コンタクトセンター最前線(第136回):現場のモチベーションを向上する独自のマネジメント手法を確立し高い顧客満足度を実現

メットライフアリコ生命保険(株)

外資系生命保険会社としては国内でトップシェアを誇るメットライフアリコ生命保険(株)は、東京、神戸、長崎にある3カ所のコールセンターで既契約者向けにサービスを提供。独自に培った人材育成やマネジメントの手法が、業務の品質向上や職場の活性化に効果を上げている。

外資系では国内トップシェア 2012年には日本法人へ移行

 メットライフアリコ生命保険(株)は、米国最大の生命保険会社であるメットライフを親会社とするアメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニーの日本支店として、1972年に設立された。
 現在の販売体制は、対面販売のコンサルタント社員が約5,000人、保険代理店は約1万500店。新しい販売チャネルの開発にも積極的で、マス媒体やインターネットなどを通じた通信販売と銀行など全国102の提携金融機関の窓口販売にも早い時期から取り組んできた。現在の保有契約件数は約734万件で、総資産は7兆6,124億円。国内の生命保険業界では、2011年度の新契約年換算保険料は、国内資本の大手各社を含めて3位と、外資系生保としては最多となっている。
 日本支店の設立から40周年を迎えた2012年には、日本法人のメットライフアリコ生命保険(株)に移行。日本市場に参入した外資系生保各社にとって、国内資本ではないことが、消費者との心理的な距離感を生み、ひとつの障壁になってきたと指摘されることもあるが、同社は、民間の顧客満足度ランキングサイトでも、いわゆる外資系生保としてトップクラスの評価を得るなど、確固たる地位を築いている。

東京、神戸、長崎の3カ所にあるコールセンターを統合的に運営

 このような展開を図る同社において、コールセンターは、新規契約の獲得に向けた資料請求などへの対応や、保険金給付といった既加入者向けの対応をはじめ、大きく4部門で運営されている。そのうち、保険金給付や住所などの登録内容の変更といった既契約者の各種手続きや問い合わせに対応しているのが、カスタマーサービス部である。
 かつては、既契約者から寄せられる問い合わせをはじめ、コンサルタント社員や保険代理店からの照会については、各地の営業所が電話で受け付けていたが、1992年、こうした電話にワンストップで対応するコールセンター整備のプロジェクトに着手。既契約者だけではなく、社員や代理店も“お客さま”と位置付けて、1996年に社員向けの一部サービスの提供を始めて以来、継続的にサービスの拡充を図ってきた。
 現在、東京、神戸、長崎の3カ所でコールセンターを運営。人員規模では、長崎が281人と最も多く、神戸が160人、東京が105人となっている。
 コールセンター運営では、管理責任者をトップとするピラミッド型の組織が一般的だが、同部では、「オペレーターがお客さまとの重要なタッチポイント」であることを明確化するために、逆ピラミッド型の組織図を用いている。オペレーターがお客さまに最も近い上部に位置し、リーダーやスーパーバイザー(SV)といった管理職は、オペレーターを下支えする格好で表現されているのだ(図表1)。

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 オペレーターは、5 ~ 7人ごとのチームに分かれ、各チームにリーダーを配置。こうしたチームをサポートするSVは2チームにおおむね1人ずつ配置されている。さらに、センター長もしくはセクション長が、それぞれ10チーム程度を管理・監督する。生命保険業務に携わるオペレーターには、外勤の営業担当者と同様の高い水準のスキルやオペレーションが要求され、マネジメントに当たるセンター長やセクション長の負担も大きいため、10チームがマネジメントの許容限度と考えているのだ。
 3カ所のコールセンターは相互にネットワークで結ばれ、既契約者や代理店からのコールを一元的に受け付けている。PBXなど運用系のシステムには米アバイヤ社製を採用しており、自社内のシステム部門が、現場サイドの要求する仕様に基づきセッティング。コールはIVRで用件別に振り分け、3カ所のコールセンターで業務に当たるオペレーターのスキルに応じて、適切につなぐ仕組みとなっている。
 コールセンターを3カ所に分けるかたちで運営しているのは、災害時におけるBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)の観点と同時に、必要な人員の確保などを考慮してのことである。オペレーターやリーダーは、東京が派遣社員で、神戸と長崎は一年契約の契約社員。SV以上は正社員となっている。これらのスタッフのほとんどが女性で、平均年齢は30代。神戸に限ると、30歳前後で比較的若い。
 インバウンド業務のセクションは3つ。対面販売チャネルの既契約者や社員、販売代理店からのコールに対応する「カスタマーサービスセンター」と、通信販売の既契約者に対応する「通販保全センター」、保険金や給付金に関するコールに対応する「保険金コールセンター」である。このほかに、各種請求書類の発送などフルフィルメント業務を担当する「サービスオフィス」が設けられている(図表2)。

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 既契約者からのコールの受付番号は、販売チャネルなどに応じて複数の番号を設け、既契約者に送付する各種案内や公式Webサイトなどで告知。いずれも、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用。受付時間は、平日は午前9時から午後8時まで。土曜は午前9時から午後5時までとなっている。

人材育成の基本は独自のキャリアパス制度

 1日当たりの総受電件数は、ピークで1万4,000件程度。1週間を通じて月曜が最も多く、次に金曜が多い。コールの内容では、保険金や給付金に関するコールが約3割と最も多く、住所や保険料の引き落とし口座の変更など各種手続きがこれに続く。
 オペレーターの電話応対については、取り扱っている商品が認可による金融商品であるという性格上、必要十分な情報を、確実にお伺いし、また、わかりやすく的確にお伝えすることを目指している。電話応対のKPIには、アバンダンレート(呼損率・応答率)をはじめ、平均応答時間や平均後処理時間など、20項目以上を採用。このほか、応対時に取るメモの書き方にもルールを設けており、抜き打ちでチェックを行うなど徹底を図っている。
 ただし、こうしたKPI管理だけでは、カスタマーサービス部トータルとして見た時の対応品質や業務効率の最大化には必ずしもつながらないとの考えから、人材育成やマネジメントの面でも多様な対策を講じている。こうした対策の多くは仕組み化・システム化して、属人的な考え方や感覚によって対応が異なるといった事態を回避している。
 例えばそのひとつが、人材育成の基本となるキャリアパス制度。オペレーターとして採用された人材は、業務や研修を通じてスキルアップを図り、一定の評価を得れば、リーダー、SVへとステップアップしていくことができる。能力や成果を客観的に評価して活躍の場を与える、外資系ならではの合理的な考え方を背景とする制度だ。SV以上の職責者は正社員として登用され、センター長や部長という同部の最高ポストに就く道も開かれている。
 リーダー以上の役職者は、リーダーシップ研修を受けることが義務付けられる。この研修のゴールのひとつは、「職場における理想の自分について、自分の言葉で語れるようになること」。リーダーシップの意味やリーダーシップを発揮する方法論について、コーチングや座学からなる1週間程度のカリキュラムを通じて学んでいく。また研修後には、職場に戻り、直属の部長に対して、研修についてレビューを行う。こうした経験を通じて、自己実現に対する意識を明確化し、モチベーションを強化。さらに、その後も日々の仕事ぶりを定期的に評価する独自の考課制度を整備しており、人材育成において高い効果を上げている。
 こうした能力主義や成果主義の性格が強い人材育成の制度は、一見、クールな、外資系特有の企業文化のようにも映るが、そもそものコンセプトは本国から持ち込まれてはいても、細部は日本で独自に時間をかけて整備されてきた。同社では、機械的に組織を管理するだけでは、コールセンター運営で成果を上げることは難しいことが、強く意識されていると言えるだろう。

日本独自の仕組みである人事考課の評価指標

 人事考課の評価指標も、業務の成果を評価することの難しさを克服するために、日本独自の仕組みとして導入された。評価する側の価値観や考え方によって評価がまちまちでは、人間関係がぎくしゃくする事態を招きかねないという考えに基づいて整備してきたものだ。
 こうした人事考課の仕組みが設けられていることによって、リーダーが、オペレーターを注意するといった場面でも、対応に一貫性を持たせやすい。例えば、幼い子どもを持つオペレーターが、子どもの病気を理由に仕事を休んだ場合、リーダーはオペレーターに、休んだ理由を確認し、子どもの健康管理の徹底や病気の時の預け先の確保なども要請する。心情的にはオペレーターの立場が理解できても、リーダーにはこうした厳しさも必要。職業人としての高い意識を促すことが、同社のスタンダードとなっている。

若いオペレーターが憧れる女性担当部長

 長崎にコールセンターが開設されたのは2003年だが、その当時に地元で採用した人材の中には、キャリアを積んで担当部長に就いている50代の女性社員もいる。こうした幹部職員は、若いオペレーターにとっては、憧れの存在。マネジメントの面でも、現場のオペレーターが心の内を安心して明かすことができるなど信望も厚い。また、2008年に開設した神戸のコールセンターには、地域に密着した運営を目指して、人事関連のマネジメント業務を担う特任ポストを置き、地域の雇用情勢や就業意識にも配慮したきめ細かな対応を行っている。
 生命保険のコールセンター業務は、高度なスキルやオペレーションが要求されることから、コールセンターの効率的な運用には、定着率の向上が重要な課題。しかし一方で、精神的なストレスが強いハードな仕事であるという、定着率を阻害する要因もはらんでいる。そうした中でも、同部のコールセンターの離職率は、年間を通じて10%程度という低い水準となっており、長期間にわたって勤務するオペレーターが多く、カスタマーサービス部トータルの運営効率化を下支えしている。

生保会社のスタッフとして一人ひとりが責任ある対応を

 オペレーターの人材採用に当たっては、オペレーターとしての経験よりも、仕事に対する意識や適性を重視し、2回の面接などを通じて選抜している。
 採用後は、最長で3カ月程度の研修を経てデビューするが、その後もオペレーターとしての勤務と並行して、2カ月半程度に及ぶ保険商品の専門知識に関する研修などを受けることになる。研修で重点が置かれているポイントのひとつは、お客さまに電話で対応するオペレーターはいわば会社の顔であり、ここでの対応の品質が、お客さまからの評価を大きく左右するという意識の徹底。そのため、「オペレーターとして勤務する」のではなく、「生命保険会社に勤務する」という面を繰り返し強調しているという。
 コールセンターの利用者からは、オペレーターのきめ細かな対応や気遣いに触れ、「外資系は効率を最優先するのだろうと思っていたが、実際はまったく違った」といった声が数多く聞かれているという。コールセンターのサービス品質のさらなる向上を目指し、同部では今後も、人材育成に重点を置き、マネジメントの仕組みなど組織運営の改善に継続的に力を入れていくことにしている。

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長崎のコールセンターでのオペレーション風景(左)/神戸のコールセンターの休憩スペース(右上)


月刊『アイ・エム・プレス』2013年3月号の記事