コンタクトセンター最前線(第137回):増加するコールへの対応が急務 人材育成や改善活動に注力し高い顧客満足を達成

イーデザイン損害保険(株)

東京海上グループの“ネット損保”として2009年に営業を開始したイーデザイン損害保険(株)では、見込客や契約中のお客さまをサポートするコールセンターを運営。同社の業績拡大を背景に増加傾向にあるコールに対応するため、人材育成やVOC活動に注力している。

CMや交通広告で認知度が向上 業績が順調に拡大

 イーデザイン損害保険(株)は、東京海上グループの“ネット損保”として2009年1月に設立され、同年6月から営業を始めた。自動車保険と自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)を取り扱っており、主力商品である前者の自動車保険をインターネットで販売。損害保険業界における“ネット損保”のシェアは拡大傾向にあるが、同社の設立によって、東京海上グループとしても本格参入を果たしたかたちだ。
 いわゆるネットビジネスの事業環境は、スマートフォンの普及が急速に進むなど、依然、ダイナミックな変化の途上にある。こうした中、スピーディーな事業展開が不可欠との判断から、同社が設立された。また、NTTグループのNTTファイナンス(株)から出資を受けており、情報通信のインフラやテクノロジーなど多方面でNTTグループとの協力関係を築いている。
 お客さまには、ネットでの自動車保険の申込時に、自動車の利用状況などに応じて補償内容や補償額を自分自身で柔軟にプランニングできることを“売り”に、テレビCMや交通広告を積極展開。東京海上グループのブランド力を生かして、認知度の向上を図っている。
 設立当初は、ネットとの親和性が高い若年層をターゲットに見込んでいたが、ふたを開けてみると、幅広い世代から支持されている。業績は順調に拡大し、2012年3月期の正味収入保険料は、前年同期比82.5%増の52億1,300万円となっている。

目的ごとに5つのフリーダイヤル番号を用意

 このように躍進著しい同社において、見込客や加入者のサポートを行うのが、コールセンター「お客さまサポートセンター」だ。2009年6月の営業開始と同時に開設。主な業務は、新規加入を検討中の見込客のサポートや、契約中のお客さまの契約更新などである。24時間365日の電話受付が求められる事故受付センターなどとは役割を分担している。
 お客さまサポートセンターの運用に当たっては、(株)NTTソルコの支援を受けている。NTTソルコから、センターの場所と設備を借り受けているほか、スタッフの派遣も受け入れているのだ。都内にある同センターの人員は、全体で105人。業務設計や人材育成など管理部門の15人と、オペレーション・マネージャー3人が、イーデザイン損害保険の社員。17人のSVと「安心アドバイザー(AD)」と呼ばれるオペレータ70人は、NTTソルコからの派遣社員となっている。席数は50席で、受電予測に基づきシフトを組んで、コールに対応している。
 お客さまからのコールを受け付ける電話番号は、主に5番号ある。いずれもNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用。それぞれの役割は、①新規のお客さまによる商品・サービスの問い合わせ、および契約手続きへの対応、②見積依頼への対応、③契約中のお客さまの更新手続きや契約内容の変更への対応、④ドライバー歴に応じて保険料の割引・割増が受けられるノンフリート等級に関する問い合わせ対応、⑤ 苦情や相談に対応する「お客さま相談ダイヤル」となっている。
 同社では、NTTソルコの支援を得て、フリーダイヤルのオプション機能を効果的に活用。お客さまの側でダイヤルした番号を通知する「サービス番号通知」に加え、①については、お客さまが音声ガイダンスに従って入力したプッシュボタン信号を検知して、あらかじめスキル設定をした担当ADに個々のコールを接続する「入力指示ルーティング」を利用している。
 このほかSVやADは、契約者の情報やFAQを参照しながら、お客さまからの問い合わせに対応している。
 なお、コールの受付時間は、番号によって異なる。①や③については、平日が午前9時30分から午後8時。以前は、午後6時までだったが、夜間のニーズが高いことを受けて、2012年8月に延長した。なお土日・祝日は、午前9時30から午後6時までとなっている。

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東京・新宿にある「お客さまサポートセンター」では、見込客や加入者からの問い合わせに対応している(左)/センターの壁には個々のスタッフの目標が掲げられている(右上)

3月の受電件数は過去最高 前年同月比で6割増

 受電件数は、同センターの開業以降、増加傾向にある。2013年3月現在では、1日当たり約1,000件と、単月としては過去最高の水準。前年同月の630件より6割も増えた。ちなみに直近の数カ月は、前年同月を8割以上も上回っている。
 この要因としては、そもそも自動車保険の新規契約や更新が自動車の買い替えが多い2〜4月に集中する傾向にあることに加え、プロモーション戦略が奏功して同社の認知度が高まったことで、新規の申し込みや契約数が急速に増えていることの影響がある。また、1年で満期を迎える自動車保険では、前年の2 〜4月に新規契約したお客さまの更新も、当然、この時期に集中する。契約中のお客さまが何年にもわたって継続的に加入し続けるケースが多いことが、この時期のコール数の水準をさらに押し上げている。
 一方で、時間帯別にみると、午前中や午後6時以降にコールが集中する傾向が見られ、こうしたコールの山谷にいかに対応するかは、同社にとって抜き差しならない課題だ。受電予測については、過去の実績をベースに季節や時間帯による変動を見込み、さらに直近の増加水準や広告の出稿状況を加味するなど、独自のノウハウで対応。こうしたコールの集中に対するスタッフの理解もあり、現在は支障なくセンター業務を運営できている。
 コールの内容をみると、新規加入のお客さまでは、補償内容やロードサービスなどサービス全般に関する問い合わせが最も多く、見積もりや契約内容の変更に関する問い合わせも目立っている。新規に契約するお客さま全体のうち、2割程度が同センターを利用しているのが現状だ。
 なお、総受電件数に占める見込客と契約者の割合を見ると、同センター開設当初は、当然のことながら前者が圧倒的に多かったが、その後、契約者が増加したことにより、現在は5対5と、ほぼ同数になっている。近く、契約中のお客さまからのコールが新規契約のコールを上回ることが、確実視されている状況だ。

AD人員を70人から90人へ 人材育成が大きなテーマ

 今後も、受電件数の増加が見込まれることから、2013年度中には、ADの人員を現在の70人から90人規模に拡大し、座席数も現在の50席から60席に増やしていく方針。こうした中、ADの人材育成が大きなテーマとなっている。
 同センターでは、人材育成や離職防止の観点から、ユニットと呼ばれるSVとADのチームを編成。各ユニットは7、8人の規模で、経験豊富なSVをリーダーに、ベテランから新人までスキルやキャリアの異なるメンバーによって構成されている。
 ADは、およそ3カ月にわたる初期研修を経て、初めて着台する。その後も、eラーニングのカリキュラム受講やOJTを通じてスキルを磨くことになり、同じユニットに所属するSVや先輩ADの指導を受けながら、スキルを身に付けていく。
 新人にはまず、新規のお客さまからのコールを担当してもらう。以降、契約内容の変更、契約更新、ノンフリート等級の確認といった順に、対応できるコールの範囲を段階的に広げていく。
 こうしたステップアップには、その都度、センターが独自に実施している認定試験にパスしなければならない。試験では、筆記テストとロールプレイにより習熟の度合いを厳正にチェック。そのため、ひと通りの業務をこなせるようになるまでには1年程度かかり、新人ADの負担は少なくない。先輩のアドバイスや励ましなどユニット内の活発なコミュニケーションが、新人ADの大きな心理的支えとなっている。
 自動車保険の商品特性上、コールを寄せるお客さまへの電話対応には専門的な知識やオペレーションのスキルが不可欠だ。しかも、専門的な情報を一方的に発信するのではなく、お客さまのニーズをしっかりと把握し、お客さまの立場に立って、わかりやすく適切な提案を行うことが求められる。そこで同社では、前述のような研修カリキュラムを整備する傍ら、「あなたにぴったりの確かな安心・安全を、リーズナブルに。」をコアバリューとして掲げ、その理解を浸透させることにも注力している。
 加えて現場のモチベーションを高めるため、業務改善の提案制度も整備。スクリプトの見直しといったオペレーション上の改善案を広く募っているほか、「デザインボックス」という愛称の“目安箱”を設置。このほか、オペレーション・マネージャーやSVによる個人面談を、3カ月に1回程度のペースで実施している。

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東京海上グループ独自のセンター運用規格「CCST」

 人員の拡充を進める同センターでは、効率的な運営や高い応答品質を実現するため、KPI管理や業務改善への取り組みにも力を入れている。
 センター運営のKPIとしては、応答率は90%以上に設定。顧客満足度に関しては、ネットで申し込みを完了したお客さまを対象にコールセンター対応への満足度を聞くアンケートで、トップ2ボックスで80%以上、ボトム2ボックスで5%未満をKPIとしている。さらに収益面に関しては、同センターで受ける見積もり依頼の件数を指標に採用している。
 このほか、東京海上グループでは、2010年度より、グループ内のコールセンターの品質向上を目的に、独自の運用規格である「CCST(Contact Center Standard for Tokio marine)」を導入している。新業態であるネット損保の分野で、業務拡大への対応に追われがちな同センターの評価は、長年の運営業務を通じて豊富なノウハウを培ってきた他社のセンターにはかなわない面もあるが、こうした評価も、センター全体の運営を客観視する好材料になっているそうだ。
 お客さまから寄せられたコールの応答履歴をモニタリングし、改善テーマを抽出するVOC活動にも注力している。2週間に1度のペースで開かれる全社的な会議である「VOCコミッティ」には、担当役員をはじめ、同センターのマネジメント層、マーケティングや情報システム部門の関係者が出席。扱うテーマは幅広いが、これまではネット損保の生命線とも言えるWebサイトの利便性向上が、議論の焦点になってきた。
 例えば、契約更新の手続きにかかわるサイトの案内画面については、以前、保険内容に「変更がある場合」と「変更がない場合」とでそれぞれ異なる2つのボタンを設けて、お客さまに選択してもらっていた。しかし実際には、お客さまが、具体的な更新手続きの画面に進んだ段階で、初めて契約内容を見直す必要を感じるケースが少なくなく、お客さまが不便を感じていることが判明。保険商品の更新を事務的に処理する側の視点で、「変更がある場合」と「変更がない場合」とに分けて考えていたとの反省に基づき、お客さまの視点に立って、更新手続きのサイト動線を見直すに至った。こうしたVOC活動を継続することで、Webサイトの利便性向上やセンター業務の品質向上など、全社的なサービス品質の底上げを図っている。
 自動車保険を提供する国内各社の顧客満足度を独自に調査、公開する民間のランキングサイトでも、同社の評価は高い。「オリコン自動車保険顧客満足度ランキング」では、2012年度から2年連続で総合評価第1位に、「価格.com自動車保険満足度ランキング」では、2012年度に総合評価第1位に輝いている。いずれも、一般の保険契約者を対象とする調査結果に基づいており、事故対応サービスに限らず、同センターの対応品質も評価につながっている。
 営業開始から4年目を迎えようとする同センターでは、今後も、お客さまから信頼され、安心して利用していただけるサービスの提供に努めていく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年4月号の記事