アクティブ・シニア対応の決め手は「高品質」「健康志向」「社会的信頼」

花王(株)

健康に人一倍気を配り、品質にとことんこだわるシニア。社会的評価を重視するこの世代の毎日の食生活に入り込めれば大きな収益が見込める。日本の全人口の半分を占める40歳以上をターゲットに、ヘルスケア事業をコア事業として確立することが、顧客戦略の大きな柱となっている。

特定保健用食品表示がシニアの絶大な信頼を獲得

 体に脂肪がつきにくい食用油「健康エコナ」と清涼飲料水「ヘルシア緑茶」が、中高年の男性を中心に爆発的に売れている。後者は、2003年日経ヒット商品番付で東の関脇にも選ばれた。なぜこんなにヒットしたのか。その理由を、製造元の花王(株)に聞いてみた。
 清潔と美と健康を事業ドメインにしている同社の清潔と美の分野は、今厳しい価格競争にさらされている。例えば15年前に810円だった洗剤「アタック」が、最近は目玉商品として398円や298円で売られている。一方、健康分野は、少子高齢化という社会構造の変化や、肥満が原因の生活習慣病の増加も手伝って、多少価格が高くても健康に良い商品を買おうという中高年の需要拡大が見込まれる。そこで花王は健康分野への進出を課題とし、世界的な医薬品メーカーであるノバルティス社と合弁会社を作り、大衆薬市場への参入を試みたこともあった。しかし、ノバルティス社との提携は2001年に解消し、それ以後は、独自路線でヘルスケア商品を開発する方針に切り替えた。
 メインターゲットを、病気ではないが健康でもない生活習慣病に悩む未病・非健康な中高年に設定。生活習慣病の予防を目的に、彼らが常飲常食している食品に着目した。同社は石鹸や洗剤などとともに、70年以上前から業務用油を製造していたため、油の研究には多くの蓄積があった。これを基に、味と品質と効果に徹底的にこだわり、13年もかけて体に脂肪がつきにくいジアシルグリセロールを使った世界初の食用油「健康エコナ」を開発。その後、何百種ものポリフェノールをスクリーニングし、日本人が常飲しているお茶に含まれる高濃度の天然茶カテキンに、体脂肪を低減する効果を発見。飲みやすい味と品質、効果を実感できるまでこだわりを持ち、約5年をかけて開発したのが「ヘルシア緑茶」である。
 同社では、社員の3分の1が研究部門に属し、総売り上げの4%を研究開発費に投入。商品研究と基礎技術研究を縦横のマトリックスで進めている。研究部門では、経営幹部を交えてR&D会議を定期的に開催し、研究シーズを消費者ニーズにいかに結び付けるかを話し合っている。「健康エコナ」も「ヘルシア緑茶」も、こうしたプロセスを経て生まれた。
 「健康エコナクッキングオイル」には、厚生労働省から認可を受けた特定保健用食品(特保)のマークが付いている。取得に時間を要したが、「健康エコナマヨネーズタイプ」も、2003年11月には表示を許可された。「特保取得には時間もコストもかかりますが、消費者の方々の信頼感は確実に高まりました」という広報部門室長の古瀬和夫氏。同社のヘルスケア商品が中高年に支持されている理由は、徹底的に研究された品質への信頼と、それを裏付ける特保取得にあると言えよう。
 もうひとつ、これらの商品のコミュニケーション戦略にも注目すべき点がある。両商品のプレスリリースの数である。従来型の新商品を告知する広告宣伝に加え、プレスリリースにより商品関連情報を積極的に発信することで、多くの新聞記事が掲載された。新聞などへのパブリシティの掲載頻度を高めたのだ。これが功を奏して、安易に言葉に踊らされない多くのシニア層の共感を呼ぶことができた。
 きっかけは、1999年2月の「健康エコナクッキングオイル」の発売に先駆け、ある経済誌に載った小さな紹介記事だった。発売前にもかかわらず、読者から「どこで買えるか」といった問い合わせが多数寄せられ、「限られたパブリシティ記事にこれほど大きな反響があるとは驚いた」と言う古瀬氏。以来、新聞やTVを中心とした広告宣伝活動に加えて、新聞や雑誌のパブリシティの活動に注力。厚生労働省の認可を受けたことで、「体に脂肪がつきにくい」というキャッチコピーを上手に活用し、他社製品との差別化も図れた。商品紹介といったモノ情報だけでなく、社会現象になるようなコト情報がシニア層の注目を集め、人間ドック協会から推薦を受けたことも、需要拡大につながったという。
 さらに、お中元やお歳暮だけでなく、通常のギフトでも年長者には健康に良い、プレミアム性のあるモノを贈る日本の風習も「健康エコナ」の需要を押し上げた。ギフトをきっかけにリピート購入につながるケースも多く、サンプリング的な効果が生まれた。
 また、中高年にはラジオのリスナーが多いことから、ラジオ番組で「ヘルシア緑茶」を紹介してもらったことも効果があったようだ。広告媒体として、中高年の男性が通勤でよく目にするJR各線のドアステッカーも活用。「健康エコナクッキングオイル」に始まり、「ヘルシア緑茶」の場合も、結果として、広告宣伝活動とパブリシティ活動を統合したインテグレイティッド・ブランド・コミュニケーション(IBC)手法が、マーケティング活動を成功に導いた。

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「健康エコナ」シリーズ「ヘルシア緑茶」で、年商450億円に王手をかけた

関東甲信越のコンビニで先行発売 お客様の声を商品の改良に活かす

 「ヘルシア緑茶」に関しては、商品の品質と効果には自信があったが、同社にとってまったく初めての分野で、これほど売れるとは予想していなかったそうだ。天然茶カテキンの供給面には限界があった。そこで、350mlサイズのペットボトルの7割がコンビニ・チャネルで売れていることに着目し、関東甲信越の1都9県のコンビニで先行発売することに決定。BMI(体脂肪率)25以上の無糖茶を常飲している中高年に狙いを定めた。
 コンビニのPOSシェアで「ヘルシア緑茶」が首位を独走できたことは、流通の協力も大きい。各店の担当者が手書きPOPを書いたり、レジ横やお弁当コーナーに関連陳列するなど、「ヘルシア緑茶」を盛り立ててくれたおかげで、購入者の65%が男性、7割が40歳以上と、これまでコンビニに足を運ぶことが少なかった中高年の男性を取り込むことに成功した。
 また同社は、苦情や意見など消費者からの生の声を商品開発に活かしている。自前の消費者相談センターには、毎日約500件、年間12万件もの苦情や意見、問い合わせが寄せられる。これらに毎日、主として電話で対応するとともに、データベースとして蓄積し、事業部門へフィードバックしている。こうしてお客様の声を商品の改良に活かし、より良い商品にして市場に返すのが、同社消費者相談センターの中核、エコーシステムのユニークな点である。食品の安全性が社会問題になっている昨今、苦情や意見にクイック・レスポンスするのはメーカーの使命だ。「ヘルシア緑茶」の問い合わせは発売当初、「先行エリア以外ではいつ発売するのか」「地方で入手する方法はあるか」などの問い合わせが多く、早急に全国発売する必要性を痛感したそうだ。2003年12月に近畿・北陸・東海地方でも販売を開始、2004年1月には全国のコンビニに拡大された。今後、ほかの販売チャネルへも拡大する予定。
 経営理念に掲げられた“心をこめたよきモノづくりを通して、豊かな社会文化の実現に貢献する”とは、メーカーとしての同社の姿勢を表したトップ・メッセージだ。これを社員全員が共有している。デフレの時代、“利益ある成長”を実現するのは容易ではない。同社はその施策として、既存分野のシェア拡大、中国や北米などグローバル事業の拡大を掲げているが、併せてヘルスケア分野での新規事業の強化・育成が、企業としての成長だけでなく、お客様へのサービス拡充のためにも不可欠であると考えている。
 発売から5年を経過し、「健康エコナ」シリーズの年商は2003年度には300億円に達する見込みだ。また、「ヘルシア緑茶」は、順調にいけば150億円の好売り上げが見込め、合計で450億円に上る。同社は「健康エコナ」や「ヘルシア緑茶」などのヘルスケア事業を、5年後には1,000億円事業に育てたいとの目標を持っている。折しも、2004年3月には「ヘルシア緑茶」「ヘルスケアリサーチセンター」の新研究棟が、亀戸に誕生する。


月刊『アイ・エム・プレス』2004年2月号の記事