就学前児童を対象に「こどもちゃれんじ」を開講
(株)ベネッセコーポレーションは、設立 40 周年に当たる 1995 年に、旧(株)福武書店から社名を変更した。ベネッセは、ラテン語の「ben(e 良く)」と「esse (生きる)」を合わせた造語。その名の通り、教育、文化、福祉を3つの柱に、通信教育、出版、保育施設や介護サービスの展開など、赤ちゃんからお年寄りまでを対象に、ひとりひとりが人生をより良く生きるための事業を幅広く手がけている。
中でも「進研ゼミ」に代表される通信教育は、事業の中核。1969 年に高校講座、1972 年に中学講座、 1980 年に小学講座を開講して対象年齢を広げてきたが、1988 年には 5 〜 6 歳児を対象とした「こどもちゃれんじ じゃんぷ」を開講。4 歳、3 歳…と段階的に低年齢児向けのコースを開設し、1996 年 2 月には 1 〜 2 歳児向けの「こどもちゃれんじ ぷち」をスタートさせて、就学前の乳幼児を対象とした「こどもちゃれんじ」全 5 コースのラインナップが勢揃いした。
“赤ペン先生”による親身な添削指導が中心になる小・中・高校生講座と異なり、乳幼児が対象の「こどもちゃれんじ」では親子のコミュニケーションが重要な要素。まだひとりでは読み書きが不自由な子どもが、母親をはじめとする家族のサポートを受けながら、新しい体験を積み重ねていけるような教材作りがなされている。
1 〜 6 歳のそれぞれの発達年齢に合わせて用意された教材には、毎月届けられる絵本と、母親のための子育て情報誌、会員(の家族)からの郵送による育児相談に同社の専門スタッフが回答する「おやこ相談室」のほかに、ビデオや玩具などがセットされている。統一キャラクターであるトラの“しまじろう” も、会員の発達年齢に合わせて少しずつ成長した姿で登場する。
4 〜 5 歳児向けの「すてっぷ」1 月号以降は、提出課題が付く。ここから会員本人と同社の 2WAY コミュニケーションがはじまるわけだが、添削の際には“正解”“不正解”よりも、最後まで課題に取り組んだこと、提出したことを徹底的に誉めることを主眼としているという。
ダイレクトメールが“営業マン”
「こどもちゃれんじ」新規会員獲得のために活用している媒体は、テレビ CF、雑誌広告と、ダイレクトメール。
テレビ CF に関しては、1993 年 12 月から週 1 回、同社がスポンサーになりテレビ東京で放映している、教材のキャラクターである“しまじろう”が主役のテレビアニメ「しましまとらのしまじろう」では年間を通して、また、新年度スタートを控えた秋から春にかけては、ほかの子ども番組などでも流す。現在は 1 〜 6 歳児向け全 5 コースと、1 歳児対象の「ぷち」のみを紹介する 2 バージョンの CF をオンエア中だ。
雑誌広告は同社発行の『たまごクラブ』と『ひよこクラブ』に、いずれも不定期に出稿している。
「ダイレクトメールが当社の営業マン」(幼児通信教育部 業務・マーケセクションチーフ 渡辺恵子氏)。ダイレクトメールには申込専用ハガキを同封。教材についての正しい理解を促進するため、パンフレットには写真や教材に使用されているイラストをふんだんに用い、会員から寄せられた体験談を多数掲載している。シール遊びなど、子どもが実際に試してみることのできる教材見本も同封する。重点月などには、「× 月 × 日までにお申し込みの方には○○をプレゼント」といった入会特典を付ける場合もある。
入会申込は、同封の申込専用ハガキのほか、フリーフォンの電話と FAX で受け付けている。電話の受け付けは平日の午前 10 時から午後 8 時まで。申し込みはハガキによるものが最も多いが、年齢が低いコースになるほど電話が多くなる傾向がある。「小さいお子様を持つおうちの方は、落ち着いてハガキに記入する時間のゆとりがないためではないか」(渡辺氏)と同社は見ている。
こうして獲得された会員は、「ぷち」スタート前の 1995 年 4 月時点で合計約 71 万人、1996 年 4 月時点では全 5 コース合計で約 102 万人となった。
会員からの問い合わせを受け付けるのは、申し込みとは別番号のフリーフォン。ほかに、教材についての意見や要望についての郵送アンケートを毎月実施している。
1996 年 4 月現在、小学講座の会員数は約 128 万人、中学講座が約 95 万人、高校講座が約 45 万人で、「こどもちゃれんじ」を合わせた進研ゼミの会員は合計で約 370 万人に上る。5 〜 6 歳児向けの「じゃんぷ」会員には、年度末が近づくと、小学講座の担当スタッフによるダイレクトメール作戦がスタートするのである。
さまざまな工夫がほどこされた「こどもちゃれんじ」のダイレクトメール。封筒の隅々まで利用して、教材についての理解を促進する
『たまごクラブ』『ひよこクラブ』を発刊
「こどもちゃれんじ」スタートの 5 年半後に当たる 1993 年 10 月、同社出版部では妊婦とベビーを持つ母親のための 2 つの雑誌、『たまごクラブ』と『ひよこクラブ』を創刊。さらにその 3 年後の 1996 年 9 月には、3 歳までの子どもを持つ母親のための雑誌『たまひよ こっこクラブ』を創刊した。進研ゼミとはまったくの別事業であるが、そこで培われた 2WAY コミュニケーションのノウハウを 100%生かした、徹底した読者参加型の誌面作りがなされている。
発行部数は『たまごクラブ』が 26 万部、『ひよこクラブ』が 34 万部、『たまひよ こっこクラブ』が 27 万部。媒体の告知はテレビ CF、新聞広告、3 誌に互いに出稿し合う広告と、「こどもちゃれんじ」の会報上で行っている。また、『たまひよ こっこクラブ』創刊時には、『たまごクラブ』『ひよこクラブ』の読者アンケート回答者の一部に、発売日の 3 〜 5 日前に届くように案内を送付した。
同社出版部がマタニティとベビーに着目したのは、「多くの女性が、今、出産は人生の中で最も印象に残るできごとととらえているから」(出版部 雑誌事業部門 広報・宣伝 兼 マーケティング担当 中安智香子氏)。「たま・ひよ・こっこ」は、誰にとっても感動的な出産・育児体験を、読者と編集部、また読者同士が生の声で語り合う“井戸端会議”の場。育児の専門家が難い言葉で「あぁしなさい、こうしなさい」と言うのではなく、有名人が登場して一 生活者の日常とかけ離れた意見を述べるのでもない。友だち感覚で、飾らない言葉で伝えられる等身大のリアルな情報が、多くの女性の共感を呼んでいる。
読者参加の方法は、①毎号本誌に綴じこまれている読者アンケートへの回答、②フリー、もしくは特集の企画などに連動したテーマについての投稿、③モデルとしての誌面に登場、④半年契約の「ママ記者」になり誌面作りに関与する、など。これらはすべて誌面で参加を呼びかけており、郵送によるレスポンスは 1 誌につき「段ボール数箱分」(中安氏)、数万件におよぶ。「ママ記者」は 1 誌につき常時 100 人を組織。記事に絡んだアンケートやインタビューに応えたり、地域の話題を提供するなどの役割を担う。
また、読者のページには、読者からの“ペンフレンド募集”や“サークル会員募集”の告知がいくつも並ぶ。「来月にはたまごクラブを卒業して、ひよこクラブに入学です」などといった、雑誌(=同社)への強い帰属意識を表す文面の便りも数多く届けられている。電話で気軽に意見や質問を寄せられるように、平日の午前 10 時から正午までと、午後 1 時から 5 時までの問い合わせ受付窓口「たま・ひよホットライン」も用意しており、こちらにはモデル応募の詳細などについて、月に平均 1,000 件近くのアクセスがある。ほかにも随時、郵送でアンケートを実施している。
読者との双方向の雑誌作りを推進する同社では、広告表現においても読者の参加を促進。読者から我が子のユーモラスな仕草を納めたホームビデオを募集し、これを昨年 9 月から今年 3 月までの 7 カ月間、 15 秒のテレビ CF の中で紹介したのだ。毎月 2 〜 3 人のビデオを入れこんだ CF を制作、合計約 20 人の読者がブラウン管に登場した。
もうひとつ、読者とのダイレクトなコミュニケーションとして、誌上通販が挙げられる。『たまごクラブ』『ひよこクラブ』では創刊約 1 年後から、『たまひよ こっこクラブ』は創刊当初から、約 4 ページの自社通販広告「たまひよエクスプレス」を掲載。商品は 1,000〜 3,000 円台が中心のインポート物のベビー・子ども衣料、アイディア小物などのほか、オリジナルキャラクターが付いたランチセットやトートバッグなどのオリジナル商品も約半数を占める。この通販は人気、売り上げともに上昇を続けている。
読者アンケートの結果で見る読者の平均像は、全国平均より約2歳若い25〜27歳で結婚、出産を経験し、現在 1 人の子どもを持つ専業主婦。出産・育児をポジティブにとらえる、明るく元気な母親たちである。
母親の思考・行動スタイル、子育てに対する意識は刻々と変化している。「読者に遅れないようにするのが大変」(中安氏)なのが現状。しかし読者のニーズをもとに誌面を作り続ける限り、「たま・ひよ・こっこ」が読者の支持を失うことはないだろう。
『ひよこクラブ』『たまごクラブ』『たまひよ こっこクラブ』では、オリジナル商品などの通信販売を展開