コンタクトセンター最前線(第127回):問い合わせや指摘・要望への対応とVOCの共有・活用を担いお客さまの期待以上の対応を目指す

味の素冷凍食品(株)

味の素グループの冷凍食品事業を担う味の素冷凍食品(株)。同社のお客様相談室では、冷凍食品に関するお客さまからの問い合わせや指摘・要望への対応と、お客さまの声の社内へのフィードバックを一手に担っているほか、お客さまの声を生かした商品改善の進捗管理も実施。お客さま対応の入り口から出口までの過程に携わっている。

お客様相談室は一般生活者との大切な接点

 冷凍食品は、給食や飲食店といった業務用市場に広く浸透した後、一般家庭への冷凍冷蔵庫や電子レンジの普及などにより家庭用市場が大きく拡大し、今日に至っている。世界各地から選び抜いた良質な素材を生かして製造した、おいしく、安心な冷凍食品を提供しているのが味の素冷凍食品(株)だ。同社は、2000年10月に味の素( 株)の冷凍食品事業を分社化するかたちで設立。以来、冷凍食品事業を通して「人と社会のしあわせ」づくりに貢献することを企業理念に掲げ、地球の恵みを大切にし、世界のお客さまに「おいしい安心品質」の冷凍食品を届けることを目指している。
 同社では、「おいしい安心品質」は、お客さまとの情報共有を通じてお客さま自身が納得し、信頼してくださってこそ生まれるものであると考えている。安心して商品を利用していただけるよう、またお客さまにとってより価値のある商品・企業であり続けるために、同社が大切にしているのがお客さまとのコミュニケーションだ。取引先に対しては、営業担当者が商品の説明や提案の機会を積極的につくり対話に努めている。一方、一般生活者に対しては、商品パッケージやWebサイト、商品パンフレットを通じて正確な商品情報を提供するほか、お客様相談室を設置して一人ひとりのお客さまに個別に対応している(図表1)。

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お客さまの信頼獲得を目指して自社運営に移行

 さまざまなコミュニケーション手段がある中で、お客様相談室は営業部門と並んでお客さまの声に直接触れることができる貴重な部門。単に問い合わせに対応するだけでなく、マーケティング本部、研究・開発センター、生産本部、ロジスティクス部での品質保証への取り組みをサポートしており、貴重なダイレクトコミュニケーションの場であることが全社的に認識されている。
 お客様相談室の開設は2004年7月。分社化当初は味の素内にあるお客様相談センターで、同社の家庭用商品、健康食品などと併せて冷凍食品に関する問い合わせも受け付けていた。しかしながら冷凍食品に関する問い合わせには冷凍食品の情報が集積する自社で対応することが、より一層、顧客満足度を高め、お客さまの信頼を獲得できるものと考え、自前での運営に切り替えた。現在、お客様相談室は本社内に設置されている。
 お客様相談室の日々の業務内容は、お客さまからの問い合わせや指摘・要望への対応と、お客さまの声(以下、VOC)の社内へのフィードバックの2つに大別される。
 まず、一般生活者からの各種受付業務について見ると、受付チャネルには、電話、eメール、手紙を利用。電話回線には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを利用しており、土日・祝日を除く9時30分から18時30分まで受け付けに当たっている。
 お客様相談室の告知媒体には、商品パッケージ、Webサイトを活用しており、全受付チャネルの総コンタクト数は月間700 〜800件に及ぶ。このうちの95%が電話、5%がeメールと手紙で、電話の利用率が圧倒的に高いが、最近はeメールでの問い合わせが増える傾向にある。
 スタッフ数は11名で、内訳はオペレータ5名、バックヤードスタッフ4名、マネージャー1名、室長1名。各スタッフの役割を見ると、オペレータは第一線でのお客さま対応の担い手で、全員が電話、eメール、手紙に対応するマルチスキルを備える。バックヤードスタッフは、提起品(お客さまから返品された商品)の受け取りや工場への発送、指摘対応に必要な関連部門(工場・営業)との調整、データベースや各種文書のメンテナンス、お客さまへの回答文書のチェックなどを担当。このほか、業務用商品に関する問い合わせが寄せられた場合の対応も行う。マネージャーは、主にオペレータからのエスカレーションに対応。そして、お客様相談室のすべての業務を統括するのが室長だ。

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問い合わせ先をわかりやすく記載したWeb画面。ここからeメールで問い合わせることもできる

CTIを活用して対応の生産性と顧客満足度を向上

 フリーダイヤルで受け付けたお客さまからのコールは、オペレータに均等に着信。お客さまの話をよく聞き、丁寧に確認しながら話を進めていくことで、用件を正確に理解して迅速・的確に対応することに努めている。電話応対は非対面のコミュニケーションであるが、お客様相談室では対面で取引先とのコミュニケーションを図る営業部門と同様に会社の顔であると考え、「笑顔を声に乗せる」をスローガンとし、電話応対に臨んでいるという。
 お客さまからのコールは、対応に正確を期するため全件録音。CTIを利用して、商品情報やFAQの検索をスピーディーに行っているほか、オペレータからマネージャーへのエスカレーションや問い合わせ履歴の入力をスムーズに行える環境を整えることで、対応の生産性を高めている。
 問い合わせの中で最も多く寄せられるのが、取扱店の照会である。この対応には、商品の取扱店を地図上で表示できるデータベースを構築し、お客さまの居住地域にある取扱店と出荷情報を瞬時に調べることができるようにした。取扱店を案内する際には、該当店舗への出荷日や店舗の電話番号も併せて伝えることで、満足度の高い対応を可能にしている。ここにもCTIの機能が生かされていると言える。

ISO10002に即した苦情対応マネジメントを推進

 もうひとつのコール内容の特徴としては、冷凍食品という最終商品を提供していることから、指摘・要望の比率も高いことが挙げられる。そこで、商品に関する豊富な知識と業務経験を生かした高品質な対応を実現するために、同社ではお客様相談室のスタッフに工場や営業、研究・開発センターなどの部門を経験した社員を起用。また、同相談室では指摘・要望はもちろん、問い合わせも含めてすべてをお客さまからの貴重な意見ととらえ、これらに組織的に対応することで顧客満足度を高めようと国際規格ISO10002に即した苦情対応マネジメントシステムを構築。日本の冷凍食品会社で初めて同規格への適合を確認し、2008年に自己適合宣言を行った。以降、図表2の方針・行動指針に基づき、お客さまに対応している。

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 具体的な指摘対応の流れは次の通り。まず、同相談室に指摘が寄せられると、問題のある商品を回収し、回収した商品をお客様相談室から工場へ送る。次に、工場では問題が生じた原因を分析し、結果を文書でお客様相談室へ報告。お客様相談室では文書をチェックした上で、お客さまへ回答している。
 また、用件をチャネル別に見ると、eメールでは商品に関する問い合わせがほとんどだという。
 eメールや手紙への対応は、マネージャーが5名のオペレータに均等に振り分けて対応。コールが少なくなる時間帯にこれらへの対応を行うことで、業務効率の向上に努めている。

さまざまな施策でオペレータのストレスをケア モチベーション向上に努める

 前述の通り、お客様相談室には指摘や要望が多く寄せられることから、オペレータのストレスをケアし、モチベーションを維持・向上する取り組みが不可欠となっている。そこで同相談室では、①叱責を受けたら即時に相談室内で共有し、1人で溜め込まない、②オペレータ同士の勉強会を開催し、振り返りの機会を設ける、③相談室内にBGMをかける、④有給休暇の積極的な取得、⑤適度なノミュニケーションの実施などを行っている。
 中でも、BGMをかけるのは、コールセンターには珍しい取り組みだ。同相談室では、お客さま対応に支障を来さないようインストゥルメンタルを選曲し、控えめな音量で流している。これにより、オペレータの緊張が和らぎ、穏やかな気持ちで対応に当たれることを期待しているという。

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インストゥルメンタルのBGMが流れるお客様相談室

「速報」と「お客さまの声共有会」でVOCを共有

 問い合わせや指摘への対応と並んでお客様相談室が力を入れている取り組みが、VOCの全社共有とこれを生かした品質改善・商品開発である。これにより、お客さまの期待以上の対応を実現することを目指している。
 VOCの共有方法は、内容によって異なるとはいうものの、主に「速報」の配信と「お客さまの声共有会(仮称)」の開催を通じて行われている(図表3)。VOCの分類・分析は、室長、マネージャー、バックヤードのスタッフが担当。まず、「速報」については、毎日、1日分のVOCを家庭用商品と業務用商品とに分類し、内容を要約したものを経営トップ以下、関連部門にフィードバックしている。時には、この内容を受けて、関連部門からより詳細なVOCの照会が求められることもあるという。

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 「お客さまの声共有会」は1カ月分のVOCを分析し、課題を伴う案件を抽出して作成した月報を報告し、共有・検討する場だ。「お客さまの声共有会」には、経営トップ以下、マーケティング、商品開発、研究・開発センター、工場、品質保証センターなどの各部門の代表が参加し、同相談室が取りまとめたVOCへの対策の検討や、改善中の案件の進捗を確認。ここで改善された案件は、同社Webサイトの「お客様の声をいかしました」というコラムで紹介するかたちで、お客さまにフィードバックしている。
 VOCに基づく商品パッケージの改善や商品のリニューアルなどは、これまでに多数行ってきた。最近の改善事例としては、2011年秋に行った「ギョーザ」のパッケージを改善した例が挙げられる。「ギョーザ」は、幅広い年齢層に愛用されている同社のロングセラー商品。調理方法をパッケージ裏面に記載しているが、「ギョーザが上手く焼けない」「調理方法をもっとわかりやすく説明してほしい」という声が多数、寄せられたことを受けて、改善に着手。焼く場合の調理方法について必要なポイントを簡潔に説明することと、大きなイラストを記載することで、より見やすく、わかりやすくした。

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VOCを商品改善に反映した事例を紹介するコラム「お客様の声をいかしました」

次世代スタッフの育成が課題

 お客様相談室では、顧客満足度の高い対応を実現するには、コールセンター・システムの充実はもちろんだが、それ以上に人材の育成が必須と考えている。そこで今後は、人材の育成に注力。既存スタッフの教育を手厚くすることでスキルアップを図り、お客さまの期待以上の対応を推進していく構えだ。その一方で、社員には異動や定年があり、知見・経験ともに豊富な人材が永遠に在職するとは限らないことから、数年先、数十年先のお客さま対応を担う人材の育成にも尽力していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年6月号の記事