赤ちゃんのいる “家庭”に照準

(株)赤ちゃんファミリー市場研究所

“お母さん”の良き相談役に

 子どもが生まれることによって、生活環境は大きく変化する。子どもに安全な食品を与えたい、環境のいい広い家に引っ越したい、自家用車を買いたい …。「今、ベビー市場の規模は 2 兆円とも言われていますが、赤ちゃんが生まれることにともなうこれらの出費を含めれば、その数倍になるはず」と(株)赤ちゃんファミリー市場研究所 代表取締役社長の大久保忠男氏は語る。新しいニーズが生まれると同時に、購買の決定権が世帯主から妻に移行するケースも多い。その妻は、切実に信頼できる情報を求めており、しかもこの時期は仕事を離れて家庭にいる。的確な情報発信をすれば、非常に高いレスポンスが期待できる層なのである。このような観点から、同社は一貫して“赤ちゃん”ではなく、赤ちゃんのいる家庭、すなわち“赤ちゃんファミリー”に照準を定めて事業を展開してきた。
 同社の設立は、大久保氏が某シンクタンクの顧問として1990年3月から1991年3月までの13カ月間、ベビー市場の研究に携わったことに端を発する。同社はそこで作成された「マザーズクラブ」のモデル・プランを実現すべく、1991 年 5 月に誕生したのである。
 同社では、会報を通じて支援企業の商品・サービス情報を赤ちゃんを持つ母親に伝える「マザーズクラブ・プロジェクト」のほか、商品サンプルをパックにして届ける「手渡しパック」、同社が企画したプロジェクト内容、裏付けとなるデータ、参画方法を企業に向けて発信する「若ママ市場プロジェクトレポート」、松下電器産業(株)と共同で企画・運営している子育てママ向けインターネット・プロジェクト「ママのひろば」、赤ちゃんファミリー市場に関する商品・販売政策のプロデュース、およびコンサルティングを行う「事業コンサルティング」などを展開している。

「マザーズクラブ」のカタログ情報誌。見やすい誌面で、ひとつひとつの商品について、詳しい説明がなされている

「マザーズクラブ」のカタログ情報誌。見やすい誌面で、ひとつひとつの商品について、詳しい説明がなされている

会員と企業、双方の利益を追求

 「マザーズクラブ」では年 2 回、B5 判 32 ページ程度の情報カタログを毎号 50 万部作成。全国 15 カ所の地区運営本部を通じて配布している。地区運営本部は主に通販、レンタルなどのベビー用品専門企業。これらの企業が全国の病院・産院約 4,500 カ所の専用コーナーを通じて、妊産婦に配布する。この情報カタログには、赤ちゃんファミリーの役に立つ商品情報のほか、「マザーズクラブ・パスポート会員」募集告知が掲載されている。
 「パスポート会員」になるには入会金 3,000 円と月額 500 円の会費を 1 年分、計 9,000 円が必要(ただし、現在は入会金無料キャンペーンを実施中)。各地区運営本部を通して申し込む。会員特典は① 24 時間無休の育児電話相談窓口「赤ちゃん緊急ホットライン」の利用、②全国のお母さんサークルの紹介、「自己紹介誌 友だちさが誌」の配布、パソコン通信「マザーズネット」などによる“友だちづくり”情報の提供、 ③在宅ビジネスに関する情報提供、同クラブのエリア・スタッフ募集などの“わたしの仕事”情報の提供、④マタニティ・コンサート、セミナー、ペンション、ベビーシッター・サービスなどの割り引き、⑤ 教育、美容、趣味などについて専門家が個別に電話相談に応じる“いろいろアドバイス”の利用、⑥会員証、ガイドブック、年 4 〜 6 回発行の会報「マザーズクラブ通信」の送付。現在の会員数は、誌上通販の実績顧客である“準会員”を含めて 3 万数千人だ。「マザーズクラブ」では約 1,000 の協力団体や支援企業を「子育て支援ネット」として組織。この組織が情報カタログ、ガイドブック、会報などの媒体を通じて、赤ちゃんファミリーに商品・サービス情報を提供する。
 たとえば現在配布中の情報カタログ「vol.4」には、赤ちゃんを持つ母親のための化粧品、オーガニックコットンを使用した衣料品など、13 の企業・団体が約 90 アイテムの商品を紹介している。それぞれのページに商品に関する問い合わせ先の電話番号を記載。輸入品など一部の商品についてはマザーズクラブお客様相談室の電話番号を告知し、同クラブ事務局が対応している。通信販売の申し込みは、担当の地区運営本部を通して行う仕組みだ。
 カタログ掲載商品の中には、同社が協力・支援企業と共同で開発したものも数多い。同社では会員に向けて、定期的にアンケートを行っているが、ここに寄せられる声が商品開発のヒントになっている。
 たとえばマタニティ専用化粧品「ライフメッセ」。妊娠中のからだの変化についてアンケートをとったところ、回答者のうち約 80%が何らかの悩みを抱えていることがわかり、「妊娠線をできにくくする」「脚のむくみをとる」など、悩み別に 5 アイテムの商品を開発した。また、色彩心理研究家の末永蒼生氏が作ったヒーリングぬり絵「色彩楽」には、妊娠中、あるいは小さな赤ちゃんを持つ女性のために、郵送による「パーソナルアドバイス」を付けて販売している。ベビー寝具や衣料品に用いられているオーガニックコットンは、同社が海外企業と共同で開発したものだ。
 このようにオリジナル商品が多いことに加え、ベビー用品についてはまだ日本で紹介されていない海外製品など希少価値の高いものを選定、また、そもそも“赤ちゃん”ではなくそのファミリーに照準を合わせた品揃えをしているため、地区運営本部が取り扱っている商品とバッティングすることはまずないという。現在のところ妊婦と 0 歳の赤ちゃんがいる家庭を対象とした商品が主だが、対象を徐々に幼児まで広げていきたいと同社では考えている。

販促メディア「プレゼントマム」を創刊

 前述のように同社では「マザーズクラブ」のほかにも赤ちゃんファミリーに向けたいくつかの事業を手がけてきたが、この 5 月には販促メディア「プレゼントマム」を創刊する。1 品目 1 社を条件に参加企業を募り、A4 判 16 ページ程度の情報誌に商品情報とアンケートを掲載。アンケートは料金受取人払いで、切り取って折りこみ、のり付けすればすぐ投函できるタイプで、資料請求用紙も兼ねている。期日までに返送すればプレゼントが当たるというインセンティブを付けてレスポンスを促進し、アンケート回答者には資料やサンプルなどを送付するとともにアウトバウンド・テレマーケティングでフォローするというプログラムだ。
 「プレゼントマム」は地区運営本部を通じ、0 歳の赤ちゃんがいる家庭に約 1 カ月間で 3 万件配布する。料金は編集費、掲載費、配布費を含めて 1 件当たり約 20 円に納めることができるという。また資料請求を募る場合には、資料請求受付、資料送付、テレマーケティングまでを同社が一貫して代行し、料金は 1 件当たり 650 円だ。
 同社では地区運営本部、協力団体・支援企業、各分野の専門家のネットワークを通じて、赤ちゃんファミリーにとっての生活環境作りに貢献するとともに、市場拡大を実現しようとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年5月号の記事