顧客の声を次々に商品化 ファン層の拡大に成功

コクヨ(株)

顧客の意見を収集する「コミュニティ」、製品情報を提供する「コンテンツ」、製品を販売する「コマース」の“3C”を運営目標に掲げた「さぷらいふ」では、コミュニティサイトで得た顧客の意見を活かし新製品を生み出し続けている。

ついに大型製品も完成 コミュニティサイトが威力を発揮

 「営業担当がいないために直接、顧客から意見を収集することができない」。そんな悩みを抱えたコクヨ(株)のOAサプライズ事業部が1999年2月に立ち上げたオリジナルサイト「さぷらいふ」は現在、主に以下のようなコンテンツを持つ。①製品のテスト販売と顧客の意見を収集する「さぷらいふ一番出しショップ」、②各種ソフトのダウンロードや商品適合検索のコーナー、③Web上のカタログ「さぷらいふカタログ」、④顧客と意見を交わしながら商品の改良や新製品の開発に取り組むコミュニティサイト「さぷらいふ研究会」。さぷらいふは、OAサプライ事業部を母体として生まれたITコミュニケーションカンパニーが運営。同カンパニーがWeb事業を統括する。
 さまざまな機能を持つサイトの中でも、特に注目されるのは顧客同士、そして同社と顧客が意見を交わすクローズド・コミュニティサイト、「さぷらいふ研究会」だ。同研究会は学生、専業主婦、ライターなど、さまざまな属性の20名(男女比・4:6)から構成。2000年9月の発足以来、同社の“ご意見番”として活躍。現在、第1回企画を終了し、第2回を検討中となっている。
 それでは、2001年の本誌による取材以後、同研究会の意見が反映された商品とその開発プロセスを紹介しよう。まず、マウスケーブルやUBSケーブルをすっきり収納できる「ケーブルケース」が挙げられる。顧客に対する一般アンケートを行うと、必ずと言っていいほど「パソコン周りの整理・収納」というキーワードが浮かび上がる。そこで、研究会内でこのキーワードを使った問題提起を行い、同社がナビゲーターを務めるかたちでフリートークを展開。さらに対面方式で意見を聞き、ディスカッション開始から約半年後の2001年10月に店頭販売へこぎつけた。
 より大掛かりなプロジェクトとしては、今年5月下旬に発売を迎える「ノートパソコンワゴン」が挙げられる。顧客の意見を収集するリサーチに約1年、製品開発に約1年をかけた一大プロジェクトである。同カンパニーのマーケティング部 上田敬人氏によると、SOHOなど自宅で働く層が増加しているにもかかわらず、住宅事情により自分の書斎を持てない人は多い。そこで、「パソコンやプリンターを必要なときにだけ引っ張り出して、使わないときはすっきりと収納できる」ワゴンの開発を企画。もともと商品開発担当者が持っていた構想と研究会を通して収集したユーザーの意見を、製品に反映させることにした。
 普段、PCをどのようなシーンで利用しているのか。コミュニティサイト内でリサーチにリサーチを重ね、机代わりになるワゴンを開発。まずはネット上で数量限定で販売、売れ行きを見た上で増産や流通ルートの変更を検討する計画だ。
 また、最近ではNECが運営するポータルサイト内で約1年にわたって集めた意見を反映させ、デスクトップPCにもノートタイプにも対応できるデスク用シェルフ「RESPACE-F」を製品化した。対象製品に最も近い位置にいる顧客の声を募るために、「今後も他社とのコラボレーションに積極的に取り組みたい」と、上田氏はより広範囲な顧客層とのコミュニケーションに意欲を示している。

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NECとのコラボ企画により誕生した「RESPACE-F」。仕切板を自由に動かせるほか、棚板をプラスして収納力をアップできる

今後はB to Cビジネスを強化

 特定メンバーが集う研究会とは違い、「さぷらいふ一番出しショップ」では広く一般の顧客から特定製品に対する意見を募集している。実はこの機能は、コクヨ=文具=オフィス周り用品と単純に図式化されがちな同社のブランドイメージを払拭し、「個人」「女性」「家庭」を強く意識した製品開発を行うための機能を果たしている。「今後は“家庭”を意識した製品開発が必要になる。このため、女性を含むより多くの顧客の意見を聞くことを意識して『さぷらいふ一番出しショップ』を開設した」(上田氏)経緯があったのだ。
 広範囲から集められた意見は、同社に新たな“視点”と、意外な効果をもたらしている。例えば、ノートパソコンと周辺機器を簡単に持ち運びできる専用ボックス「hako・bo」は、もともとダークカラーのプラスチック製品だったが、「家庭の利用には不向き」との意見により素材と色を工夫。濃紺、緑、白などカラフルなキャンパス地を使い、リビングルームに置かれていてもまったく違和感のないバージョンが開発され好評となっている。また、ユーザーからの「オレンジを追加しては」という意見を取り入れ、同色を追加。改良された商品はB to Cを意識したものだったが、逆に法人顧客から予想外に大量発注が入るなどビジネスチャンスが広がっている。

アフターフォローの必要性が浮上

 一般家庭を狙った製品開発は着々と進んでいるが、一方でインターネットや新たな流通ルートの獲得により一般顧客との接触頻度が高まることで、さぷらいふには新たな課題が持ち上がってきた。それは、顧客対応の強化である。同サイトのトップページビューは現在、月間54万~55万と、2001年当時の40万から飛躍的に増加しており、顧客層も多様化してきた。上田氏によると、以前はアンケートやキャンペーンに応募するエンドユーザーは50歳以上が10%以下であったが、最近では50代、60代が15~20%を構成。小学生から70代までの幅広い層がアクセスしてくる。
 このため同社ではサイトのメンテナンスを重視し、①顧客が持っている商品と同社製品とのマッチングを含む検索性の強化、②情報提供のスピードアップ、③ソフトのダウンロードサービス、などの施策を実施した。例えば①では、顧客が持っているキーボードの機種に適した防塵カバーの品番号を簡単に検索できる適合表を用意。他社製品も含めて掲載することで、顧客が迷うことなく商品を選択できるようにしている。また、③ではラベル印字ソフト「合わせ名人2」、アルバム作成ソフト「アルバム名人」などを提供。現在、ダウンロード数はスタート当初の10倍以上にまで増加している。その一方で、ホームページ自体やダウンロードについての問い合わせが、電話とeメールを合わせて1日当たり約50件入る。同社を身近な存在として意識し始めた顧客といかにコミュニケーションを図り、ロイヤルティを高めていくかが、問われるところだ。
 また同社では、パソコン量販店に対する流通ルートを開拓するため、2002年6月に全国に営業拠点を持つOAサプライ・メーカー、(株)アーベルと提携。販路の開拓を急ぐ。さまざまな顧客の声を活かした商品開発の仕組みは整ったものの、完成した製品をエンドユーザーに届ける流通ルートの確保が課題となっていたが、今後はこうした提携を活かして幅広い販路を獲得し、顧客層をさらに広げたい考えだ。
 さぷらいふにおける顧客との意見交換や意見収集は、同社の商品開発力を支える要。顧客に望まれる商品でB to Cビジネスを拡大し、「コクヨ」ブランドのさらなる浸透と強化を狙う。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年6月号の記事