コンタクトセンター最前線(第110回):応対フローの標準化とナレッジデータベースの構築でセンターが抱える問題を解決

オリンパス(株)

オリンパス(株)顕微鏡お客様相談センターは、顕微鏡に関するさまざまな問い合わせに対応する部門である。顕微鏡という専門性の高さから、これまで対応業務のすべてをベテラン社員が担っていたが、新任スタッフでも対応することができ、かつ高品質で均一な応対を実現するべく、応対フローを標準化すると同時に、ナレッジデータベースを構築。その結果、人材育成の効率化と応対品質の向上を実現した。

営業サポートを目的に開設

 映像、医療、ライフサイエンス、産業関連などの事業を手掛けるオリンパス。カメラのイメージが強いオリンパスだが、そもそもは顕微鏡事業からスタートした企業で、90年の長い歴史がある。現在、国内で顕微鏡の製造販売に携わる企業はいくつかあるが、専用のお客さま対応窓口を設けているのはオリンパスだけだ。
 窓口の名前は、顕微鏡お客様相談センターで、開設は1998年。当初は販売会社における営業部の所管であったが、その後、ライフサイエンス国内営業部に移管した。
 現在のスタッフ数は、計5名。3名のスタッフが一次対応を担い、残り2名のスタッフが一次対応者のフォローや二次対応といったSV業務およびセンターマネジメントを担うかたちで運営している。
 受付チャネルには、電話とeメールを活用。電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入し、携帯電話とPHSからの着信も可能にしている。フリーダイヤルの受付時間帯は、平日の8時45分から17時30分で、月間約2,000〜3,000のコールに対応。eメールは、同じく月間で260件に及ぶ。

CS向上・利益直結型の体制を阻害する要因

 顕微鏡を取り巻く分野は、生物・物理、機械・電気、光学、材料・素材と多岐にわたる上、製品数は古いモデルから最新のモデルまで膨大な数に及ぶ。また、顧客は趣味で利用する個人ユーザーから研究者までさまざま。こうした中、問い合わせの内容とレベルは広範囲に及び、高度な知識と経験がなければ対応できなかったことから、開設当初はベテラン社員4名を起用し、センターを運営していた。
 しかし、人に依存した組織構造は永続的ではない。①年月とともにベテラン社員が定年退職などで減少。専門性の高い分野であるが故に後継者の育成が進まず、従って同センターでも後継者が不足するという問題を抱えていた。
 このほか、②お客さまに満足していただける対応をワンストップで提供できていない。③回答に必要な情報が社内に散在していることに加えて、あるものは紙、あるものはデータで保管されているために体系化がなされておらず、検索性に欠ける。④営業サポートを目的に発足したものの、お客さま対応が利益を生み出していない、といった問題もあった。
 4つの問題のうち、③が解決すれば、そのほかの問題の解決にもつながる。そこで同センターでは③を重点課題と位置付け、2006年より、誰でも短時間で回答でき、かつ同じ質問には誰が答えても同じ回答となる仕組みの構築に着手。さらに、顧客と営業の架け橋となり、見込客を顧客へ、顧客をロイヤルカスタマーへと引き上げる取り組みを開始した。

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顕微鏡お客様相談センターと(左)、隣接しているショールーム(右上)。不明点があれば実際に製品に触れて確認することができる

改革に向けた3つの取り組み

 同センターが初めに行ったのが、新任社員でも一次対応ができる仕組みづくりである。約1万件のボイスログ・データを抽出して1件1件聞き込み、質問内容と回答を分析。その結果、製品固有の質問ではなく、顕微鏡に共通する質問が多数を占めることが判明した。そのため、これを23項目に分類した後、さらにトラブルシューティングの手法を用いて簡素化することで、オープニングからクロージングまでの対応プロセスを標準化していった。
 次に行ったのが、各質問に対して迅速・的確な対応を実現するナレッジデータベースの構築である。商品規格、カタログ、取扱説明書、価格表、パーツリストなど、多くの情報を集約して統合データベースを構築した。構築に当たっては、約2万件に及ぶ過去の応対履歴を分析して、質問に対して回答に素早くたどり着けるよう、質問内容を「概要(仕様・価格・外寸)」「性能」「製品比較」「使用方法」「アプリケーション」「接続方法」「テクニカルサポート」「購入方法」などの12カテゴリに分類し、FAQを検索できる仕組みとした。
 このデータベースの特徴としては、まず検索性の高さが挙げられる。問い合わせの分野(生物、光学など)を選ぶと、先述の12カテゴリのフォルダが表示され、その中から該当するものを選ぶと、そこに登録されているFAQが一覧になって表示され、その中から該当するFAQを選ぶと回答内容が表示される。つまり、3クリックで回答を得ることができるのだ。このほか、同データベースでは「〜がしたい」といったお客さまの言葉やキーワードでの検索も可能にした。
 また、FAQカテゴリとは別に、専門用語、基礎知識集・応用知識集も体系化。オペレータの応対をサポートするだけでなく、自主学習にも役立てている。
 そして最後に行ったのは、電話応対スキルを効率的に高めることができる仕組みづくりである。同センターが目指す応対を実現するために必要な項目を評価項目とし(図表1)、応対スキル評価シートを作成。モニタリングによる評価を定期的に実施する体制を整えた。

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 評価指標の策定に当たっては、スピードとクオリティを高め、コストを低下させ、顧客満足度と収益性を高めるというCOPC-2000®規格の考え方を取り入れている。
 同センターでは、モニタリング→評価→フィードバックを繰り返すことで、まず、企業イメージ、生産性・効率性、顧客満足度のレーダーチャートのバランスを整えることに注力。これができれば、その後はレーダーチャートが自然と大きくなっていくという。

今回の改革で得られた効果

 改革に向けた3つの取り組みを行ったことで、さまざまな効果が得られている。ひとつは、導入研修期間の短縮である。同センターの導入研修は、顕微鏡の知識と業務知識を学んだ後、実際の応対を聞くという方法で行われている。2007年実績では、デビューまでに3カ月を要していたが、2009年実績では10〜14日間と大幅に短縮することができた。ただし、デビュー直後の1週間は、SVがデスクサイドで応対を聞いているという。
 これまで、研修期間中はSVが拘束されることから、応答率の低下を招いていたが、研修期間が短くなったことで、電話がつながりやすい環境を維持することが可能になった。
 もうひとつは、センター運用の効率アップである。ナレッジデータベースの活用により、応答率が約60%から約90%に改善。平均回答時間が約6分から約3分30秒に短縮(図表2)。さらに、一次対応完了率は、99.5%を達成している。

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 そして最後は、利益への貢献である。応対スキルが向上すると、簡単な価格の問い合わせから、見積もり依頼、購入へと発展するケースがある。2009年には、営業へのフィードバックが12%あったが、2010年はさらに増加し、20%に達する見込みだ。これらは販売実績に直結しているわけではないが、利益に貢献しているという手応えは感じているという。

ナレッジデータベースの水平展開で副次効果も

 同センターでは、顕微鏡事業部内で、ナレッジデータベースの水平展開を行った。現在では、全国の拠点でも同じ情報を閲覧できるようになっている。
 加えて、ナレッジデータベース簡易閲覧ソフト「アンサーヘルプリーダー」を独自に開発することで、営業担当者のモバイルパソコンでも閲覧することができるようにしており、現在約200名の端末に導入されている。各営業担当者のモバイルパソコンにインストールして使用するため、膨大なデータ量を数キロバイトのテキストデータに縮小することで実現した。
 「アンサーヘルプリーダー」は、ネットワークにつながっていない環境でもデータベースを閲覧できるよう、オンラインでもオフラインでも使用できる仕組みとした。また、日々、追加、変更される情報を自動的に更新することができる仕組みも備えている。ネットワークにつなぐだけでソフトウエアが自動的に新しい情報をサーバーに探しにいき、更新してくれるので、営業担当者はデータベースのメンテナンスをすることなく、いつでも最新の情報を携帯することができるようになっている。
 今回、ナレッジデータベースを構築し、全国の拠点との共有を図ったことで、全国の拠点に常駐しているセールスサポートスタッフが今まで以上に顕微鏡に興味を持つようになり、顕微鏡の専門用語、基礎知識集、応用知識集を使って自主的に勉強するようになったという。そのため、セールスサポートスタッフからの問い合わせや相談の件数が2分の1に減少するという、副次効果も得られたそうだ。
 なお、同センターの改善とその効果が認められ、コンタクトセンターの運営改善の取り組みを表彰する「コンタクトセンター・アワード2010」において、オペレーション部門の最優秀賞を受賞した。

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Webサイトの問い合わせページでセンターを告知

お客さまの声活用への取り組み

 オリンパスでは、顧客の視点での製品作りとサービス提供に努めている。この活動を支えることも、同センターの重要な役割となっている。
 同センターでは、毎月、部長会議でお客さまの声を報告している。部長会議では、その場で同センターから挙げられた改善要望を1件1件検討し、できるかできないかを判断。できるものについては、迅速に改善要求を出している。
 一方、改善できないものについては、カスタマー・クオリティ・インフォメーション・システムに入力。顧客の要望を全社で共有し、該当部門から「時間がかかるができる」とか、「次のリリース時に対応する」とか、「技術的に難しい」といった回答を得ている。同センターでは、結果を教えてほしいという顧客には、結果のフィードバックを行っている。
 VOCの活用例としては、古い顕微鏡にEシリーズのデジタル一眼レフカメラを付けられるアダプターを作った。このほか、部署ごとに表記を決めていたことから、カタログの表記と見積もりの表記が違って顧客を混乱させることがあったため、社内用語の統一を図ったのもその一例だ。

アウトバウンド体制の構築を検討

 同センターが開発したナレッジデータベースは、海外拠点での活用に向けて準備を開始したところ。これが実現すれば、コールセンターで構築したデータベースが日本国内および海外で共有されるという、画期的な事例になる。
 また、2011年4月以降の取り組みとして、アウトバウンド体制の構築を掲げている。資料請求者に対し、営業担当者に代わって資料送付後のフォローコールを行うことで、営業サポートを強化する考えだ。業務量によっては人員増も考慮するが、まずはインバウンド業務の空き時間を有効に活用するための一施策として行っていくという。同センターが利益への明確な貢献を果たす時期はもうすぐそこまで来ていると言えるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年1月号の記事