2000年1月から社内カンパニー制を導入
富士ゼロックスは、IT産業など成長事業領域にリソースを再配置するため、2000年1月から社内カンパニー制を導入。市場ニーズを反映した経営判断を行い、顧客に対してより迅速な商品やサービスの提供を目指している。社内カンパニーはソリューション・ビジネスを展開するインダストリー・ソリューションズ・カンパニー(ISC)、国内販売を担当するゼネラル・オフィス・マーケティング・カンパニー(GMC)、開発生産機能を統合したドキュメント・プロダクト・カンパニー(DPC)、トナー・カートリッジなどの消耗品を提供するサプライ・ビジネス・カンパニー(SBC)、IT分野の新規事業開発を推進するニュー・ビジネス・センター(NBC)の5つ。性格の異なる事業の整理・統合により各カンパニーの独立性を確保し、ナレッジマネジメントを実行している。
同社が経営における「知」や「知識」の重要性を認識したのは1992年。米国でナレッジマネジメントが注目を集める3年以上も前のことである。膨大な情報や知識の蓄積をはじめ、それらを活用するための最適な媒体をドキュメント(紙や書類、電子情報などあらゆるメディア)と考え、「The Document Company」を目指すと宣言。ドキュメントを活用し、組織と組織、人と人の理解を総合的に高め、さらには人の創造プロセスを呼び起こしていくという。
たとえば、多くの企業にとって生産性の向上とは、これまで時間の短縮やコストダウンといった効率の問題とされていたが、同社では真の生産性の向上を、個人やワークグループの能力や創造性を飛躍的に高めることと確信している。オフィスのファイルやコンピュータのデスクトップ上に埋もれた情報、社員ひとりひとりがもつ知識や知恵に資産価値を見出して共有・活用する。また人が創造的な対話を繰り返す場を効果的にセッティングすることで、新たな「知」を生み出す力、真の知的生産性の向上を図るという。最終的には、この知的生産性の向上が営業力や開発力、財務体質の強化など、具体的な成果に結びついていくと考えているのだ。
顧客にフォーカスし、迅速に展開
社内カンパニーのひとつであるISCは、大手法人顧客の業務特性に合致したソリューションと、業種を横断する共通課題に対するソリューションをミックスして提供している。そのキーワードは「Body&Brain」。「Body」とは顧客の業務プロセスの一部となることであり、ドキュメント・アウトソーシング事業などが当てはまる。また、「Brain」とは顧客の経営戦略の一部となることを意味し、オンデマンドによるOne to Oneマーケティング支援などがケースとして挙げられる。ISCではこれらのソリューションを「フォーカス&スピード」をモットーに、顧客にフォーカスしながら迅速に展開し、ネットワーク時代の勝者を目指している。
ナレッジマネジメントを支える主なシステムとしては、①「KSC(旧名MIC)」(Knowledge Sharing Centre)──営業活動に必要な総合ナレッジバンク、②「GMA Station」──特定の顧客に関する情報共有ドキュメント・データベース、③「CK MAIL」(Company Knowledge MAIL)──個々の社員の経験やノウハウの共有化を目指したメーリング・システムの3つを用意。営業部門に対する支援、あるいは営業を推進するための顧客知とは何か、コンセプトを明確にし、顧客の問題解決を終着点と考えている。
「KSC」は1989年から活用しているウェブ(ウェブ化は1996年)を使った営業ドキュメント・データベースであり、システム・ソリューション営業の強化を“ドキュメントの側面”から支援することを目的としている。「KSC」が導入された当時、同社は複写機分野から新たなシステム商品の販売を開始。システム商品は複写機とは違い、ソリューション営業力が必要なため、プロジェクトを発足して強化策や営業手法を検討していた。つまりインターネットは存在せず、情報共有という考え方もない状況の中で、システム・セールス営業担当者が作成する提案書の共有化を図ることが開発のきっかけとなったのである。
「KSC」の利点は、全国の営業担当者が日常の業務活動のなかで実践したベストプラクティスを、標準化して蓄積していること。営業担当者が商談を行なう際にこれを活用することで、提案力や交渉力を高めようというのが狙いだ(図表3)。
「KSC」の営業支援ドキュメントの活用法(図表4)を具体的に説明すると、第一段階のKnow/Thinkのステップでは、ソリューションのきっかけとなる多くの情報を社内外から集めることが可能。格納している情報は統計や白書、企業の動向、ランキング/格付け、財務情報、業界動向、シンクタンク・レポートのほか、自社の最新情報や動きなど。
第二段階のDocumentation/Createのステップは、ドキュメント作成・創造の支援ツール・ノウハウというべきパートで、豊富なビジネス&IT図形集やフォーム集、文例集が用意されているほか、ビジュアルなデジタル・ドキュメントを実現するためのチャート化、カラー化技法やDTPノウハウなどを集めた。
第三段階であるDDB/Sharingのステップでは、現場が業務を切り口として生み出した新たなドキュメント・ソリューションや経営課題ごとのキーワードからデータベースにアクセス。さらに経営用語やIT用語からのアクセスも可能である。
営業担当者、全員参加型の情報共有システム
もうひとつの情報共有ドキュメント・データベースである「GMA Station」は、顧客の生の情報が報告される全国営業戦略会議や連絡会議に加えて、情報の戦略的共有にウェブを活用するという理由から1997年に利用を開始した関係者専用の情報共有システムである。
コンセプトは全国の顧客に最適なサポートを実施するためのウェブ・インフラであることと、HTMLの知識のない営業担当者でも情報の更新ができること。コンテンツは各営業部によって自由に運営される。
情報の登録は、ウェブ上から登録ページを呼び出し、情報を格納すべきディレクトリに登録しようとするファイルをドラッグ&ドロップするだけで完了。取り扱われている情報は営業担当者が集めてきた顧客の生の情報である。なかでも有効な情報については「KSC」に登録することもある。
「GMA Station」は、同社の主管営業制度のなかでナレッジ・シェアリングを実現するのが目的。主管営業では、顧客である大企業本社に向けてソリューションを提案するが、大企業は全国に支店・営業所を配置しているため、これらに対しては各地区に配置している同社の各事業所が営業を実施する。そこで「GMA Station」により、主管営業と地方の営業担当者とのナレッジ・シェアリングを実現して、顧客の各事業所に対し、同じベクトルでソリューションを提供しようというもの。
同システムは自社で活用しているだけではなく、すでにいくつかの販売実績もある。しかし、システムを提供するだけは、有効に活用することは難しく、情報の分析やコンサルティングを含んだサポート体制をとっている。また10月からは「GMA Station」とほぼ同機能のウェブ対応ドキュメント管理ソフトウェア「Docu Share」の販売も開始している。
個々の社員の経験に基づく技術やノウハウを共有
3つ目のCK MAILは、ドキュメント化していない個々の社員の経験に基づく技術やノウハウを引き出し、共有するシステム。2000年から活用をはじめた。インターネットのニュースグループやメーリングリストと同じ仕組みで、情報のやりとりを社員同士で共有化できる。たとえば、ある営業担当者が製品配送にともなうトラブルを投稿すると、カンパニー社員全員に同じメールが配信される。それに対して以前に同じようなトラブルを経験し、解決した営業担当者が情報を配信すると、他の営業担当者も情報を共有することができる。こうしたやりとりをデータベース化することでナレッジを蓄積し、その中から最適な解決法を見出しているわけだ。
同カンパニーのマーケティング&プランニング部、マーケティング&コミュニケーショングループITマーケティングチーム、チーム長の岡安信也氏は、「今後、ナレッジマネジャーには登録したナレッジを営業担当者などの利用者が評価するしくみを構築してもらいたい。すべての知識価値を判断できるナレッジマネジャーはいないので、利用者に評価してもらうのがベスト」と語っている。