目標は SLOW GROWTH

パタゴニア

 パタゴニアは 1988年に日本支社を設立し、現在直営店3 店の経営、全国に約 90店舗あるディーラーへの卸、通信販売を展開している 。売上高構成比は直営店と通信販売が合わせて約 50% 、残りの約 50% が卸である。
 パタゴニアの創立者、イヴオン・シュイナード氏は「企業は社会変革の道具」という理念を持っている。“地球税”として売上高の 1% を環境保護団体に寄付すると明言しており、日本支社では 94年度、阪神大震災被災者への援助を含め、 21 団体に総額 420 万円を寄付した。また、有機栽培のコットンや、ペットボトルをリサイクルした PCR シンチラでウェアを作るなど、企業活動の一環として積極的に環境問題に取り組んでいる。
 カタログは年 2 ~ 4 回の発行で、再生紙を使用。米国版のカタログを日本語に翻訳し、サイズや価格の表記を日本人に馴染みやすいメートル法、円に代えたものを日本支社から送付する。
 問い合わせ、受注にはフリーダイヤルで対応。直接商品とは関係のない、例えば「来月アルゼンチンに行くが、何を着て行ったらよいか」といった相談が持ちかけられることもしばしばだ。同社のスタッフの中には長期休暇をとって世界を飛び回っているアウトドア・スポーツのマニアがおり、現地のガイドを紹介するなどビジネスの枠を超えてホットな情報を提供している。このため通話時間が 1 時間を超えることも珍しくないが、同社はむしろこれを奨励しているという。
 同社が扱っているのは販売サイクルの長い定番商品が主。シンチラ・セーターが 1 万 2,000 円、オーガニック・ラグビーシャツが 1万1,000円と決して安価ではないが、多機能で飽きのこないシンプルなデザインなので、ユーザーは数多く買い求める必要がない。過剰消費を防ぐため、商品の修理に応じ、包装も必要最低限に止めている。
 このような方針を貫くために、同社は SLOW GROWTH(企業規模を適正規模以上に大きくしない)を目標に掲げている。カタログ請求を募る広告は、アウトドア雑誌や全国紙に不定期で掲載する程度。売上予算に縛られずに、ポリシーに賛同してくれるファンを大切に育てようという考えからだ。だが実際には雑誌や新聞で同社の商品や環境問題への取り組みが紹介される機会が多く、顧客数は確実に増え続けている。「売上伸び率を目標の 10% 以内に抑えるのが大変」(セール ス ・ディレクタ一 矢村勝之氏)な状態だ。

パタゴニアのショップの一角には環境コーナーが。 カタログは持ち帰れるが、すでに持っている人には遠慮してもらっている

パタゴニアのショップの一角には環境コーナーが。 カタログは持ち帰れるが、すでに持っている人には遠慮してもらっている


月刊『アイ・エム・プレス』1995年12月号の記事