アメリカンホーム保険会社では、eメールをWebサイトや電話、DMと同列のお客様とのコミュニケーション・ツールのひとつと位置付け、それぞれのメリットを活かして相互補完的に利用している。Webとeメールによるオンライン契約においても、あくまでお客様主導のプル型のマーケティングを堅持している。
プル型eメールが主体のマーケティング
アメリカンホーム保険会社は、世界130の国・地域にネットワークを持つ世界の保険・金融サービス業界のリーダーであるAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の主要メンバーカンパニーとして、1899年に米国で誕生した。100年の歴史と実績に基づき、1982年に日本で初めて傷害保険の通信販売を開始、1997年には「リスク細分型自動車保険」を発売し、損害保険市場におけるダイレクトマーケティングのパイオニアとして、一大センセーションを巻き起こした。これまでに100万件以上の契約を獲得。2002年の正味収入保険料は246億4,900万円で、前年比20.7%の増収となっている。
1998年に専業主婦の所得を補償する「お給料保険」、1999年にシニアの骨折を保障する傷害保険「どんとこい」、2001年には第三分野への参入解禁と同時に、医療総合保険「ライフサイズ入院」を発売。日本初の商品やビジネスモデルを提案してきた先進性には、目を見張るものがある。
同社が最初にeメールを活用したのは、1997年に自動車保険の通信販売を開始したとき。Webサイトから資料を請求したお客様に「サンキューメール」を自動配信することからスタートした。
2000年にはWebサイトでの自動車保険の契約システムを立ち上げた。お客様がWeb上でユーザー登録すると登録確認メールを、見積り画面からお客様が条件に合ったものを選択し、契約ボタンを押すと成約確認メールを、見積り提示後、契約されていないお客様にはフォローアップメールを自動送信。これら自動車保険の加入手続きをすべてオンラインで完結させる画期的なサービスである。
これは、コールセンターで見積りのフォローアップ・コールを行って成約に結び付けていたノウハウを、Webサイトで資料請求や見積りをした、eメールアドレスしか分からないお客様にも活用しようという発想から生まれたものだ。
2002年に、Webサイトでの自動車保険申込者に対する保険料の8%割引を開始。また、携帯電話からもアクセスできるモバイルサイトをオープン。他社との大きな差別化を図った。
同社は、Webサイトを開設して以来、常にWebサイトをリニューアルすることで、ユーザビリティの向上に努めてきた。同時に、eメールの機能を2つの側面から有効に活用してきた。ひとつは、電話に代わる新しい通信手段であるeメールを、営業時間外の問い合わせの受け皿として使用すること。もうひとつは、eメールをプロモーション・メディアとして使用することである。
eメールの活用により、営業スタッフがお客様のところに出向いたり、コールセンターから何度も電話をかけるプッシュ型プロモートではなく、自然に成約まで持っていくプル型プロモートを実現。人件費や通信費を削減しつつ、契約率を向上させることに成功した。また、配信履歴はすべて記録されるので、履歴管理がしやすく、スピーディーで機動的なマーケティングを展開できるようになったと、同社インターネットマーケティング室長の齋藤光児氏は語る。
eメールとDMや電話、Webサイトを相互補完的に活用
eメールの優れている点は、配信費用がほとんどかからないことに加えて、Webサイトでアクションを起こしたお客様の手元に、パーソナライズされ、Webサイトへのリンクの付いたレターがすぐに届けられ、次のアクションを誘発しやすいことだという。また、DMなどの印刷媒体と異なり、コンテンツの変更が容易に行えることも魅力のひとつだと同氏は語る。
ただ、eメールやWebサイトだけではお客様との関係が希薄になりがちだ。配信しても、見るかどうかはお客様の意思次第。なぜ申し込まないのか、なぜ継続しないのか、その理由を聞き出すことで、疑問・不満を解消でき、成約に結び付けたり、商品の改善を図ることもできる。こうしたきめ細かいコミュニケーションは、電話などで直接お客様と会話しないとなかなか実現できない。
コールセンターには、施設代、電話代、人件費などがかかるが、eメールも同様だ。同じテンプレートで一括返信できる内容の問い合わせはまれであり、問題が解決するまでにお客様と数回やり取りが発生することがほとんど。その作業に携わるオペレータの人件費、施設費が必要となり、1件当たり最大でコールセンターの数倍の人件費がかかるという試算もある。
また、商品ヘの理解や認知度を高めてもらうのに、eメールのように簡単に消去されてしまうツールでは効果は限定的だ。もちろんDMも捨てられる可能性はあるが、お客様の手元に残るということが、次のアクションにつなげる重要なファクターになる。そのためeメールは、DMや電話、Webサイトのリマインドとして、相互補完的に利用していくのが最も効果的だと齋藤氏は説明する。
こうした努力が実り、ダイヤモンド社が2002年5月に「週刊ダイヤモンド」の読者向けに行った自動車保険のイメージ調査で、同社は「保険料が安く」「保険金の支払いがスピーディー」で、「申し込み手続きが簡単」で、「問い合わせに対するサービス体制が充実している」と評価され、好感度総合第1位にランキングされた。
Webサイトで蓄積したお客様の情報は、同社のお客様にかかわる情報のほんの一部に過ぎない。同社ではWebサイト、コールセンター、保険代理店といった多様な販売チャネルを持っており、これらを通じて収集される顧客情報は膨大な量に上る。これらのチャネルの連携を今以上に強め、より効果的なマーケティング、よりスムーズな顧客対応を行うことが、今後の課題になっている。
また、同社では顧客データをマイニングして、年齢や性別といった属性ごとにDMでクロスセルも行っている。eメールの活用はまだ限定的だが、今後、クロスセルについてもDM、eメール、Webサイトの相互補完的な活用が進むことだろう。
保険という商品は、ある意味で特殊である。自動車保険は1年に1回しか更新時期が巡ってこない。海外旅行傷害保険はそれこそ一時のもので、コンタクトが継続する顧客は限られる。シニア向けの保険の対象も50歳以上だ。自動車保険は、自動車を保有していない人には必要がない。つまり、多くの人に数多くの商品を案内するのではなく、一人ひとりの事情に合わせてタイミングよく情報を発信することが肝心なのだ。このような理由から、同社ではメールマガジンの発行などは今のところ考えていないという。「購入頻度の低い商品だからこそ、他業態と違って、購入単価の高いお客様よりむしろ、長く継続して保険に加入してくださるお客様がロイヤル顧客であると認識している」と齋藤氏は語る。
同社では現在、傷害保険・医療保険の契約者に向けて、コミュニケーション・ツールを郵便で送付している。今後、このコミュニケーション・ツールと同様のコンテンツを、Webサイトやeメールにより提供していく可能性はあると言及する。
「重要なのは、メールマガジンかDMかといったコンテンツのデリバリー手段ではない。コールセンター、Webサイト、DM、eメールをトータルに活用することで、いかにお客様にベネフィットを提供し、サービスの差別化を図るかである」(齋藤氏)。現在同社では、そのためのプラン作りを進めている最中だ。