お客様の視点に立った企業づくりを目指す『ニュー・キリン・ビジョン21』

キリンビール(株)

お客様の信頼と支持の拡大を目指す

 キリンビール(株)は98年度から、「お客様の信頼と支持の拡大」を合い言葉に、国内ビール事業の機構改革を核とした第5次中期経営計画『ニュー・キリン・ビジョン21』(NK21)を推進している。NK21の最終年となる2000年は、事業計画の総仕上げとともに、次へのステップの第一歩として、顧客視点に立ったマーケティング施策の推進やマルチブランド戦略の充実、製造部門における競争力の強化などを図り、「お客様の支持を得られる商品・サービスの提案」と「揺るぎない企業価値の向上」を目標に事業を推進する。
 具体的には、「キリンラガービール」、「キリン一番搾り」などの主力商品のブランド強化をはじめ、「キリンオールモルトビール〈素材厳選〉」、「キリンクリアブリュー」などの新商品の提案や企業品質(2000年はビールの素材である「水」をテーマに同社の姿勢を伝え、また環境・社会やスポーツ・文化への支援も強化)の向上を活動テーマに置き、「お客様の信頼と支持の拡大」を目指している。

1日当たりのコール数は約120件

 同社は“より一層のお客様視点に立った企業づくり”を推進するため、相談窓口として1981年に広報部内に「消費者室」を設置。1991年から社会環境部に移管するとともに、現在の「お客様相談室」に名称を変更して、問い合わせやクレームに対応している。現在、担当者は女性8名、男性2名の計10名で構成。ビールは飲み物であり、なおかつ日常的に飲用されるため、すぐに役立つ情報を提供できるよう商品知識に長けた中堅・ベテラン(平均年齢32歳)の人材を中心に配置している。「お客様相談室」の主な業務は①顧客からの申し出対応のほか、②顧客向けの啓発資料製作や配布、③講演会、研修会の実施、④顧客情報の社内へのフィードバックや提言などである。
 顧客からの問い合わせの多くは、昨年末に実施した「2000年記念セット」などキャンペーン商品について。そのほかにも「賞味期限の過ぎたビールは飲めるか」、「ギフト券の値段はいくらか」、「新商品はいつ発売になるのか」などさまざまな内容の問い合わせがあるという。
 また、問い合わせ以外にも、ビールに対する感想(情感)なども寄せられるため、基本マニュアルだけですべてに応対するのは難しい。そのため、オペレータには、まず相手の話をよく聞くことで顧客との関係を深めるよう指導しているという。
 コール内容の内訳は、問い合わせ75.5%、製品クレーム17.2%、意見、感想、要望6.6%、提案0.4%、その他クレーム0.3%である。 
 「お客様相談室」のフリーダイヤル番号は、商品のラベルやパッケージで告知されている。現在、1日当たりの平均コール数は約120件で、年間トータルでは約4万4,000件。平均通話時間は集計していないが、短いもので1〜2分、中には1時間以上におよぶケースもあるという。電話回線は12回線を用意しているが、通常は8回線で運用している。
 応対時間は平日のAM9:00〜PM5:30まで。土日・祝日と平日の応対時間以外はIVR(自動音声応答装置)により、受付時間を知らせるメッセージを流している。電話以外のアクセス手段として、EメールやFAXも用意しているが、90%以上が電話によるものだ。メディア別構成比はフリーダイヤル81.4%、一般加入回線8.7%、手紙5.3%、Eメール4.1%、FAX0.2%、その他0.3%となっている。

お客様相談窓口の担当者には相手の話をよく聞き、関係を深めるよう指導している

お客様相談窓口の担当者には相手の話をよく聞き、関係を深めるよう指導している

顧客の声を活かして製品化した『軽量びん』

 同社の99年の売上高は1兆1,070億円(前年比96.4%)、経常利益655億円(同119.3%)。ビール市場では、90年代初頭に新製品の発表が相次ぎ、94年には成長のピークに達したが、以降は成長に鈍りが見られる。同社の過去3年間の売り上げもこの影響を受け頭打ちの状態となっている。この市場の低迷と、98年から開始した「NK21」推進のため、約1,000人の人員整理を含む約300億円のコスト削減を実施した。
 現在ビール市場は数量ベースで、約700万キロリットル。このうち昨年度の同社のシェアは40.1%で、依然トップであるが、2位のアサヒビールとの競争は熾烈である。しかし同社は、この激しい競争市場を、顧客ニーズを具現化する商品の誕生、それによるビール業界の活性化を実現する好機であると歓迎。もちろん同社がその先陣に立って、顧客に満足を与えられる商品作りに邁進していきたい考えだ。
 顧客の声を反映した商品として、1993年に導入をはじめた『軽量びん』が挙げられる。顧客や業者などから「もっと軽いびんはないのか」「重くて扱いにくい」という声が多く寄せられたことで製品化に踏み切った。『軽量びん(大びん)』はガラスの肉厚を薄くし、表面にセラミックをコーティングすることでびんの強度を維持、重さを通常の大びんより約2割ほど軽くしたもの。びんの切り替えは、現在全国において段階的に進行中で、60%以上は切り替えを終え、2003年中には完了する予定だ。
 このほか、顧客の声から生まれた商品には「飲み口が狭くて飲みづらい」という声を活かした『広口缶』や「一度で飲みきれないためキャップで締めるタイプの容器が欲しい」という要望に応えた『ボトル缶』(5月から首都圏で発売)などがある。
 同社は、顧客の意見に耳を傾けることで、顧客が満足する商品を提供し、それを売り上げにつなげることが、顧客と企業双方にとってのプロフィット(利益)であると考えている。

顧客ニーズに応えて開発した「ボトル缶」

顧客ニーズに応えて開発した「ボトル缶」

「お客様情報システム」で顧客情報の共有化を図る

 99年から同社では、問い合わせや苦情などの情報を共有化するため、従来のクレーム対応とお客様相談のシステムを統合したイントラネット「お客様情報システム」(ロータス・ノーツ)を導入した。データベース(オラクル社製)に蓄積した情報を全社員が自由に検索し、業務に活用している。すでに社内では「各部門で自由にお客様情報を活用できる」や「画像情報添付などにより説得力と正確性が向上した」など高い支持を得ている。
 同社では、全国に約1,000名の営業担当者を抱えている。これらの営業担当者は「お客様情報システム」からの情報を入手し、実際のクレーム対応を行う。「お客様本位」を最優先事項と位置付ける同社営業担当者には、通常業務にもましてクレーム対応を優先することが義務付けられている。そのため、営業担当者に、会話のすすめ方など具体的なスキル研修を実施し、顧客の顔を見て声を聞くという基本姿勢を徹底させている。
 クレーム対応の手順は、①「お客様相談室」が顧客から申し出を受け付けると、②現場の営業担当者に情報を伝え、③顧客を直接訪ねて現品を引き取り、話をうかがう。その後、④現品を工場に送り調査が行われ、⑤結果がでると、⑥営業担当者が再び顧客を訪ねて、報告・解決するという流れになっている(図表1参照)。
 「お客様相談室」の責任者である同社社会環境部お客様相談室長の加藤眞次氏は「営業担当者のクレーム対応は、特殊なものではなく、営業対応の一環です。当社は創業以来、何を置いてもお客様を第一に考えていますから、当然のことと考えています」と言う。
 企業方針である“より一層のお客様視点に立った企業づくり”の推進は、「お客様相談室」だけでは実現できない。営業担当者や製造担当者を含め、組織が一丸となることが不可欠なのだ。そして、それを継続していくことで、顧客、企業双方のプロフィットが生まれると同社は考えているのである。

【図表1】製品クレーム対応情報

月刊『アイ・エム・プレス』2000年6月号の記事