心身ともにアクティブな会員の“仲間づくり”のお手伝い

近畿日本ツーリスト(株) 

15年の歴史がある『旅の友』

 近畿日本ツーリスト(株)は旅行業界の中で最も通信販売に力を入れている企業だ。同社がメディア販売と呼ぶ通信販売の販売高は、総販売高の約17%に当たる1,325億円(96年度)。このうちの大部分を取り扱っているのが、首都圏・中部・関西を中心にメディア販売を展開しているクラブツーリズム事業本部である。
 同社が通信販売を開始したのは1980年。東京・渋谷営業所が手がけたのがはじまりだ。1986年には東京営業本部内に東京メディア販売事業部ができ、これが93年に事業本部に昇格。96年夏、東京メディア販売事業本部をクラブツーリズム事業本部と改称した。今年1月にはそれぞれ同様の事業を担ってきた名古屋、大阪のメディア販売担当部署を統合し、現在に至っている。
 通販の主力媒体は実績顧客に月1回、配布する会員誌『旅の友』。ほかに新規顧客開拓のために、新聞・雑誌にも通販広告を出稿している。『旅の友』は1983年にタブロイド版でスタートしたが、現在では国内外のパッケージ・ツアーや旅行情報を満載した、B5判、約280ページのボリューム感のある情報誌に成長している。東京・名古屋・大阪地区の顧客に210万部を配布しており、その家族を合わせると400万人がこのカタログに目を通している計算だ。
 ちなみに同社では、数年前に『旅の友』の第三種郵便物の認可を取り下げたのを機に、一都三県に配布する160万部のうちの約85%については、自らも会員である“エコースタッフ”が宅配する方式を採用した。エコースタッフは自宅に届けられる100〜200部の『旅の友』を配付先リストにしたがって宅配した後に、配布状況、住所や名前などの会員データの変更、および、『旅の友』や商品企画についての会員の要望をレポートにまとめて提出する。これによってより多くの会員情報がいちはやくフィードバックされるという効果が上がっているため、近々名古屋、大阪地区でも同様の配布方法を採り入れていく意向だ。
 同社の顧客は50代、60代が最も多く、50代以上で約60%を占める(図表1参照)。旅行頻度が最も高いのも、これら熟年層だ。そこで『旅の友』にも、熟年を意識して企画されたパッケージ・ツアーが多数登場している。
 申し込み、および問い合わせは首都圏の5カ所と、名古屋、大阪を合わせて計7カ所のセンターで受け付けている。ライブ・オペレーションによる受け付けが主体だが、日帰りバスツアーを対象とした24時間対応の音声自動応答装置も設置しており、その受付比率も徐々に増えてきている。
 十分な情報を集めて自宅でじっくり検討した上で、電話1本で手軽に申し込める通信販売は、「顧客の年齢にかかわらず、旅行販売の主流になりつつある」(総務部 広報担当 主任 廣島隆氏)と同社では認識している。

旅の友写真

旅行情報が満載された会員誌『旅の友』

旅の友会員年齢分布

仲間づくりを応援!「クラブツーリズム」

 しかし、同社が推進するクラブツーリズム事業は、単なる旅行の通信販売ではない。
 同社では95年から「クラブツーリズム宣言」をうたっているが、これは会員の“仲間づくり”をトータルにサポートすることを目指し、「出会い」「感動」「学び」「健康」「安らぎ」を柱とした商品・サービスの開発・提供を行っていくものだ。
 「通信販売が“線”のコミュニケーションだとすれば、クラブツーリズムが目指すのは“面”のコミュニケーション」(廣島氏)。同社と個々の会員、あるいは会員同士が、旅行ばかりでなくイベントやクラブ活動などさまざまな機会を通じてコミュニケーションを深めることを目的に、ひとりひとりの会員が主体的に関わり合う、全員参加型の活動を推進している。
 具体的な活動のひとつとして、同じ趣味・嗜好を持つ会員同士の交流の場であるクラブが挙げられる。写真、ダンス、祭り、焼き物、ハイキング、登山、あるいは国際文化交流などをテーマとしたさまざまなクラブが設けられており、テーマに沿った旅行はもちろん、月例交流会やセミナーなどのミニイベントを通じて会員間の親睦が図られている。これらのクラブの運営は、企画・販売・添乗・コミュニケーションなどのトータル・プロセスに関わる“仲間づくりのプロデューサー”、フレンドリースタッフの担当だ。また、「バリアフリー」「途上国支援」「歴史・伝統文化の継承」といった社会貢献をテーマとしたツアーを通じて、それに共鳴する仲間たちの輪が広がっている。

“品質”にこだわった「熟年の旅」

 一方、同社丸の内倶楽部(旧・丸の内海外旅行支店)では、1981年から、経済的にも時間的にもゆとりのある熟年層向けのパッケージ・ツアー「熟年の旅」を企画・販売している。
 「熟年の旅」のキャッチフレーズは“同年輩同士で行く気軽な旅”。観光スポットを駆け足でめぐるハイライトツアーとは異なり、旅行期間を10〜14日間前後と長めに設定、訪問地を自分の目でじっくり楽しむタイプの商品が主流である。
 熟年層の中にはすでに何度も海外旅行を経験している旅のベテランが多い。彼らが重視するのは「“どこに行くか”より、“何をするか”」(廣島氏)だ。そこで「熟年の旅」は、特にテーマ設定に知恵を絞って企画されている。たとえばチューリップが咲き乱れるオランダの花公園が目玉の「オランダ・ベルギー・ルクセンブルク花の旅12日間」、何カ所もの古城を訪れる「ドイツとオーストリア古城の旅12日間」、アメリカを代表する国立公園を訪れる「アメリカ5大国立公園とモニュメントバレー12日間」といった具合だ。
 「心身ともにアクティブな熟年層」(廣島氏)の海外旅行選びの最大の基準は、和食が組み込まれているか、言葉の不自由のない日本の航空会社を使っているか、荷物の宅配サービスがあるかといったことばかりではない。彼らのどん欲な知的好奇心、活動意欲を満たせるかどうかが勝負なのだ。宿泊ホテルや食事など旅行に組み込む“素材”は、決して“豪華”という意味ではないが、テーマに沿ったクオリティの高いものが選ばれる。中心価格帯は30万円台後半から50万円台と、通常のパッケージ・ツアーより高めだ。

旅の友会員年齢分布

会員誌『丸の内倶楽部』

 「熟年の旅」参加者の平均年齢は63歳。これらの参加者は「丸の内倶楽部」会員として登録される。「丸の内倶楽部」はこれまで有料のサークルとして運営されており、すでに約1万人の会員がいるが、今春からは無料登録制にして間口を広げた。会員には月1回発行の会員誌『丸の内倶楽部』を送付、誌面で「熟年の旅」などの商品や海外情報を紹介するほか、会員が撮った写真や手紙を掲載して会員相互のコミュニケーションを促進している。また、支店名を丸の内倶楽部と改めた今年1月、ツアーデスクを帝国ホテルに隣接するインペリアルタワー12階に移転した。ここには広々とした会員専用サロンがあり、会員同士の交流を深める場として活用されている。
 本物を見る目を備えた熟年層は、通りいっぺんのサービスでは満足しない。彼らのニーズに応える質の高い商品・サービスで、「健康で豊かな高齢化“文化”に貢献していきたい」(廣島氏)と同社は未来を標榜する。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年4月号の記事