各個店の販促ニーズに対応したクーポンをリアルタイムに送信

(株)ツタヤオンライン

インフラ整備の一環として、各個店別オンラインDM配信システム『クリモル君』を開発し、ターゲタブルなオンラインクーポンの配信を可能にした。クーポン・バリューの最大化を図り、新たなチェーン・オペレーションに挑んでいる。

「クリック&モルタル」の相乗効果を追求

 全国に1,146店舗(2004年2月末現在)を展開し、有効会員数1,838万人(同)を誇るマルチ・パッケージ・ストア「TSUTAYA」の総合エンターテインメントサイト「TSUTAYA online」を運営するのが、(株)ツタヤオンラインだ。同社は、モバイルとWeb向けにエンターテインメント・サービスを提供、「クリック&モルタル」の相乗効果を生み出すべく、効果検証を繰り返しながら、既存店舗の販促支援を行っている。
 同社が各販売店支援のインフラとして構築した個店別オンラインDM配信システム『クリモル君』は、店舗特性やニーズにより、クーポン内容、配信対象、時期をセグメントして、各店ごとのターゲタブルなクーポン配信を可能にするもの。2001年からエリア限定で実験を開始し、2002年7月に試行、2003年11月に本格稼働させた。
 クーポン内容には、「お誕生日クーポン」「レディスクーポン」「学割クーポン」などがある。クーポン配信の流れは以下の通り。
 まず各店舗において、“いつ(時期) ”“誰(対象者) ”に“何(クーポン内容)”を決定し、リクエストを出す。リクエストを受けた同社では、TSUTAYAの会員データベースと連動しながら、対象となるオンライン会員への配信設定を行い、クーポンメールを送信する。こうして適切な内容のクーポンを受け取った顧客は、これを持って来店し、利用する仕組みだ。
 TSUTAYA会員が何割オンライン化しているかという指標「オンライン会員化率」が40%超の店舗や、オンラインクーポン期間中に、売り上げの半分以上、あるいは来店者の8割をオンライン会員が占めるという店舗も珍しくない。TSUTAYA onlineの有効会員(オンライン会員)数は急激に増加しており、2003年5月には400万人を突破した。TSUTAYA onlineへのアクセス数は月間800万ページ・ビュー(PV)(2004年2月)。週間eメール配信数は、携帯電話向け約750万通、Web向け約200万通。オンラインクーポンの累計利用件数は、すでに3,000万件を突破。オンライン販促施策の基盤は整いつつあり、着々と実績も上がっている。この『クリモル君』は、「MCFモバイルプロジェクト・アワード2003モバイルミドルウェア部門優秀賞」を受賞した。

各店ごとの自由度の高い販促支援策の必要性

 チェーン・オペレーションは、転換期を迎えている。品揃えやオペレーションを統一することで効率性のみを追求する時代は終わり、多様性が求められているのだ。特にビデオ・レンタル業界は、競合店の存在や立地タイプで顧客特性や利用状況が大きく異なる。それらを最も把握しているのは各個店だ。
 同社が全顧客に一律にマス・キャンペーンとして実施していたオンラインサービスを、各店の販促の自由度を高めたサービスに高度化させたのには、以下の2つのきっかけがある。ひとつは、顧客満足度を向上させるために、顧客の購買特性に合わせてコミュニケーションを図り、自由に販促策を講じたいというリクエストが上がっていたこと。もうひとつは、競争の激しいレンタル業界において、オンラインクーポンのシステム構築によって、強固な競合対策を図ろうということだ。レンタル業界では従来から、ポスティング、DM、折込チラシによる販促合戦が熾烈だが、検証の積み重ねにより、従来型の販促策に比べて、オンラインクーポンは競合店に対する優位性を築く絶好の販促策であるという確証が得られたのである。
 また、オンラインクーポンは、TSUTAYAの昨今の出店戦略に合致する販促策でもある。ターミナルステーションエリアへの出店では、利用客はそのエリアの居住者ではないため、前述の従来型販促策が使えない。大型店であるにもかかわらず、利用客への有効なリーチ手段がなかったのだ。オンラインクーポンは、こうした店舗利用者への容易なアプローチを可能にした。

顧客バリューの最大化を目指し模倣困難なサービスを構築

 オンラインクーポンなど、eメールを使ったプロモーションの利点は、「ローコスト」と「リアルタイム」。DMに比べて制作や配布コストの低減が図れるばかりか、マス・プロモーションに比べてクローズド性が高く、対象外の顧客や競合に伏せて実施できるので値崩れを防げる上、実施までのリードタイムが短いため短期間で売り上げに貢献できる。また、平日の稼働率を高めたい、3カ月間来店のない休眠顧客を誘引したい、競合店舗のキャンペーンにぶつけたい、キッズ向け商品の回転率を上げたい、店舗改装で在庫を大量投入したので客数をアップしたいなど、店舗単位の販促ニーズに応じて、タイムリーにクーポンを配信できる。
 オンラインクーポンの有効性は、来店率や客単価への貢献が高いなどの点で検証済みだ。例えば、クーポンにより、オンライン会員の1日当たりの来店者数は1.53倍、1日当たりの値引き後の売上高は1.4倍になる。返却のために来店頻度が増し、複数レンタルなどの“ついで買い”も増える。オンラインクーポンの割引率は10~50%だが、レンタルというTSUTAYAのビジネスモデルでは「在庫の回転」がキーであるため、割引はあっても「ついで借り」の効果もあいまって、売上高アップには充分有効であると確証している。
 同社では今後も、来店喚起と消費喚起を最大目標とした取り組みを推し進める。ポイントは、大別すると以下の2点だ。
 ①各店におけるTSUTAYA onlineのサービスの認知度・浸透度を高めること。単に自由度を高めるのではなく、顧客にとってのクーポン・バリューの最大化を目指して効果検証を繰り返し、いつ、誰に、何のクーポンを届けるのが効果的かを見極め、クーポン送付の各店最適化を図っていく。そして、獲得した販促ノウハウを店舗レベルで“使いこなせる”よう、コンサルティングやナレッジの伝達に努める。
 特にモバイルメディアは、プライベート性が高いという利点がある反面、スパムメールやパケット料金の負担といったネガティブな側面もある。配信する情報内容が顧客ニーズにフィットしていなければ、eメールは「スパム」化してしまう。機械的なリコメンド(推奨)機能は、情報内容が受け手のニーズにマッチしていない場合、必ず不信感を生む。だから、必要な情報を、必要な人に、必要なときに届けるオンデマンドな情報サービスの実現に向け、顧客のパーミッションを取りながら、リマインド(気付きのための助言)の利便性を高めていく。
 ②サービス機能を高度化し、One to Oneやダイレクトマーケティングといったe-CRMを推進することなど。
 さらに、TSUTAYAのポイントサービス「ティーポイント」では、会員の生活動線上でのカードバリューを高めることを目標に、ポイント・アライアンス先をローソンやENEOSをはじめ、2004年中に積極的に拡大する予定。TSUTAYA onlineではポイント確認機能を提供するほか、2004年4月からはポイント変換も可能にする。
 モバイルの普及や進展は、エンターテインメント領域の可能性を確実に押し広げている。同社では、コミュニケーション・ツールとして絶大な力を発揮するモバイルメディアを核に、競合が模倣困難な参入障壁の構築を顧客本位で推進し、オンライン会員のバリューの最大化に努め、店舗との相乗効果を追求している。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年4月号の記事