コンタクトセンター最前線(第125回):マルハニチログループの顔として問い合わせ対応やお客さまの声活用に注力

(株)マルハニチロホールディングス

2007年10月に(株)マルハグループ本社と(株)ニチロが経営統合して誕生した(株)マルハニチロホールディングス。同社では、グループ4社のお客様相談室業務を一手に担い、グループの顔として全国のお客さまからの問い合わせや苦情に対応。年間4万件弱に及ぶお客さまの声を、商品の改善に役立てている。

グループのお客様相談室業務を一手に担う

 日本が1年間に消費する水産物の総量は約800万トン。人口1人当たりに換算すると65kgで、これは世界平均の約4倍に達する。世界一の魚好きと言える日本人の水産物調達にかかわる分野で大きな役割を担っているのが(株)マルハニチロホールディングスである。同社は2007年10月に、創業から100年を超える(株)マルハグループ本社と(株)ニチロが経営統合して誕生。以来、長い歴史の中で磨き上げてきた両社の強みを最大限に生かし、新しい食の世界を提案する価値創造型企業を目指して、「魚」をコアにした水産事業、食品事業、保管・物流事業を展開し、世界中に「おいしいしあわせ」を届けている。
 同社では、経営統合を機にお客様相談室を統合。マルハニチログループの食品事業を統括する(株)マルハニチロホールディングスの品質保証部内にお客様相談室を設置し、全国のお客さまから寄せられる問い合わせへの対応をスタートした。2008年と言えば、牛肉偽装問題、中国餃子事件など食品を取り巻く事件が相次ぎ、お客様相談室に寄せられる問い合わせ件数が増加していたころ。そのため、統合当初は問い合わせ受付業務に特化していたが、正確な情報伝達と迅速な対応、そしてお客さまの声の活用を目的に業務内容を拡大。さらに、(株)マルハニチロ水産と(株)マルハニチロ畜産のお客様相談室業務も集約した。続いて、2011年4月からは冷凍食品事業を担う(株)アクリフーズのお客様相談室業務を集約。現在、お客様相談室ではマルハニチログループの顔として①マルハニチロブランドの消費者対応窓口、②日々の問い合わせや苦情のグループ内への周知、③お客さまの声に基づく商品開発、物流、販売部署への改善提案、④グループ内の消費者対応に関する指導と助言を担っている。

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引き取り現品を保管する冷蔵庫や代替品発送のための作業スペースを備えたお客様相談室。奥には商品を陳列しており、お客さまと同じ商品を手に取って対応することもよくある

9名のマルチスキルスタッフがすべての用件に対応

 お客様相談室は、東京・豊洲にあるマルハニチロホールディングス内に設置されている。受付チャネルには、電話、Webメール、郵便を活用。電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・インテリジェントサービスを使用している。使用回線数は、マルハニチロ食品が3回線、マルハニチロ水産が1回線、マルハニチロ畜産が1回線、アクリフーズが2回線の計7回線。それぞれ異なるフリーダイヤル番号を用意している。お客様相談室の電話窓口にフリーダイヤルを導入したのは経営統合前の1990年代のことだが、2000年に入ってから住所の一部が聞き取れない場合などに起こりがちな2次苦情の防止を目的に、ナンバーディスプレイを導入。2011年度よりフリーダイヤルとコールセンター機能をパッケージ化したインテリジェントサービスに切り替えた。これにより、通話を録音していることや、発信時に電話番号を通知してほしい旨のアナウンスを開始。さらに、カスタマコントロールを使用して、受電状況の確認、統計作業、非通知拒否設定、混雑時の話中待ち依頼のアナウンス、回線数の変更設定、長期休暇・時間外の休業ガイダンス操作など、お客様相談室の運用に必要な操作を相談室内で行っている。
 受付時間帯は、月曜から金曜日の9時から17時までで、土日・祝日は休業としている。しかし、一部の小さな商品の場合、記載スペースが限られてしまうことから、休日案内を記載できないケースがある。そのため、土日・祝日にも問い合わせが寄せられることから、土日・祝日のみ大手テレマーケティング・サービス・エージェンシーにアウトソーシングするかたちで対応している。また、年末年始やゴールデンウイーク、夏期休業といった長期休暇時には留守番電話で対応し、休み明けにコールバックしている。
 スタッフ数は9名。内訳は、社員5名、契約社員および派遣社員4名となっている。男女比は1対2だ。スタッフはマルチスキルで、マルハニチロ食品、水産、畜産、アクリフーズのすべての商品の問い合わせに対応。お客さまがダイヤルしたフリーダイヤル番号に応じて、名乗りを変えている。なお、9名のうち2名は、Webメールへの対応を兼務している。
 お客様相談室では、フリーダイヤル・インテリジェントサービスで大きな投資をせずに高機能な相談室運営を実現する一方、お客様相談室業務を円滑に行い、かつ顧客満足度向上と危機管理を実現するべくCRMソリューションや通話録音装置を使用している。CRMソリューションは、CS向上システムと命名し、2005年から導入。全社で問い合わせや苦情の情報を共有している。通話録音システムには、(株)タカコムの通話録音装置VR-D170とAT-D770を導入。VR-D170は、スタッフの各電話に取り付けてすべての通話を録音、ATD-770は長期休暇時の留守番電話用に使用している。

CS向上システムを核に業務を遂行


 お客様相談室の業務の流れは図表1の通り。

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 まず、問い合わせ対応の流れを見ると、お客様相談室に問い合わせが寄せられると、お客様相談室のスタッフがその場で回答するワンストップ対応を推進。迅速、かつ的確に対応できるよう、例えば商品に関する問い合わせでは、パッケージに記載されているJANコードで商品を特定している。他部署への確認が必要な場合は、いったん電話を切り、確認した上で回答。問い合わせ内容およびその回答は、CS向上システムの問い合わせデータベースに入力している。
 次に、苦情対応について見ると、お客様相談室に寄せられた苦情は、まず調査が必要な案件と不要な案件とに分けられる。調査が必要な案件については、引き取り現品を確認した後、CS推進課へ調査を依頼。CS推進課から当該商品を製造した工場に引き継ぎ、調査を実施する。そして、工場からCS推進課に調査結果がフィードバックされ、さらに品質保証部を経由してお客様相談室に伝えられる。お客様相談室では、苦情を受け付けたスタッフが、わび状作成から代替品の準備、発送手配、調査結果の報告まで、責任を持って対応している。問題の商品が到着してから調査結果をお客さまに報告するまでには、平均7日を要する。仮に、同様の苦情が頻発したり、重篤な苦情が寄せられたりした際には、お客様相談室から品質保証部へ直接、速報を送る。一方、調査が不要な案件については、お客様相談室で確認作業を行い、回答している。また、すべての苦情は、CS向上システムのクレーム・データベースに入力される。
 取引先から営業担当者に寄せられる苦情については、営業部署で対応することになっている。また、場合によってはお客様相談室に寄せられ、お客様相談室から営業部署へ対応を依頼するケースがある。それら営業部署で対応した苦情についても、CS向上システムのクレーム・データベースに入力される。

2011年度は放射能に関する問い合わせが急増

 お客様相談室が問い合わせや苦情の対象としている商品数は、4グループ会社合計で約3,400品。年間に寄せられる問い合わせおよび苦情の総受付件数(電話とWebメールの合計)は3万件を大きく上回っており、2011年度には3万7,400件に達する見込みだ。これは、2010年度比151%に当たる。3万7,400件のうち問い合わせは3万3,000件で、苦情が4,400件。問い合わせ内容の内訳を見ると、2010年度と2011年度とでは大きな違いが見られる。2010年度は、多い順に、商品規格に関する問い合わせが24%、販売店に関する問い合わせが23%であったが、2011年度は放射能に関する問い合わせが多数寄せられ、総受付件数を押し上げるとともに、全体の43%を占めた(図表2)。お客様相談室の受付状況は、世相を反映するものであることがよくわかる。

【図表2】2010年度と2011年度の問い合わせ内容の内訳
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 お客様相談室の満足度を図る指標としては応答率を重視しており、目標値を90%に設定。2011年3月と4月は東日本大震災の影響で問い合わせ件数が増えたことから応答率が低下したが、スタッフの増員を図り、以降は目標値をクリアしている状況だ。
 4万件弱の問い合わせや苦情に9名で対応するには、商品データベースやFAQの充実、世論や食品事故などの影響を想定した問答集のほか、苦情対応マニュアルの作成が不可欠である。お客様相談室では、独自にExcelベースの商品情報データベースやFAQを構築し、日々メンテナンスを行っているほか、2012年4月に放射能の基準値が変更されることから、その対応に必要な情報を準備しているところだ。

独自の評価指標とアンケートでスタッフ一人ひとりをきめ細かく評価・育成

 加えて、人材育成も重要課題である。お客様相談室では、年度初めにスタッフの能力を評価し、スタッフのレベルに合わせた目標を定め、1年かけてOJTや研修会、お客様相談室内の勉強会、工場見学などを通じて、スタッフ一人ひとりのスキル向上を図っている。評価項目は、言葉遣いやオープニングからクロージングまでの流れがきちんとできているかを見る「受電応対」、苦情に誠意をもって対応できているかを見る「顧客対応」、商品への精通度合いを見る「商品情報」、食品の表示知識を見る「表示知識」のほか、「製造工程・商品規格」「手紙の書き方」「システム操作」と多岐にわたる。
 2011年度からは、苦情を申し出た顧客を対象にした、対応に関するアンケート調査を始めた。頻度は年に2回を予定しており、2011年6月〜9月に1回目の調査を実施。752人にアンケート用紙を送付したところ、426件を回収することができた。調査項目は、電話の受け答えの印象、対応のわかりやすさ、対応のスピード、手紙の内容のわかりやすさ、今後の購入意向など9項目に及ぶ。前述の通り、苦情対応は初めに電話を受け付けたスタッフが最後まで行うことから、このアンケート調査の結果はスタッフ一人ひとりの評価にもなっている。

お客さまの声に基づきわかりやすい表示を推進

 CS向上システムに蓄積された問い合わせ履歴と苦情対応履歴は、必要に応じて集計・分析され、日報・週報・月報として社員および役員と共有。このほか、各事業部署へ商品の改善提案を行っている。
 改善の流れは図表3の通り。このステップを踏んで、年間に数十件に及ぶ改善が行われている。実際に商品が改善された一例としては、カップゼリーのカロリー表示を記載したケースと、電子レンジ加熱の商品に表示を追加記載したケースが挙げられる。

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 前者は、「ゼリーを食べたいけれど、カロリーが気になる」という声に基づき、上ぶたの周囲に沿ってわかりやすくカロリー表示を記載した。
 後者は、電子レンジの多機能化に伴い、電子レンジでの加熱方法の表示がわかりにくいという声が寄せられたことから、見直しを実施。表示されている個数以上の商品を電子レンジで加熱する場合、商品に加熱ムラが生じやすくなるため、それを防止するための表示を行った。

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人材育成とお客さまの声のさらなる活用に注力

 お客様相談室における現状の課題は、人材育成とお客さまの声のさらなる活用だ。
 人材育成については、相談室のスタッフはもちろんのこと、苦情対応でお客さまを訪問する営業担当者の育成も不可欠としている。お客様相談室では現在、新しく苦情対応マニュアルを作成しており、2012年度からはこれを人事研修に盛り込むことが決まっている。このほか、苦情対応マニュアルのエッセンスをまとめた、ジャケットの内ポケットに入る手帳サイズの小冊子の発行を予定している。
 お客さまの声の活用については、これまで以上に商品改善を推進していく意向。お客様相談室からの提案件数を増やす一方、改善の効果を検証して関連部署へフィードバックしていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年4月号の記事