ゆとりある世代に向けたスペシャル・カタログ「浪漫派」
通販開始から今年で100年。96年度の通販売上高430億円の(株)三越の中心顧客層は50代の女性。50代以上の熟年層で、通販顧客の50%以上を占める。
同社ではゼネラル・カタログ『三越カタログ』のほか、若い女性向けのファッション・カタログ『ミズ・スタイル』、大きいサイズの『13UPS』、服飾雑貨の『手もと足もと専科』などのスペシャル・カタログを合わせて8種類の通販カタログを発行している。その中のひとつ、熟年男女向けの『浪漫派』は1989年の創刊。現在、夏と冬の年2回、各50万部が発行されている。年間7回、各80万〜120万部を発行している『三越カタログ』の実績顧客の中から、ターゲットとなる年齢層に該当し、購入頻度の高い優良顧客をセグメントして、『三越カタログ』と同送。また、『三越カタログ』誌上で『浪漫派』のカタログ請求を募り、希望者に送付している。
『浪漫派』のターゲットは、子育てを終え、定年を迎えて、2人でゆとりある生活を楽しんでいる熟年夫婦。婦人・紳士アウターウェアを中心に、ジュエリーやルームウェア、生活雑貨などを取り揃えている。カタログの体裁は230mm×297mm、40ページ前後。中心価格帯は、たとえば婦人ワンピースで1万5,000〜2万5,000円と『三越カタログ』よりやや高めで、その分、カタログ当たりの客単価も高い。60〜70代女性の利用が多く、婦人アウターウェアと、シャツ、ポロシャツなど紳士物のベーシック・アイテムを併せて注文するというのが平均的な購入パターンだ。品質を重視した掲載商品はほとんどがこのカタログのためのオリジナルで、これに一部、ブランド商品が加わっている。
利用者の居住地域は首都圏とその他の地域が約半々。優良顧客に対してカタログを送付していることもあり、リピート率は非常に高いという。
『浪漫派』97年夏号。ゆとりある熟年夫婦の洗練されたファッションが提案されている
シーン別にトータルな商品提案
『浪漫派』のターゲットは、主軸の『三越カタログ』と同じく、50代以上の女性。中心顧客層とのコミュニケーションの「密度を上げる」(通信販売事業本部 営業推進部 部長 熊山修氏)、すなわち2つのカタログの相乗効果によって客単価向上を図るのがカタログ展開の目的だ。そこで、『三越カタログ』とは異なるコンセプト、異なるアプローチで商品提案を行う必要があるわけだ。
全体の約8割を占めるアパレル商品は、素材を吟味するのはもちろん、たとえばかぶり物よりボタン開きの着やすいデザインを採用するなど、ディテールにこだわって企画される。売れ筋は「夏なら吸汗性、冬なら保温性に富むといったように着心地に優れたもの。また、プリントのワンピースやブラウス・スーツ、ケミカルレースのカーディガンなど、着る人の年齢や体型を選ばないオーソドックスなデザインが好まれています」(通信販売事業本部 営業推進部 営業統括担当課長 計良雅代氏)とのことだ。
サイズ展開は、たとえば婦人物では商品にもよるが9〜17号の5サイズ、M、L、LLの3サイズなど、『三越カタログ』と同様に幅広い。これに加えてパンツなどでは、やや太り気味のお客様にもフィットするように、同じウエストサイズの商品に2パターンの股下サイズを用意するといった配慮をしている。
商品の見せ方にも工夫がほどこされている。そもそも通販は、「その場で顧客の意向を聞きながら販売員が商品をお奨めする店頭販売と異なり、(まず企業側が)発信したい情報を的確に伝える必要がある」(計良氏)販売手法であるが、特にスペシャル・カタログでは、商品そのものの魅力に加えて提案のしかた、コンセプトが重要な意味を持つ。単品中心の『三越カタログ』に対して、『浪漫派』では「旅行」「タウン」などのシーンを設定、そこに登場する商品をトータルでコーディネート提案するのが基本。これは、若い層が「ブラウス」「スカート」といったように必要アイテムを絞って商品を選択・購入する傾向が強いのに対し、熟年層は「春先に旅行に出かけるのだけれど、何を持って行ったらいいかしら」と、ある特定シーンに沿って商品購入計画を立てる場合が多いことに対応したものだ。アイテムにこだわらずにトータルな商品提案ができるのは、通販の強みでもある。
また、原則的にすべての商品についてモデル着用の写真を掲載。コーディネート例を提示する。まめに店舗に足を運び、日頃から雑誌やカタログを目にして豊富な商品情報を得ている若い世代と違い、熟年層は商品を単品で見せられても着こなしのイメージを具体的に描きにくいためだ。このモデルの選定にも気を使う。「モデルが若すぎると『私には関係ない商品だわ』と思われてしまう。しかし逆に年齢層が高すぎると、反発を招く可能性があります」(計良氏)。熟年層の心理は微妙なのだ。
商品説明はわかりやすくていねいに。また、文字は通常のカタログより若干大きめになっている。
高年齢層には通販利用者が少ないという声も聞かれる中で、(株)三越の通信販売は50代を中心とした熟年層に支持されてきた。繰り返し通信販売を利用し、その商品やサービスに満足している顧客は、60代、70代になっても通販を利用し続けるだろう。また、店頭に足を運ぶ回数が減ってくる高年齢層の三越ファンの受け皿としても、『浪漫派』は大きな役割を果たしていくに違いない。