糖尿病食市場のパイオニアの地位を確立 通販でコンサルティングも同時に実現

(株)ニチレイ

(株)ニチレイでは優れた食品加工技術を活かして、レトルト糖尿病食を開発。現在は、糖尿病食から派生したダイエット食品などを含めてウェルネス商品と総称し、通信販売でダイレクトにエンドユーザーに届けている。同社における通販の現状と課題を聞いた。

糖尿病の国民病化を背景に国内初のレトルト糖尿病食の通信販売を事業化

 冷凍食品メーカー最大手の(株)ニチレイが、本格的なヘルスケア食品事業をスタートしたのは1989年。レトルト糖尿病食を発売したのを契機としている。
 今や、日本人の健康志向は、ブームを超えて一般的な基本認識と言っていい。こうした国民の健康意識を背景に、多様なヘルスケア食品が数多く販売されている。そのような中にあって、ヘルスケア食品の最大のテーマといわれたのが糖尿病食だ。ニチレイの糖尿病食は、他社に先駆け、国内で初めて事業化に成功した画期的な新商品だった。
 これは、厚生省(当時)より特殊栄養食品糖尿病食調整用組み合わせ食品として認可を受けた商品であるため、栄養士などから栄養相談を受けられる売り場での販売が望ましく、スーパーやコンビニでのセルフ販売が難しいという特徴がある。糖尿病食は、不特定多数の顧客を対象にする食品と違い、糖尿病患者に特化した商品であるため、薬局や百貨店の健康食品売り場などを除けば、一般小売店や量販店での販売に適さないという事情があった。また、利用者の多くは家庭に常備するため、デパートの健康食品売り場で大量に購入し、宅配便で自宅へ送るといったケースが多かった。
 そこで、通信販売による販売戦略がクローズアップされることになったのである。

Web販売の顧客が30%を占有 Webのスタートで会員数は約7万人に増大

 ニチレイでは、この糖尿病食の通信販売が軌道に乗ったことにより、食品事業の一分野だったヘルスケア食品部門を、2000年から「ウェルネス食品部」として部に昇格。専用のフリーダイヤルを設定し、専門のオペレータを配置すると同時に、販売チャネルを拡大しWebでの販売もスタートさせた。
 ニチレイが、糖尿病食の通信販売で特に力点を置くのは、ユーザーに商品の内容をよく理解して買ってもらうことだ。糖尿病食は、糖尿病患者に対し、商品特性を詳細に説明することが必要である。そうしたコンサルティングを行うという点でも、電話、FAXを利用した通信販売が、販売手法として最適であった。
 また、顧客の詳細なニーズ、注文を集約できる点もメリットだ。顧客との直接的な交流を通じて得られる生の声を、商品の改良や新商品の開発にフィードバックし、新たなニーズの掘り起こしに役立てることができるというわけである。今までは得られなかった顧客情報が、貴重なデータとして活かされている。
 現在では、通信販売の売り上げのうち約30%がインターネットを通じたものになっている。ニチレイでは、インターネット通販の売り上げが急速に拡大しているという顧客の購入スタイルの変化に特に注目している。パソコンや携帯電話の活用性が高まる今後、ネットでの購入層がさらに増えることは確実との考えだ。販売チャネルの拡大と合わせてニチレイでは、ポイント制度を実施するなど、顧客サービスも拡充。Web販売のスタートから3年で、会員数は7万人近くにまでなった。売り上げも、通販開始年度の3倍に拡大している。当面10万人規模に会員を拡大することを目標にしている。

カタログ表紙 カタログ中面

ウェルネス商品のカタログ。糖尿病食の価格帯は1食につき900~1,000円。「21食セット」(1万9,900円)、「18食セット」(1万7,100円)も販売している。味の好みは人それぞれのため、初めてのお客様には「7食おためしセット」(6,600円)をすすめているという

100億円の規模を持つ糖尿病食市場は一層の拡大基調 顧客の好みの味への柔軟な対応が課題

 現在の日本の糖尿病患者数は約740万人。糖尿病予備軍880万人を含めると実に1,620万人に及ぶ。今や糖尿病は代表的な国民病のひとつだ。
 元来、植物性の食物を多くとってきた日本人の体質は、脂質の分解力が欧米人に比べ弱く、米・インディアンなどに次いで高い比率で糖尿病にかかりやすいという。しかも、糖尿病は、一度発病すると完治することがない。生涯付き合っていかなければならない厄介な病気としても知られる。
 常にカロリーコントロールに細心の注意を払う食事療法が、病状の改善を図る唯一の方法になっている。糖尿病食は、カロリー計算だけでなく、たんぱく質、糖分、塩分、脂質などの管理も大切な要素だ。そうした際、糖尿病患者を抱える家庭にとって、栄養成分の数値管理をしながら毎日の食事を調えることは、非常に困難であり、また大きな悩みでもある。
 ニチレイの糖尿病食が、ユーザーから高い支持を得て、着実に業績を上げてきているのは、こうした糖尿病にまつわる国内事情が背景にある。また、糖尿病の医療費は年間約1兆円にも上り、この負担は国家的にも、家計的にも非常に大きいものだ。
 糖尿病患者に限らず、摂取カロリー値のコントロールは、病気の予防の観点からすべての人に必要な配慮だ。現在、和洋中華の21種類があるニチレイの糖尿病食は、1食320キロカロリーに設定されているので、50代、60代の“糖尿病世代”はもちろん、若い女性たちからも「ダイエット食」として高い人気を集めている。バランスの良い健康的な食品と評価されているのだ。
 糖尿病食市場は、現在、レトルト食品が約30億円、冷凍食品が約60億円で、合わせて100億円近い規模にあると言われている。今後、糖尿病患者の増大や、一般の健康志向ユーザーへの認知拡大などで、市場がさらに大きくなっていくことは確実だ。
 ユーザーが増えれば、それだけニーズは多様化し、味付けや料理の種類などの点で、一層豊富な品揃えが求められてくると予想される。糖尿病食は、厚生労働省の許可が必要な保健機能食品だけに、ユーザーの健康を支える機能食品として、可能性はまだまだ大きく広がっていくだろう。
 従来、エンドユーザーとの接点の少なかったニチレイにとって、糖尿病食の通信販売は、市場開拓という点においても重要な意味を持っている。そしてこの市場は、今後さらに大きな収益を生み出す可能性を秘めているのだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年12月号の記事