ギフト・マインドを誘う大きなバラの花束
(株)ウェルネスは 1993 年の設立。『週刊朝日』『週刊新潮』などの週刊誌や、『ビッグコミック』などの男性コミック誌を中心に、約 15 の雑誌に年間合計約 100 回、バラの花束を訴求するカラー 1 ページ広告を出稿して新規顧客を開拓しているフラワーギフト通販企業だ。年商は初年度が 5,400 万円、次年度 1 億 5,000 万円、3 年目の 1995 年度が 2 億 4,000 万円、そして 1996 年度は 3 億 5,000 万円(見込み)と急成長を続けている。
同社の代表取締役社長の長澤真也氏は、百貨店で販売促進を担当した後、卸しからフラワーアレンジメントの教室まで、花に関するビジネスを幅広く手がける商社に身を転じた。百貨店で「いかにコスト・パフォーマンスの高い商品を揃えるか」に心を砕いてきた長澤氏の目に、フラワー業界は「売り手のわがままがまかり通っている不思議な世界」と映った。
たとえばカーネーションの価格は、母の日間近になると 3 倍に跳ね上がる。しかし母の日のギフトはカーネーションでなくてもいい。価格の高さ、不安定さは、長い目で見れば“花離れ”を引き起こす原因になると長澤氏は考えた。また花の品質も、「茎が長いほうが高級品」といったように、一般生活者の感覚からはかけ離れた基準で測られる場合が多い。茎の長さよりも鮮度にこだわった、品質の高い花を届けたい。
そこで長澤氏は生産者との契約に基づき、通年同じ価格で、産地から生活者に直接、鮮度の高い花を届けるシステムを考案。この事業化のために商社を退き、(株)ウェルネスを設立した。「自分の作りたい花を、作りたいように作り、少しでも高い値を付けたい」と考える生産者が多い中、パートナー探しは決して簡単ではなかったが、同じ想いを持つ静岡県のバラ農園と出会い、事業をスタート。たまたまギフト商品として人気の高い“バラ”の仕入れルートを確保できたことで、同社はギフトに照準を合わせたマーケティングを展開していくことになる。
同社では安いバラを単に安く売ろうとは考えなかった。産地直送の鮮度の高いバラを、ゴージャスな大きな花束にまとめた。花束は 20 本 5,000 円から用意されているが、売れ筋は雑誌広告のアイキャッチにも使われている「50 本 10,000 円」のもの。50 本と言えば、通常、生産者が市場に卸す最小ロット。これをそっくりそのまま、ギフトにしてしまおうというわけだ。
宝飾品、美術品…ギフトの選択肢は幅広い。大切な人をどんな贈り物で喜ばせようかと考える時、「これだけのボリューム感があってこそ、その候補リストにノミネートしてもらえるわけです」と長澤氏は言う。
顧客の70%が男性
同社のターゲットはギフト・マインドあふれる男性。前述のように男性誌を中心に広告出稿を行っていることもあり、実際に顧客の約 70%が男性だ。年齢は 20 代から 50 代まで、ほぼ平均している。特に利用回数が年間 10 回以上に上るヘビーユーザーは、交友関係の広い高年齢層に多い。また顧客の中には、芸能人も多いという。雑誌広告へのレスポンスは 1 回当たり 50 〜 300 件。顧客数は毎年約 1 万人ずつ増加し、現在、約 7 万人を数える。1 年間に獲得された新規顧客約 1 万人から、次年度には約 7,000 件のリピート・オーダーがある。また、初回注文の 2 年後に 2 回目の注文をするといったパターンも多いという。総売上高に占める新規注文とリピート・オーダーの割合は約 5:5。同社では、顧客数の増加によって、これが 3 年後には 2:8 になると見ている。平均客単価は約 1 万円だ。
(株)ウェルネスの雑誌広告。内容は年に 1 〜 2 回の割合で変更している
新規顧客開拓を目的とした雑誌広告で訴求するのは、バラの花束のみ。その請求書に同封する 213mm ×104mm、16 ページのカタログには、そのほかバラのアレンジメントや鉢、ユリ、チューリップ、胡蝶ラン、観葉植物に加え、ジュエリーも掲載している。しかし何と言っても人気はバラで、総売上高の約 90%を占める。
またギフトのほかに、自家需要を狙った頒布会「ウェルネスローズ倶楽部」を組織。「バラ」と「ユリ&チューリップ」の 2 種があり、それぞれ 20 本コースが毎月 4,500 円、30 本コースが 6,300 円だ。だが、数百人いる会員のうち 1/3 は、これをギフトとして利用。ギフトが占める割合は、総売上高の約 95%に達している。
カタログは毎年 3 月に発行する 1 年間有効の「ザ・コレクション」のほか、6 月発行のサマーギフト・カタログと 11 月発行のウィンターギフト・カタログがあり、発行部数は「ザ・コレクション」が 7 万部、ほかは各 4 万部。過去 2 年半の間に購入歴のある顧客全員に郵送している。
受注は現在、電話が約 60%、FAX が約 25%、ハガキが約 7%、残りがインターネットや販売代理店によるものとなっている。電話の受け付けは年中無休で午前 9 時から午後 9 時まで。現在のところ東京 1 カ所で、100%アウトソーシングにより行っている。お届け先や用途をおうかがいし、また、同封するメッセージカードを個別に作成しなければならない場合も多いため、平均通話時間は約 5 分におよぶ。
顧客との定期的なコミュニケーションは、カタログの郵送のみ。ギフトは「突然に必要になるもの。顧客の事情を克明に把握できない以上は、こちらから売り込むことはできない」(長澤氏)と考えているためだ。商品、サービスの情報はあまねくお届けし、あとは顧客からの反応を待つという姿勢に徹している。
カタログ「ザ・コレクション」の 1997 年版。ジュエリーも好調な成績を上げているという
売れる時期には“売らない”
たとえば男性が妻へ贈り物をする機会は、「誕生日」「結婚記念日」「クリスマス」「ホワイトデー」と年間 4 回ある。よほどバラが好きな相手なら別だが、1 度バラを贈ったら次回は別の花を、あるいは、ほかの品物を、と考える男性が多いはずだ。そのニーズに応えて、同社では取扱商品のバラエティを増やしてきた。さらに同じバラでも色のバラエティを拡大し、また、最大 12 品種のバラをひとつの花束にするなど、オリジナリティの高い商品を開発している。かなり大きなフラワーショップでも常時 10 種類以上のバラを揃えているところは少ない。ましてや産地は、 1 カ所で 2 〜 3 品種を栽培しているところが大半。1 カ所の産地で何品種ものバラを揃え、出荷するのは容易なことではない。
静岡県のバラ農園、1 カ所と組んで事業をスタートした同社も、現在では多数の産地とさまざまな形態の契約を結んでいる。たとえば、これまで 3,000 坪の畑で数種のバラを栽培してきた静岡県・浜松市のみやこ薔薇園では、同社のために新たに 750 坪の敷地を確保、常時 20 品種のバラを育てる「花園」をスタートさせた。前述の多品種のバラの花束は、このような産地があって、はじめて可能になった商品だ。
このような産地の努力に報いるためには、需要を安定させることが必要。需要が膨らむ時期には、産地は同社より高い値の付く市場に卸したい。それでも同社と取り引きをするメリットは、年間を通じて一定の売り上げを見込めるからにほかならない。そこで同社は、黙っていても花が売れるクリスマスや母の日間近には、逆に広告出稿を控えているという。
クリスマス、母の日、ホワイトデー、誕生日、結婚・出産祝い、結婚記念日、お見舞いなど、ギフト・シーンは実にさまざま。意外なことに仏事に使われるケースも少なくない。今後は仏事用に菊やユリをあしらった花束を提供することも考えているという。
同社は約 60 品種のバラの産地との連携体制を確立した。これを活用して、今後は B to B のフラワー・ビジネスを検討中だという。たとえば、企業の受け付けや社長室に、毎月異なった品種のバラを飾る。福利厚生の一環として、社員の誕生日などに花束を贈る。長期間、単身赴任で大がかりな建設工事などに当たる人たちに妻や子どもの誕生日を登録しておいてもらい、その日に花束を届ける。…同社のビジネスは、ますます大きく花開こうとしている。