コンタクトセンター最前線(第142回):見込客のリードを醸成し来店や戸別訪問にスムーズに誘導 “精度の高いアポ”を目指す

(株)アデランス

男性用ウィッグ(かつら)の製造・販売会社として創業した(株)アデランスは、テレビCMなどのレスポンス広告で事業を拡大。1990年代以降は女性市場の開拓にも力を入れている。本稿では、営業部門と連携しながら、毛髪に関するお客さまからのデリケートな相談や問い合わせに対応する、同社の「テレフォンオペレーションセンター(TOC)」を紹介する。

新規顧客のボリューム・ゾーンは60~70代の女性

 (株)アデランスは、オーダーメイドによる男性用ウィッグ(かつら)の製造販売会社として1968年に創業した。毛髪の悩みは非常にデリケートな問題であり、プッシュ型の営業スタイルには適さない。そこで同社では、創業当初から、マス広告に電話番号を大きく表示したレスポンス広告を通じてリードを獲得する“反響型”の営業スタイルを採用。その後、育毛や増毛などにラインナップを拡充し、業界のリーディング・カンパニーへと成長を遂げた。その優れた技術力は国際的にも評価が高く、海外でも事業展開を行っている。
 一般には男性用ウィッグのイメージが強い同社だが、女性用ウィッグの需要増を受けて、1990年代以降は女性向け市場を拡大している。男性をターゲットとした広告宣伝に対し、女性からも少なからず相談が寄せられていたことが、そもそも女性向け事業を本格化させたきっかけ。毛髪のトラブルに悩む女性の支持を得て、現在では新規顧客は圧倒的に女性の方が多く、その中心は60~ 70代の女性となっている。
 現在、男性向けには「アデランス」のブランド名で事業を展開しており、各地の店舗で悩みやニーズに応じて、ウィッグをはじめ育毛や増毛などの商品やサービスを提供。一方で女性向けではウィッグが主力だが、既製品とオーダーメイドの大きく2分野に分かれており、前者では「フォンテーヌ」、後者では「フォンテーヌbyレディスアデランス」のブランド名を使用している。

急増する女性からのコールに対応するためにセンターを開設

 新規顧客開拓のためのリード獲得からクロージングに至るプロセスは、性別により大きく異なっている。男性では電話やWeb経由での申し込みを経て、各地の店舗に相談に訪れる見込客が9割以上を占める。これに対し女性では、特にオーダーメイドの「フォンテーヌbyレディスアデランス」に関心を持つ見込客の場合、電話で同社に問い合わせを寄せるケースが大半を占め、コールセンターでの会話を通して、営業担当者による戸別訪問もしくは来店につなげるのが、一般的なフローとなっている。
 なお、顧客のリピート状況にも男女差があり、男性のリピート率は女性よりも圧倒的に高い。一方で女性は、ファッション感覚でウィッグを使用するケースが多いという。
 このような背景から、電話による問い合わせは女性からが大半であり、同社がコールセンターを開設したのは、女性向け事業を本格化させた後の1995年のこと。それまでは男性と女性からのすべてのコールに各地の同社営業拠点で対応していたが、急増する女性からのコールに専門的に対応するべく、東京と大阪の2カ所にコールセンターを開設した経緯がある。なお2011年9月には、東京のセンター内に男性からのコールに対応する部門も開設している。

レスポンスを把握するため媒体ごとに異なる受付番号

 同社のコールセンターである「テレフォンオペレーションセンター(TOC)」は、インハウスの運営形態を採っており、東京と大阪を合わせて約50人の体制となっている。女性向けコールを担当する「女性班」を東京と大阪に置き、それぞれ約20人のオペレータを配置。このほか、男性向けコールを担当する東京の「男性班」には約10人のオペレータを配置している。
 TOCでは、各種媒体のレスポンス広告を見たお客さまからのインバウンド・コールのほか、過去に資料請求のあったお客さまなどを対象とするアウトバウンド・コールも展開。アウトバウンドは、主に女性が対象になることから、女性班では、東京が東日本エリアを、大阪が西日本エリアをそれぞれ担当するかたちで役割分担を行っている。また、公式Webサイト経由の問い合わせは、男性のお客さまからが大半で、東京の男性班が対応を兼務。なお、スーパーバイザーなどの役職は配置しておらず、マネジメント業務にはトップのセンター長を中心に対応する体制を採っている。
 システム面では、フリーダイヤルの機能とCTIシステムを活用して、東西のコールセンターを一元的にマネジメント。お客さまの発信地域に応じてコールを最寄りのセンターに振り分けるなど、さまざまな工夫を施している。また、CRMについては、独自に開発したオンプレミス型のシステムを活用して、各オペレータ画面にお客さまの対応履歴など詳細な情報を表示すると同時に、これを営業部門ともリアルタイムで共有している。
 マス媒体のレスポンス広告を通じてリードを獲得する反響型の営業スタイルを採用する同社では、問い合わせなどのレスポンスを媒体ごとに把握してその後のマーケティング展開に生かすため、20以上の受付電話番号を使用。例えば、資料請求があったお客さまに送付するパンフレットへの掲載用のほか、テレビCM用、BS放送用、WebについてはデバイスごとにPC用・フィーチャーフォン用・スマートフォン用などがある。
 なお、受付電話番号にはすべてフリーダイヤルを使用。主な番号の下4桁については、女性向けが「0930」で「オクサマ」の語呂合わせとし、男性向けが「9696」で豊かな頭髪を連想させる「クログロ」の語呂合わせとなっている。また受付時間は大半の番号で、女性向けが午前9時から午後8時、男性向けが午前9時から午後10時。いずれも年末年始を除き無休となっている。

13sz9

新規顧客の開拓にはマス媒体のレスポンス広告を利用。60〜70代のターゲットに向けて問い合わせと資料請求を訴求している

ニーズや悩みに個人差 求められる柔軟な対応

 TOCの運営状況では、東京と大阪を合わせた女性班の全体で、インバウンド・コールが1日当たり250件から500件、アウトバウンド・コールが同1,500件から2,000件。一方の男性班は、インバウンド、アウトバウンドともに、おおむね女性班全体の3分の1の水準という。
 女性からのインバウンドの受電件数は、年間を通じた季節的な変動が大きく、10月から3月の間に増加する傾向が見られることから、受電件数が減少する4月から9月までの期間は、過去に資料請求のあったお客さまなどを対象とするアウトバウンドに注力することで、年間を通じた稼働を平準化している。
 女性班が担当するインバウンドの内容を見ると、資料請求の申し込みが最も多く、次に価格に関する問い合わせとなっている。オペレータは、お客さまの用件に対応すると同時に、お客さまのニーズや悩みを詳しくヒアリングするなど、自然な会話の中で、次のステップである営業担当者による戸別訪問もしくは来店につなげていく。
 こうしたコールに対応したスクリプトやヒアリングの必須項目は、あらかじめオペレータにマニュアルとして共有されているが、ウィッグの利用に対するニーズや悩みには個人差が大きい上に、ウィッグを利用した経験の有無などによっても異なる対応が要求されるため、オペレータの対応はマニュアル通りとはいかず、状況に応じた柔軟な対応が求められる。
 例えば、テレビCMを見たお客さまからのコールには、放映中のCMで訴求している「つむじの部分が気になる」「白髪が目立つ」といった相談が目立つ。これに対し、公式Webサイトを見たお客さまからのコールでは、同社製品についてWebサイトのコンテンツなどを通じて一定の情報収集を済ませた上で、より詳細な内容について質問されるケースが多い。このほか、何らかの傷病を原因とする医療関連の相談は、配偶者など本人以外の代理人から寄せられるケースもある。

1309S3

営業活動の一翼を担う「テレフォンオペレーションセンター」でのオペレーション風景

アポ獲得件数や成約率を重視し営業効率の向上を図る

 いかなるコールへの対応でも、お客さまの訴えに耳を傾け、悩みや気持ちに寄り添う共感を重視すると同時に、ウィッグという一般にはなじみの薄い商品に対する認識を深めてもらうため、1本のコールに充分な時間をかけて対応。例えば、来店や個別訪問のアポを確定したケースでも、お客さまの十分な理解が得られていないと、キャンセルにつながるなど結果的に成約率の低下を招く恐れがある。なお、TOCにおける電話対応後の次のステップである来店と戸別訪問を比較すると、お客さまにとって負担の大きい来店のアポを取る方が難しく、より高度なスキルが要求されるという。
 さらに新規顧客の獲得には、TOCの担当オペレータと営業担当者の連携も不可欠で、ヒアリング内容が的確に共有されていることが、来店や戸別訪問以降のスムーズな展開につながる重要な要素になるという。こうした認識の下、2012年3月の組織改革では、それまで本社機能のひとつとして位置付けられていたTOCを、東西2つの営業統轄本部の管轄下に移行。オペレータの教育面などでは、これまで同様、相互の連携を図っている。
 なお、同社のコールセンターは、見込客からのリードの獲得を第一義としていることから、センター運営のKPIにも、応答率や応答時間といったコールセンターで一般的な指標ではなく、来店や戸別訪問のアポ獲得件数や成約率、受注単価などを採用。TOCの運営状況については、社内のイントラネットを通じて、翌営業日には営業本部をはじめ全社に共有される仕組みとなっている。

手づくりのスクリプトで成約率の向上をサポート

 前述の通り、TOCには営業活動の一翼を担う存在としての役割が期待されていることから、オペレータには、社員や派遣社員を起用。性別では女性が大半であり、採用に当たっては、営業的なミッションに対応できる意識の高さなどメンタル面も重視している。
 新人は1週間程度の座学を中心とする研修で基本的なスキルを学んだ後、OJTに移る。最初はアウトバウンド・コールを経験させ、電話応対業務に対する心理的な抵抗感を払しょくしてもらう。その後、日々の業務を振り返り、自分で設定した課題を克服してもらうことを促し、徐々にスキルを身に付け、業務の幅を広げていく。
 前述のようにTOCでは特に営業部門との連携を強化していることから、来店時や戸別訪問における接客の流れや、毛髪の悩みを抱えたお客さま向けのカウンセリングといった営業の現場を踏まえて、個々のオペレータが自らの手でスクリプトを作成。お客さまもそれぞれなら、オペレータもそれぞれという考え方に基づき、より成約につながりやすい“精度の高いアポ”の獲得に向けて手づくりの工夫を積み重ねている。

営業現場との信頼関係を強みにアプローチをブラッシュアップ

 前述のように同社では、1990年代以降、男性から女性へと新規顧客開拓のターゲットをシフトし、新たな営業展開を積極的に模索してきた経緯があり、ここ最近も、全国の百貨店やイベント会場などで女性向けのオーダーメイド・ウィッグが気軽に試着できる「おためしフェア」の開催を通じて売り上げを伸ばしている。
 こうした中、「アデランス」をはじめとする同社ブランドは全国的にも高い知名度を誇るが、同社の潜在的な顧客層には、ウィッグなどの利用経験がなく、商品やサービスに対する認知がなお充分とは言えない。また、競合他社との差別化も営業戦略の重要な要素となってきており、お客さまと同社側のパーソナルな関係を構築する最初のタッチポイントとなるTOCの応対品質が、同社のブランディングにおいて極めて重要な役割を果たすとも考えられている。
 そのため今後は、インハウス・センターならではの営業現場との信頼関係という強みを生かして、アプローチのさらなるブラッシュアップを図っていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年9月号の記事