きめ細かい要員教育と顧客重視のアウトバウンド

(株)ファンケル

 化粧品通販大手の(株)ファンケルは1981年8月に設立。無添加化粧品の製造・販売を基盤に急成長を遂げ、今日では無添加化粧品のトップ・ブランドとして認知されている。
 1995年には栄養補助食品の通販事業にも参入。通販事業の一方、直営店舗「ファンケルハウス」を全国主要都市に77店舗(1999年10月現在)開設し、通信販売と店舗販売を両軸に積極的な販売戦略を展開している。また、1999年12月には、東証一部上場を果たした。1999年3月期の売上高(グループ連結)は約544億円、経常利益(同)は約103億円に上る。2000年3月期にはそれぞれ630億円、105億円に達すると予想される。また、アクティブ顧客数は1996年から急増、1999年3月現在、158万人を超えている。
 通信販売における利用媒体としては、テレビCM・新聞広告・雑誌のほか、カタログ情報誌「エスポワール」を年8回発行。発行部数は100万部に上る。商品内容だけでなく、顧客の評価・意見・要望や同社の経営理念や業績なども掲載することで、顧客との距離の短縮と、信頼関係の強化を目指している。
 また、新規顧客の開拓を狙って、洗顔セットを販売。容量を少なくし、価格を1,000円程度に押さえることで、はじめてでも気軽に試せるよう配慮している。
 同社商品の受注は電話のほか、ファクシミリ、はがき、インターネットでも行っている。配達は受注後2〜4日で可能。受け取り印が不要な「置き場所指定お届けサービス」により、受け取り時に家にいなければならないという不便を解消すると同時に、乳幼児が眠っていてチャイムを鳴らされたくないといった要望にも対応。代金回収はクレジットカード、銀行振込、郵便振替、代金引換、コンビニ払いで行っている。さらに、無期限の返品交換にも応じているのが特徴だ。

CTI導入で臨機応変な人員配置を実現

 同社における顧客対応業務は、テレマーケティング部が担ってきた。同部はインバウンドとアウトバウンドの2グループに分かれ、インバウンド・グループでは各種商品の注文や問い合わせを受け付け、アウトバウンド・グループでは同社の化粧品に関わる情報提供や、カウンセリングコール等でセールス・コールや既存顧客のリテンション活動を実施。今後は健康食品や出版事業の顧客も対象にしていくという。
 インバウンド・グループは1990年に開設された。コミュニケータはパート160名、正社員12名、派遣10名の計182名で構成され、110ブースを交替勤務でカバーしている。
 電話受付時間は9〜21時。休日は元旦のみ。コール数は、平日は1万件前後(繁忙期は最大1万8,000件)、土曜は6,000〜7,000件、日曜・祝日は5,500件を数える。
 コール内容では注文が9割を占め、そのほかは商品の内容や発送に関する問い合わせだ。平均通話時間は2分40秒。再注文の場合は約2分となっている。
 インバウンドで得た受注データは、本社(横浜市)にあるホスト・コンピュータに送られ、商品発送部門に回される。これらのデータは、ホスト・コンピュータを通してアウトバウンド部門にも送られるので、必要時には活用されている。
 また、インバウンド部門ではCTI機能を導入。処理手順は、①かけてきた顧客の電話番号を、ナンバー・ディスプレイ(発信者番号表示機能)により認識、②認識した電話番号を軸にIBMのサーバ「AS/400」を活用した顧客データベース(DB)で顧客情報を検索、③検索した顧客情報を該当ブースのパソコン画面に表示、④同時に同じブースの電話を接続、⑤コミュニケータは受注情報をダイレクト・インプット──という流れになっており、作業の効率化が図られている。
 着信呼はACD(着信呼自動分配装置)により、テナントごとに割り振られたブースのコミュニケータへ均等に接続される。また、対応が難しいコールについては、高度な応対スキルを備えたスーパーバイザーに転送するインテリジェント・ルーティングも採用している。
 インバウンドではさらに、月単位で着信予測を実施。予測に基づき応答に必要な人員配置を行っている。 
 また、購入回数や購入金額を基準に選んだロイヤル・カスタマーには、専用のフリーダイヤル番号をダイレクトメールで通知し、優遇サービスによる顧客維持を図っている。
 インバウンド業務では、顧客のさまざまな要望に応えられるよう、商品の内容や使用法など広い知識の修得に努めると同時に、心の通った応対を第一に考え、顧客ひとりひとりのニーズに合った的確な応対を目指している。

アウトバウンドの自動発信システム

コール・ブレンディングで効率アップ

 一方、アウトバウンド部門は1991年に開設。現在、コミュニケータはパート60名、派遣7名の計67名(うち14名は受発注の双方を担うブレンド・コミュニケータ)、社員6名、スーパーバイザー6名で構成されており、42ブースをシフト制でフルに活用している。
 同部門では従来、電話番号を手入力していたが、1999年1月からプレディクティブ・ダイヤリング機能付きの自動発信装置を導入。先方が在宅している場合はもちろん、留守番電話になっていても音声を感知すれば自動的にコミュニケータにつながるようにし、業務の効率化を実現している。
 具体的な手順は、まず、本社にある顧客DBに最新受注日や購入回数などの条件を加えてコール・データを作り、「Phone Frame」というプレディクティブ・ダイヤリング・システムに送られる。ここで行われているアウトバウンド業務には2つのタイプがある。ひとつは、Phone Frameから引き出された顧客情報を見ながら発信する「プレビュー・コール」。もうひとつは、データベースに登録された顧客に自動的に電話をかけて相手が出たときのみコミュニケータにつなぐ「プレディクティブ・コール」だ。前者では、相手が電話に出るまでの5〜10秒を待機時間として自由に設定することができ、その間、顧客の購買履歴や発送されたダイレクトメール(DM)の内容などを調べることで、顧客への効果的なアプローチを推進している。
 アウトバウンドとしては、「レギュラーコール」を、ファンケルの商品について3種類、同社の関連会社である(株)アテニアの化粧品について4種類発信。このほか、「イレギュラー・コール」として、ファンケルの事業ブランド関連商品などについての単発的なアンケートや案内コールを不定期に実施している。
 これらのほか、インバウンドでの着信数が多いときはアウトバウンドのコミュニケータが応援するコール・ブレンディング・システムを1999年4月から導入。顧客を待たせないよう人員配置を臨機応変に行うことで、受注業務の効率が向上した。
 顧客データは、本社にあるAS/400に蓄積。登録顧客数は167万人に上る。イレギュラー・コールでは紙ベースでコールの対象をリストアップするので、情報漏えいの可能性が高くなることから、紙の回収やシュレッダー処理を徹底することで、細心の注意を払っている。

(株)ファンケルのアウトバウンドのコールセンター

(株)ファンケルのアウトバウンドのコールセンター

新人からベテランまで各レベルで研修を実施

 コミュニケータの教育については、インバウンド、アウトバウンドで基本的に共通の研修プログラムを実施している。まず1日4時間の新人研修(集合研修)を5日間実施。最初の2日間はコミュニケータの役割などマインド面の教育とファンケル全商品の内容についての教育、3日目は業務知識の教育、4〜5日目はダイレクト・エントリーなどにともなう機械の使用法やロール・プレイングによる基本的な研修を行う。
 その後、ロールプレイングによる「フォロー研修」を継続実施し、一定のチェック項目をクリアしてはじめてブース・デビューとなる。デビュー後も、スキルの高いパート社員から選ばれた20名のスーパーバイザーが、各コミュニケータをマン・ツー・マンで1週間トレーニングする。
 実務開始後1カ月たつと、応用パターンを修得する集合教育による「フォロー研修」を実施。この終了段階でひとり立ちするという仕組みになっている。
 このほか、「テープ・ヒアリング」研修を実施。各自の実際の応対のやり取りの録音を聴かせ、その出来・不出来を自己採点させる。同時に、正社員やスーパーバイザーがいっしょに録音を聴いて、応対面のアドバイスを与えている。
 普段の応対状況はスーパーバイザーが常にチェック・シートに基づきモニターし、各コミュニケータの長所・短所を把握。モニタリングの結果は少なくとも2カ月に1回、コミュニケータにフィードバックしている。
 このほか、全コミュニケータを対象にした勉強会を毎月開き、新商品に関する商品研修、業務研修、マインド研修を行っている。
 インバウンドでは、高い応対スキルをもったコミュニケータを、優良顧客の担当である「ロイヤル担当」に当てることで、リピーターなど優良顧客のリテンションを実施。また、電話を受けた際には、最後に季節のあいさつを行うことで、顧客との心の通ったコミュニケーションの実現を目指している。
 また、顧客への自発的発信を行うアウトバウンド業務では、とりわけ豊富な商品知識と高いコミュニケーション・スキルが求められる。そこで、アウトバウンド向けにスキル・レベルに合わせた特別研修を行っている。まず、コミュニケータ向けに「スキルアップ研修」を実施。顧客からの肌に関する相談に対してアドバイスをするために、皮膚生理学の研修を行っている。その1カ月後、さらにフォローアップ研修を実施。トークの見直し、録音を使った「ヒアリング研修」も行っている。このほか、スーパーバイザー向けにさらに高いレベルの研修も行っている。
 また、顧客との電話でのやり取りでは、顧客の表情やしぐさが見えないので、つい笑顔を忘れがちになる。そこで同グループでは、各ブースに小さな鏡を置くことで、各コミュニケータが自分の表情を確認し、常に笑顔での対応を心がけるように指導している。
 アウトバウンド業務には従来、いわゆる「テレフォン・セールス」や「電話勧誘」といったマイナス・イメージがつきまといがちだった。そこで同社では、相手に対して用件を明確に伝え、承諾を得た上で話を進めるようにしている。そのため、「顧客が『迷惑電話』と感じるような事態はあり得ないと自負しております」と、飯塚清美・同社テレコミュニケーション部 テレマーケティンググループリーダーは強調する。
 営利企業である限り、最終的な目的は売り上げ・利益の増大にある。そういった意味では、発信時に同時に受注を得る「同時受注」は理想ではあるが、同社としてはあくまで顧客のリテンションに主眼を置き、割引キャンペーンなどの「お得な」情報の提供によって顧客に満足を与えることに徹している。
 また、同時受注に至らなかった顧客については、2カ月後の受注状況を定期的に調査している。これにより、同時受注に対し、2カ月後には常に4〜5倍の受注を確認している。

アウトバウンドの強化で顧客獲得を推進

 同社では今年から既存部門の統廃合と機能別の組織再編に着手する。これにともない、インバウンド業務は5月までにアウトソーシング化される。ただ、要員の教育・指導は引き続き同社が行い、企業理念の共有とともに、これまで培ってきたノウハウを与えることで、業務の継続性を保つ方針を採っている。
 一方、アウトバウンド・グループは5月から本社のテレコミュニケーション部に組み込まれ、従来の業務を継続することになった。
 同社は今後も、顧客満足度の最大化を最優先課題とする顧客第一主義を基本ポリシーとし、インバウンドとアウトバウンドの両部門の機動的かつ戦略的な連携を基盤にして、顧客満足度のさらなる向上を目指してサービスの充実を図る意向だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2000年4月号の記事