見込み客情報を24時間、電話でキャッチ

大成建設(株)

見込客を組織化した「建てたい倶楽部」

 住宅業界の営業活動は従来、お客様が主体的に展示場に足を運んでくださる、あるいは、資料請求をしてくださるのを待ち、その要望に営業担当者がきめ細かくお応えするというかたちで行われてきた。この方法では、具体的な建築プランを持った見込客を獲得できるという利点がある一方、展示場への来場者が多い時期と少ない時期とで売り上げに波がある、住宅へのニーズが潜在している見込客を見つけにくいといった課題があった。
 1997 年 4 月 1 日、消費税率が 3%から 5%に引き上げられる。注文建築の場合、1996 年 9 月末日までに契約をしたものについては現行の 3%の税率が適用になるため、1996 年初盤は駆けこみ契約が相次いで、住宅業界は活況を呈した。しかし 10 月以降は予測された通り、一転して需要は落ちこんでいる。
 大成建設(株)ではこの機に合わせ、1996 年 10月 12 日、見込客の会員組織「建てたい倶楽部」の会員募集を開始した。ニーズの度合いにかかわらず、まずは幅広く見込客を集め、継続的なコミュニケーションを図っていくことで、同社へのロイヤリティを醸成。長い目でお客様を育て、成約に結び付けていこうという戦略だ。
 「建てたい倶楽部」入会の特典は、①自分が考える間取りを作ってみることのできる住宅模型に建築工程の管理表、税や相続に関する読本をセットにした「建てたいキット」の進呈、②無料の敷地調査の実施、③資金、税金など住宅建築に関わる相談会への参加、④展示場での記念品の贈呈である。このうち目玉である「建てたいキット」は、精度の高いプロ仕様の住宅模型だ。
 マス媒体を通じて告知した入会申込期間は 11 月 20日までの 40 日間。会員募集は、同社がそれぞれ週 1回提供している TV 番組、「独占スポーツ情報」「旅わくわく」内での 30 秒 CF、全国紙と、住宅専門誌に出稿した広告で行った。そのほか全国約 120 の展示場と、コマーシャル・キャラクターに起用されているタレント、中村雅俊のコンサート会場でも入会を呼びかけた。

建てたい倶楽部」のメリットを前に押し出した雑誌、および新聞広告。広告の追加出稿によって、アクセス件数は飛躍的に増大した 建てたい倶楽部」のメリットを前に押し出した雑誌、および新聞広告。広告の追加出稿によって、アクセス件数は飛躍的に増大した

「建てたい倶楽部」のメリットを前に押し出した雑誌、および新聞広告。広告の追加出稿によって、アクセス件数は飛躍的に増大した

24 時間、入会を受け付け

 同社では募集開始から 1 週間目に、早くも広告戦略の見直しを行っている。広告出稿開始当初、 TV、新聞、雑誌で展開したのは、いずれも商品広告がメインのいわゆるぶら下がり広告だった。露出度を高め、より多くの人に「建てたい倶楽部」を知ってもらおうと、急遽、入会の具体的なメリットを前面に押し出した新聞広告を総計 70 段以上、追加出稿したところ、申し込みは劇的に増加したという。
 この結果、11 月 20 日までに、「建てたい倶楽部」は約 2,000 人の入会者を獲得。募集期間終了後は一切マス広告は打っていないが、実際には各展示場で募集を継続しているため、現在は約 2,500 人に達している。
 入会は、5 つの経路で受け付けられた。その割合は、ハガキが約 25%、音声自動応答装置で 24 時間対応するフリーダイヤルが約 31%、展示場が約 27%、インターネットが約 16%、中村雅俊のコンサート会場が約 1%となっている。
 申込時に収集した情報の内容は、①住所、②氏名、③自宅の電話番号、④年齢、⑤性別、⑥建築予定地所有の有無と、所有している場合はその都道府県名、⑦コンクリート住宅、ツーバイフォー住宅、輸入住宅のいずれかの希望商品。
 フリーダイヤルについては同時に 20 コールに対応できる体制を整えた。土・日曜日の受付件数はそれほど多くなかったが、平日午後 11 時以降のアクセスはかなりあった。最もアクセスが多いのは新聞広告出稿の翌日と翌々日。ピーク時には 1 日に約 130 件を受け付けた。
 フリーダイヤルによる受け付けは、約 5 分で終了する。氏名、電話番号を先に録音・入力する設計にし、仮に相手が中途で電話を切った場合にも、スタッフが折り返し電話をかけることにより、取りこぼしを最小限に抑えた。
 スタート直後は特にインターネットの勢いが良く、1 日に 10 件以上、コンスタントに申し込みがあった。ホームぺージに「建てたい倶楽部」の詳しい情報と入会受付のページを掲載、フリーダイヤルによる受け付けと同様の内容を入力するだけで入会手続きが完了する仕組み。インターネットのユーザーからは、たくさんのアクセスは望めないのではないかという危惧もあったが、結果的には多数の入会者を獲得することができた。

建てたい

見込客リストを販売施工会社に振り分け

 会員は申し込みから 1 週間以内にリスト化され、担当地区の販売施工会社に引き継がれる。そして営業担当者が会員宅に「建てたいキット」、会員証、お礼の手紙を持参、もしくは郵送し、ここで具体的なニーズをおうかがいした。
 この訪問の後、会員には年賀状と、同社が「建てる門には福きたる」と題して 1 月から 3 月まで展開している全国キャンペーンの案内が届けられている。このキャンペーン終了後には、会員とのコミュニケーション・ツールとして会報などを発行していくことを計画中。個々の会員への対応は基本的には販売施工会社に一任しているが、成約に結び付いたかどうかなどの追跡調査は、今後、継続して行っていくことにしている。
 同社では 97 年 1 月までに、すでに「建てたい倶楽部」会員から約 20 件の成約を得ている。1 成約当たりの経費は、従来の営業活動によるものよりも少ないという分析結果も出ているという。
 同社は基本的に、全国の販売施工会社を通して住宅の販売を行っている。「建てたい倶楽部」の役割は、販売施工会社の販売活動の支援にある。会員を募るのも、ケアするのも、販売施工会社が中心になることが望ましい。同社では全国の販売施工会社を訪問して、営業担当者に直接「建てたい倶楽部」の意義を説明するなど、積極的な取り組みを促すための啓蒙活動に力を入れている。

見込客のニーズに耳を傾けて

 会員の居住地域は、首都圏、関西圏を中心に、同社のサービスエリア外である沖縄、山陰の一部地域を除いて全国に散らばっている。
 平均年齢は約 39.5 歳。同社の既存顧客の成約時の平均年齢が 50 歳以上であること、また、会員が必ずしも「すぐ建てたい」という差し迫ったニーズを持っているとは限らないことを考えると、成約をあせらず、少しずつ信頼関係を深めていく努力が必要だと言える。
 ニーズが顕在化している会員に対しては販売施工会社のスピーディな対応が求められるが、一方で「家を建てるのは何年先になるかわからない」といった “ニーズの薄い”会員を維持していくのは、販売施工会社にとって重荷である。そこで、このような会員には同社が直接コミュニケーションをとっていく方法を、現在、模索中だという。
 会員のニーズは千差万別。すべての会員の要望に応えることは容易ではない。そこで「まず、会員に何を望んでいるのかを聞く」(大成建設(株)住宅事業本部 営業部 第一企画室 主任 横山康夫氏)ために、会員を対象としたアンケートを実施することを予定している。
 期待以上の会員数を獲得した「建てたい倶楽部」は、スタート地点に立ったばかり。同社では 1 日も早く倶楽部の運営を軌道に乗せ、会員に満足を提供し、会員情報を企業活動に生かしていく意向。確かな手応えを得たところで、第 2 回の会員募集をかけていこうと計画している。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年3月号の記事