“美”の一大コミュニティの形成を目指す

(株)資生堂

立ち上げは社内のボランティア組織から

 (株)資生堂がホームページを開設したのは、3年前の1995年10月。当初コンテンツ(情報の内容)は、宣伝・広報的な意味合いの濃い、企業案内が主であった。開設に携わったのは、社内のマルチメディア研究会である。これは、宣伝部、広報室、経営企画部、情報システム部、国際事業部などの社内横断的な組織で、いわば“ボランティア”的存在。検討を重ねながら約半年かがりで、日本語版と英語版のホームページを立ち上げた。
 そして1998年4月からは、マルチメディア研究会に代わり、Webマスター連絡会が社内で正式に組織化された。Webマスター連絡会は、各部門から選出されたコンテンツ・マスター40名で構成されており、社長室が事務局の管理を行っている。このコンテンツ・マスターを、同社ではWebマスターと呼んでいる。同連絡会では、発足に当たってインターネット活用の際の社内での対応について記した「インターネット・ガイドライン」を作成した。このほか、メーリング・リストの活用、および月1回の会合で、協議、諸連絡などの情報を交換。メーリング・リストは、登録さえ行えばWebマスター以外の社員も閲覧することができる。
 一方で同社は、デジタルなネットワークによるリサーチに早くから取り組んできた。1993年、BBS(電子掲示板システム)を活用して、フリーアンサー方式の商品についてのアンケートを行い、顧客の意見を収集したのを手はじめに、1994年にはパソコン通信のNIFTY Serveを活用。OPENフォーラムで“落ちにくい口紅”の3社比較を行ったほか、掲示板においてテレカプレゼントを実施し、その応募者を同社がNIFTY Serveの会議室機能“Patio”で運営している電子会議室に誘導。電子会議では、同社と参加者間だけではなく、参加者同士も意見を活発に交わす「情報共鳴型」のコミュニケーション方法で顧客の商品に関する意識などを収集している。同社の商品開発関連部門の担当者もこの会議に参加。ここで得た生活者の意見を参考に商品の開発に取り組んでいる。1997年からは、ホームページ上でも登録制のメンバーズクラブを作り、会員を組織化。Eメールによる調査を開始した。Eメールの場合は、Eメールのヘビーユーザーであるほど返信率が高いという結果を得ており、何度も対話を繰り返す参加者は、単なる情報提供者の域を超え、同社の“ファン”に近づいていく。つまり、本来の目的はリサーチであるはずのEメールも、プロモーションに限りなく近いものになってくるわけだ。

さまざまな情報の収集・発信を可能にしている(株)資生堂のホームページ さまざまな情報の収集・発信を可能にしている(株)資生堂のホームページ

さまざまな情報の収集・発信を可能にしている(株)資生堂のホームページ

 同社のホームページ運営の仕組みは、各部署がホームページのコンテンツを決定し、宣伝部がそれを取りまとめて、ホームページ画面のデザインとコンテンツの管理、さらにはサーバ、顧客データベースの管理を行うというもの。宣伝部には、専任のスタッフが約10名と他業務との兼任スタッフが約10名そろっている。
 外部からのEメールは、すべてホームページ上にある部署ごとの電子メールポストで受信。メールの内容によって、直接担当部署が受け取るようになっている。問い合わせ先が特定できないEメールについては、コンシューマーズセンターで受け付け対応。各部署では、顧客への返信対応と同時に、届いたメールをコンシューマーズセンターに送信する。コンシューマーズセンターでは、それを同社が(株)東芝と共同開発した顧客の定性情報を蓄積・分析する専用システム「ボイスネットC」に入力。そこから全社へ情報をフィードバックしている。

店舗との連動を模索

 同社のホームページ・アドレスは、http://www.shiseido.co.jp。日本語版のほかに、英語、仏語、独語、伊語版があり、合計で月に1,000万件程度のアクセスがある。
 ホームページ上では、女性会員「プラスダブル(+W)」と男性会員「プラスエム(+M)」を登録制で組織化。会員になると、ホームページ上でのプレゼントの応募やゲームが楽しめる。会員は現在、3万2,000人。8割が女性である。この会員には、サイバーアイランドの新着情報を載せたダイレクトメールを月平均3回配信するほか、希望者には月に2回、美容情報からインターネットまで役立つ情報を掲載した電子メール・マガジンを配信している。電子メール・マガジンの1回の配信数は2,500通。
 同社では、現在もインターネットのあらゆる可能性を模索中であり、ホームページ上でいろいろな試みを実施しているが、最近では、20代女性向けの同社化粧品「ff(フフ)」ブランドのモニターをオープンに募集。約80名のモニターを集めた。これらのモニターに対する調査結果のサマリーをホームページに掲載することによって、顧客にも情報を還元している。この企画は、サンプリング、リサーチ、宣伝といった多くの要素を同時に実現しているのである。
 また店舗との連動も試みており、コンピュータによる肌分析に基づいて商品を紹介している同社の「コスメティックハウス」店でしか取り扱っていない商品を、ホームページで会員向けに宣伝・告知。店舗と同社マーケティング部内のネットワークを通じて情報の共有化と交換を図った。
 こうした動きは大阪でも行われている。たとえば、2月20日までの期間中、「ピエヌ」春の新製品キャンペーンを展開している店舗と連動。ホームページ上に店舗のMAPを掲載しているほか、顧客がホームページから登録すると、その店でサンプルがもらえるクーポン・チケットがプリントアウトできるキャンペーンを展開した。

インターネットはコミニュケーション形成のツール

 ホームページにおいて同社が目指しているのは“美容のポータル(portal)”、つまり“美に関することならここに”と思わせるサイトの構築である。
 同社にとってホームページは、ユーザーにとって必要な情報を提供する場であり、顧客とのコミュニケーションを築くための入口なのだ。同社の主力商品である化粧品は、非常にパーソナルな一面を持っている。個々の顧客により年齢、肌質などが異なるため、ひとりひとりが求める“美容情報”は実にさまざまだ。こうした顧客のニーズにはマスメディアだけでは対処しきれない。そこで同社では、インターネットを活用して、よりパーソナルでインタラクティブなサービスを提供していきたいと考えているのだ。将来的にはたとえば、顧客がホームページ上でサンプルを取り寄せたり、簡単なカウンセリングを受けられるほか、より詳細な情報を望む顧客には、原宿にある同社のショールーム「COSMETIC GARDEN C」や各店舗の窓口で対応するといった店舗とのより緊密な連携を図っていく意向。また、Eメールを活用した美容相談などを繰り返し、顧客とのパーソナルなつながりを強めることで、最終的には購買のために店舗まで顧客を導いていくような方向性を指向している。
 一方、同社は“美の文化の創造”に貢献する企業文化づくりを推進している。ホームページ上でも、同社が21世紀に向けて提唱する「サクセスフル エイジング?美しく年を重ねるために?」をテーマに、隔年で開催しているフォーラムの様子などを掲載しているが、今後、こうした“美”に関する幅広い情報発信にも力を入れていきたいとしている。
 このほか、同社ではグローバル化に目を向け、アジアだけでなく、米国なども視野に入れたマーケティング戦略を展開しているが、その中でインターネットを積極的に活用していきたいと考えている。インターネットは、従来の方法と比較してその効率性が極めて高い。インターネットはマーケティングにおける不可欠なツールになるだろうと同社では見ている。

同社の大阪支社では、ホームページと店舗の連動で「ピエヌ」春の新製品キャンペーンを展開。梅田、心斎橋、難波、天王寺地区の参加店の一覧表とそれぞれの店舗のマップを掲載

同社の大阪支社では、ホームページと店舗の連動で「ピエヌ」春の新製品キャンペーンを展開。梅田、心斎橋、難波、天王寺地区の参加店の一覧表とそれぞれの店舗のマップを掲載

名前や住所などのほかに化粧品についての簡単なアンケートを実施。情報を提供してくれた顧客には新製品のサンプルがもらえるクーポン・チケットを発行する

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月刊『アイ・エム・プレス』1999年3月号の記事