コンタクトセンター最前線(第117回):社内のリソースを生かしワンストップ対応を実現 さらなる応対品質向上とデータベース化を目指す

かどや醤油(株)

ごま油やいりごまといったごま製品の老舗メーカーとして知られるかどや製油(株)。同社お客様相談センターでは、フリーダイヤルの導入により問い合わせ窓口の明確化を図る一方、社内のリソースを生かして効率的にワンストップ対応を実現している。今後は、より一層の応対品質向上と応対履歴のデータベース化を目指し、お客さまの声活用の仕組みを確立させたいとしている。

PL法の施行に伴い顧客窓口を整備

 かどや製油(株)と言えば、山の下に「角」のマークでおなじみのごま油の老舗メーカーである。同社は、1858年(安政5年)に香川県小豆島で加登屋製油所を創業し、ごま油の製造販売を開始して以来、ごまのリーディング・カンパニーとして厳選された原料ごまを使用し、最新設備による徹底した品質管理を行うとともに、独自の厳しい安全・品質基準に基づき、環境に配慮しながら高品質な商品を製造してきた。2000年にはISO9002の認証を取得し、2003年には現在のISO9001に移行。ごま製品を通じて、企業理念である「健康でより豊かな食生活に貢献する」ことを目指している。同社には150年に及ぶ歴史があり、ごま油においてはトップシェアを誇っている。しかし、老舗の看板に甘んずることなく、昨今の健康志向に伴うごまへの関心の高まりを受けて、生活者のニーズに合ったごま製品も開発。さらに、2005年より通信販売も開始しており、現在の取扱商品数は、家庭用と業務用、通販専用とを合わせて300種類を上回る。2011年3月期の売上高は218億3,500万円で、その内訳は、ごま油が79.9%、食品ごまが17.8%、脱脂ごまなどが2.5%となっている。
 同社の家庭用商品と業務用商品に関する問い合わせ、苦情、要望を受け付けているのが、お客様相談センターである。東京・本社内に設置されており、運営・管理を担うのは、販売業務部 販売技術課の3名の社員(図表1)。このうち2名は品質管理部門に在籍したことがあり、ごまや商品の知識はもちろんのこと生産に関してまで幅広い知識を備えている。

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 受付窓口には、フリーダイヤル電話とeメールを用意している。電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを導入。受付時間帯は平日の9時から17時までで、eメールの受付時間は24時間だが、返信は同時間内に行っている(資料1)。

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お客様相談センターの告知媒体には、商品パッケージやWebサイトを活用。Webサイトのお客様相談センターのページでは、よくある質問とともにフリーダイヤル番号を紹介している

 同センターの開設は1995年。95年と言えば、PL法が施行された年だ。同社では、これに先駆けてPL対策委員会を発足し、さまざまな対策を検討。その中の一施策として、顧客対応窓口にフリーダイヤルを導入して、顧客対応の体制を整えた。その後、携帯電話からの着信も可能にし、現在に至る。

既存のリソースを生かしてワンストップ対応を実現しCSを高める

 同センターの業務内容は、前述の問い合わせおよび苦情、要望の受け付けと、顧客の声の活用の2つに大別できる。
 前者については、生活者からは直接、お客様相談センターに問い合わせが寄せられるが、食品メーカー(加工ユーザー)、飲食店、卸問屋といったB to Bユーザーに関しては、センターに直接、問い合わせが寄せられるケースと、全国に点在している4支店、3営業所を経由して寄せられるケースがある。
 電話対応の流れを見てみよう。まず同センターに電話が着信するとIVRのガイダンスで「通信販売」「商品に関する問い合わせ」「キャンペーン・広告」「その他」を案内。顧客に用件を選択してもらうことで、「通信販売」は通販部門、「商品に関する問い合わせ」「その他」と「無選択」はお客様相談センター(販売技術課)、「キャンペーン・広告」はマーケティング課に振り分けている(図表2)。同社ではひとつの電話番号で窓口をわかりやすくする一方、IVRで用件を適切な部門へ振り分けることで、既存のリソースを生かして効率的かつワンストップの対応を実現。顧客満足度(以下、CS)を高めているのである。

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 コンタクトセンター・システムを見ると、IVRは(株)タカコムが小規模コールセンター向けに提供しているIVR-630を採用。また、同社のボイスロギングシステムVR-700も導入しており、全通話を録音している。録音した通話はVR-700の専用ソフトウエアをインストールしたPCでモニタリングが可能となっており、必要に応じて確認しているという。
 eメールにおいても電話と同様に、用件別にWebフォームを設けることで担当部門に振り分け、迅速かつ的確な対応に努めている。同センターでは、電話対応スタッフがeメール対応も兼務しているという。

カスタマーサービスだけでなくヘルプデスクとしての役割も果たす

 お客様相談センターの応対内容の詳細を見てみると、問い合わせは商品やごまに関する事柄のほか、賞味期限や香り、凍結に関することなどさまざま。これらの問い合わせと苦情・要望を合わせて、電話とeメールで月間約100件が寄せられている。問い合わせと苦情・要望の比率は半々だ。時には、各拠点の営業担当者から寄せられる、トランス脂肪酸の分析値などといった専門性の高い問い合わせにも対応しており、カスタマーサービスだけでなくヘルプデスクとしての役割を果たすこともある。
 同センターでは、簡単な問い合わせに関しては応対履歴を残していないが、苦情と要望については専用の用紙に記入。eメールで受け付けた苦情や意見も、電話と同様に記入して履歴を蓄積している。
 品質に関する苦情や問い合わせなどが寄せられた場合には、工場へ調査を依頼。工場から報告を受けてから、生活者やB to Bユーザー、各拠点などへ回答している(図表3)。

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月次・年次でお客さまの声を分析し商品の改良に生かす

 お客さまの声は、同センターが月次で集計・分析している。その結果は経営者をはじめ、工場や本社の関係部署にフィードバック。各部署にて品質改良の検討を開始したり、経営会議などで品質改良の方針について議論したりするという流れで活用している。同社社長はお客さまのニーズに対して高い関心を寄せており、月次報告レポートだけでなく、苦情と要望の記録1件1件に目を通しているという。
 また、お客さまの声を長い期間で見てみると月次分析とは違った傾向が見えることがある。そのため、ISOのマネジメントレビューと呼ばれるプロセスにより、年次でも集計・分析を行い、ISO管理責任者を経由し、社長に報告している。このレビューを通じて社長から指示を受けることにより、計画・実行・評価・改善(PDCAサイクル)を行うことで、継続的な品質の管理および向上を図っているという。このほか、日々の業務の中で生じる、工場の生産工程内で生じた不良やお客さまから指摘を受けた案件に対しては、都度、是正処置を実施し、再発を防止している。さらに工場では定期的に品質会議を開催して、活発に改善に関する情報交換を実施。
 このように、案件に応じて臨機応変に、かつ継続的に品質改善を行う機能が組織に根付いていることが、ごま油の老舗であるばかりでなく、長い間ごま油のリーディング・カンパニーとして生活者から揺るぎない信頼を獲得している所以だろう。

賞味期限表示やラベルを改良し苦情・要望の減少に貢献

 これまでにお客さまの声がきっかけとなり商品を改良した例は多々あるが、代表的なものを紹介したい。
 ひとつ目は、賞味期限の表示方法の変更である。同社ではもともと賞味期限を西暦下2ケタで表示していた。純正ごま油(瓶入り)の賞味期限は製造日から2年とされている。そのため、2008年に製造した商品の賞味期限は2010年になるが、例えば「10.6.24」という表示の場合、西暦なのか邦歴なのか紛らわしく、2008年ごろから賞味期限に関する問い合わせが増え始めたのである。そこで、2008年10月から西暦4ケタ表示に変更したところ、以降、同様の問い合わせは減少したという(資料2)。

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純正ごま油(瓶入り)の消費期限表示の改良前(左)と改良後(右)

 2つ目は、ラベルの変更である。かねてより、分別廃棄の際に紙ラベルが剥がしにくいという意見が寄せられていたことから、純正ごま油などメイン商品についてはシュリンクラベルに変更した。ラベル変更のためには製造ラインを新設する必要があったため、検討から実行まで数年間を要した。
 3つ目は、辣油である。辣油のキャップを閉めるときに、出口に残った辣油が飛び、「目に入った」「服が汚れた」という苦情が寄せられたことから、キャップを改良。辣油の飛び散りを防止した。
 また、お客さまの声活用の新たな取り組みとして、現在、同センターでは、2008年から2010年までの3年間の履歴を分析し、苦情の事由がお客さまにあった場合でも、ほかのお客さまにも同様の事柄が生じる可能性があると考えられるものをとりまとめている。月次報告や年次報告では見えにくいことを発見し、積極的に改善を図ることで、さらなるCS向上とリスクマネジメントを強化することが狙いだ。

今後は応対品質の向上やデータベース化に注力

 同センターでは現状の課題として、応対品質の向上と応対履歴のデータベース化、そして人員体制の拡充の3つを挙げている。
 応対品質の向上については、ロギングシステムで録音した音声データを活用していく構え。定期的にモニタリングを行い、言い回しや良い応対を共有していく意向だ。
 一方、応対履歴のデータベース化については、すでにCRMシステムの導入は終えており、あとはこれまで紙で蓄積してきた履歴を入力するだけの状態にある。しかし、センター業務を担う販売技術課ではさまざまな業務を兼務していることに加え、人員が限られていることから、現状ではシステムの有効活用には至っていない。今後は、こうした課題を解決しながら、より一層、スピーディーにお客さまの声を商品の改良につなげていけるよう、努めていきたいとしている。
 同センターでは、スピーディーな商品改良を実現するためには、会社がお客さまの声を商品の改良に生かす判断基準や会議体などを明確に定めることが理想的であると考えている。しかし、これを実現するには他部署を巻き込んだ改革が必要であり、老舗であるが故にさまざまなハードルを超えなければならないことが予想される。理想を実現するには、同センターの社内での位置付けを高めていくことも必要だろう。今後は、コストセンターではなく、新たなビジネスチャンスを生み出す情報源としての有効性をアピールし、ビジネスの維持・発展に不可欠な部署として認識されるよう、社内への情報発信を積極的に行っていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年8月号の記事