介する日本最大の増改築ネットワーク「TOTOリモデルクラブ」を1994年に発足した。現在、全国の水道工事店や工務店、住宅設備機器販売店、リフォーム店など4,000店を会員に認定している。
 同社が最初に「リモデル宣言」をしたのは1993年のこと。「そもそも住設機器の需要は新築住宅着工件数の増減に左右されると同時に、メーカー間の価格競争に巻き込まれていました。この体質から脱却するため、新たな活路をリモデルに求めたのです」(広報室 渡邉氏)。
 背景にあるのは、膨大な住宅ストック。築10年以上の住宅ストックが、全国4,500万戸のうち約85%あり、平均20年に1回リモデルするとして試算すると、今後、年間170万戸以上の需要が期待できる。また、全人口の4割を占める50歳以上のシニア層の3割が住宅の改装を望んでいるという日経の調査結果もあり、前途有望な市場である。
 さらに同社の製品は、過去30年間に日本全国の住宅の7割に、計1億5,000万個も出荷され、売上総額が累積7兆3,000億円に及んでいるのも強みのひとつ。こうした既納住設機器へのアプローチも、リモデルの切り口として期待できる。
 新築住宅着工件数は、バブル崩壊後、政府の住宅整備支援策のおかげで、しばらく堅調に推移したが、消費税率が5%に引き上げられた1997年には、年間164万戸から118万戸へと激減。かたやリモデルの売上高は、2002年についに新築住宅着工による売上高を上回った。現在毎年十数%の伸び率で需要が拡大しているリモデルは、ますます有力な収益源になる。同社のブランド力も強みのひとつで、2003年の上場企業ブランド力調査では、週刊ダイヤモンドで14位、日経で19位と、同社へのお客様の信頼が厚いことも分かった。
 2003年、「リモデル新宣言」を発表。「今後ますます、お客様が期待する以上に魅力的な新しいライフスタイルを提案していきますが、これをアピールする空間として、地域に密着したショールームの展開を強化していくつもりです」(渡邉氏)。現在、ショールームは全国に85カ所を数え、新設を進める一方で、既存のショールームを都心から郊外のロードサイドへ移して規模の拡大を推進中。5~6年後の目標は120カ所だという。さらに専門のアドバイザーを配し、提案、コンサルティング機能を高めた。プランニングし、見積もりを算出、契約をまとめ、実際の工事を担当する同社認定の地元の工事業者にリレーションする、ワンストップサービスを実施。こうして相互に連携し、共存共栄を図る基盤を着々と固めている。
 リモデル事業を成功させるためのポイントは、①魅力的な商品を開発すること、②車でアクセスしやすいところにショールームを設置、その数と質を増強し、来館者数を増やすこと、③お客様から信頼され、安心して工事を頼める業者のネットワークを構築すること、の3つである。これらが同社のブランド力を総合的に高め、今後拡大が予想される住宅の増改築需要において、競争優位性を保つ源泉となる。

リモデルクラブに認定されることは住設工事業者にとって大きなステータス

 リモデルクラブの会員になるには、品質・価格・納期・技術力・サービス・経営基盤など厳正な審査があり、これをクリアした業者しか認定を受けられない。入会すると、月々4,000円かかるが、毎年同社の製品カタログが届けられるほか、全国レベルの受注成功事例や新製品の紹介、販売ノウハウの提案、新しい住空間の提案などが記載された月刊会報誌「リモデルエクスプレス」が送付される。こうした情報やツール類の提供に加えて、ショールームの営業担当者が、担当エリアのリモデルクラブ会員への支援をきめ細かく行っている。住設工事業者向けの新商品説明会や、技術研修会、会員同士の勉強会などスキルアップに向けたさまざまな教育も受けられる。これには、東富士研修所で実施される有料のものと、各エリアのショールームで開催される無料のものがある。また、現場で技術的な問題が発生したときは、平日の朝9時から夜6時までオープンしている「テクニカルサポートセンター」に電話で問い合わせることができ、大概の問題はその場で解決できる仕組みになっている。
 「ショールームでは、同社の製品を展示するだけではなく、リモデルクラブの会員とタイアップしてイベントを開催し、お客様の来店を促進したり、同社の専任アドバイザーが、専門的なコンサルティングを要する案件に対応しています。1社でお客様に最適なプランと見積もりを提示することが難しければ、専門業者をリモデルクラブ会員から複数社紹介するなどして、会員の営業活動と、会員同士の横の連携もサポートしているのです。会員は、水道管工事の専門業者、ガス工事の専門業者、電気設備の専門業者などさまざまで、必ずしも競合するわけではない。むしろ、バスやトイレ、キッチンといったひとつのリモデルについて、複数の業者が協力してお客様のニーズに応えるケースが増えてきています」(渡邉氏)。
 住宅は一生に一度の買い物という認識が一般的であったため、同社ではこれまで顧客データを取っていなかった。しかし現在では、ショールームの来場者の基本属性やコンタクト履歴をはじめ、見積り、工事受注、商品の売り上げ状況までのデータベース化に着手している。また、どんなお客様に何をどのように提案したら受注に結び付いたかといった貴重な情報を、営業日報に眠らせておくことなく徹底分析し、営業活動の進化に活かしている。今後は、リモデルという観点から、お客様が同社の製品をいくつ使用しているか、購入してどのくらい経つかといった情報も収集する予定だという。さらに、同社のメンテナンス会社が持っている修理伝票も同社のシステムで一元管理し、商品開発や改善、アフターサービスの提案に役立てていく考えだ。
 投資対効果を高めるため、ほかの住設機器、建材メーカーとの共同研究も進めている。この試みは、単独での取り組みが中心だった業界に新風を吹き込んだ。大建工業、YKK、APの3社が同社の呼びかけに賛同し、9種類のデザイン基準を統一。自社単独はもちろん、3社共同でも使用できる汎用性の高い部材を開発し、新しい住空間を共同で提案した。今後、リモデルクラブの会員同士が有機的に結び付き、互換性のある製品と施工を通して、競合他社の追随を許さないワンストップのサービス体制を確立していく可能性が濃厚だ。

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月刊『アイ・エム・プレス』2004年4月号の記事