コンタクトセンター最前線(第103回):東京メトロお客様センターにフリーダイヤルを導入 より多くのVOCを収集する環境を整備

東京地下鉄(株)

2004年4月に新会社としてスタートしてから7年目を迎えた東京地下鉄(株)。同社では、設立時よりお客さまの声に耳を傾け、お客さまの視点に立ったサービスの提供を目指してきた。そして2010年4月には、その取り組みをさらに積極的に行うために、お客様センターにフリーダイヤルを導入。より多くの声を収集する環境を整えた。

問い合わせ窓口を一本化しVOCを集中的に集める

 東京都区部を中心に9路線195.1km の地下鉄網を運営し、首都圏の鉄道ネットワークの中核を担う東京地下鉄(株)。「東京メトロ」の呼び名で親しまれている同社では、1日当たり636万人のお客さまに利用される公共交通機関として、輸送の安全性の確保を優先すると同時に、お客さまの視点に立ったサービスの提供により利便性、快適性の向上に取り組んでいる。
「お客さまの視点に立つ」
 これは、同社が新会社としてスタートした当時から掲げている理念である。公共性の高い鉄道事業者である東京メトロは、お客さまのニーズを的確に把握し、誠実に対応していくことが、企業価値を高め継続的に発展していくために不可欠であると考えており、お客さま視点をすべての事業活動における基盤としている。
 お客さま視点に立つことは、まずお客さまの声(VOC)を聞き、お客さまを知るところからはじまる。VOCを重要な経営資源・財産ととらえる東京メトロでは、集中的にVOCを集めるために、2004年の新会社発足を機に「お客様センター」を設置。それまで用件ごとに分かれていた窓口を統合し、運賃や運行状況、忘れ物の問い合わせへの対応を一本化した。
 具体的な業務内容としては、上記のほかに、各駅の駅員や案内係であるサービスマネージャーに寄せられるVOCの収集・蓄積がある。同社におけるすべての顧客接点で得た情報をお客様センターに集約しているのだ(図表1)。

1006S1

 もうひとつ、VOC活用のための情報発信業務も担っている。お客様センターに寄せられるサービスや施設に関する意見や要望にもできる限り迅速に対応できるよう、週報やCS推進会議を通じて社内にフィードバックしているのだ。情報発信基地としての同センターの活動については、後ほど詳しく紹介したい。

より多くの要望に対応するべくフリーダイヤルを導入

 センターの認知度の高まりに比例して、受付件数は増加するのが一般的である。同センターも例外ではなく、新会社発足時に比べて現在の受付件数は約2倍に達している。これを受けて、近年は受付体制を拡充し、お客さまをお待たせしない体制作りに注力しているほか、利便性を高めてCS向上を図るとともに、より多くのVOCの収集を目指し、2010年4月にNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入。0120-104106による受け付けを開始した。
 今回のフリーダイヤルの導入は、VOC活用の一環でもある。かねてより、お客様センターにフリーダイヤルを導入してほしいという要望が多数、寄せられていたのだ。また、CS推進の観点からフリーダイヤルの必要性を訴える声が社内から挙がっていたことも導入を後押しした。
 導入に当たっては、IP電話やフリーダイヤルと同じくNTTコミュニケーションズが提供するナビダイヤル・サービスと機能や費用を比較。検討を重ねた末、より多くのお客さまに利用していただけるよう、通話料を同社が全額負担する方針を固め、フリーダイヤルを選択するに至った。鉄道会社がお客さま用に開設している問い合わせ窓口でフリーダイヤルを導入しているケースは、めずらしい。
 フリーダイヤル・サービスは、基本サービスの「発信端末選択」で着信できる電話の種類を選ぶことができるようになっている。携帯電話やPHSについては着信を拒否することもできるが、同社ではこれらの着信も可能にすることで、より一層、アクセスしやすい環境を作り、お客さまの利便性を高めた。

1006S3

フリーダイヤル導入後のPR ポスター

適切なオペレータにつなぎワンストップ・サービスを推進

 お客様センターは、1カ所で運営されている。
 受付時間帯は、午前9時から午後8時まで。地下鉄の運行と同様に、365日無休だ。
 受付チャネルには、フリーダイヤル電話、eメール、手紙、FAXの4つを利用。スタッフ数は、所長1名、副所長2名、社員オペレータ12名、嘱託オペレータ6名、派遣オペレータ14名の計35名で、常時20〜25名が早番と遅番の2シフト制で対応に当たっている。
 電話対応のモットーは、「よく聞く」「確実」「迅速」。お客さまに納得していただける対応ができるよう、よく聞き、確実に対応し、フリーダイヤルだからといってお待たせすることをよしとせず、迅速に対応することを心掛けている。
 電話対応においては“ ワンストップ・サービス”も推進している。同センターでは、フリーダイヤルの導入に先駆け、この3月にIVRを導入し、お客さまに用件を選択していただいてからオペレータにつなぐ仕組みを構築。スキル・ベース・ルーティングにより用件ごとに確実に対応できるオペレータに電話をつなぐことで、ワンストップ・サービスのさらなる徹底を図った。
 なお、IVRのガイダンスは、忘れ物、運賃・乗り換え、パスモ・To Me CARD、その他の4つにとどめることで、お客さまにとってわかりやすい案内を心掛けている。
 eメールの対応においては、迅速な返信を推進。以前は、72時間以内の返信を目標としていたが、現在ではほとんどをその日中に回答することができているという。
 eメール対応の流れは、まず、eメール責任者がすべての文面に目を通し、内容に応じて適切なオペレータに振り分ける。次に、オペレータが回答を作成。回答内容を責任者が確認し、管理者の承認を得てからお客さまに返信するという具合。同センターでは、コンタクトセンターシステムにNTTデータ先端技術(株)の総合受付窓口支援システム「テクノマークメール」を導入しており、この機能によって管理者の承認と同時に、お客さまへの返信が行われる仕組みになっている。

1006S2

お客様センターの様子。席を区切るパーテーションが低いため、孤立感がない

1006S5

1件1件のコールに熱心に対応するオペレータ

4月以降はコールが約2割増加

 お客様センターに寄せられた声は、駅員やサービスマネージャーに寄せられたものも含めて、すべてテクノマークメールに入力し、一元管理されている。ちなみに、各駅に寄せられた情報は、日々、FAXでお客様センターに伝達される。
 受付状況を見ると、2008年度には11万1,390件が寄せられた。利用チャネルの多くは電話とeメールで、手紙とFAXの利用はごくわずかとなっている。
 11万件のうち1万1,271件は意見・要望で、その内訳は運転・ダイヤに関することが33.5%、駅に関することが15.3%、接客に関することが12.9%、車両に関することが9%、車内冷暖房に関することが7.5%であった。
 フリーダイヤル導入以降は、電話だけを見ると、1日平均約600件を受け付けている。フリーダイヤルの導入に伴うコール増に加えて、新社会人や新入学生からの問い合わせが増える時期と重なったことから、2割ほどのコール増になっているという。
 この時期、特に多く寄せられているのは相談の電話。東京メトロは9路線を有していることから、最寄り駅から目的駅までの経路が複数存在するケースがあるのだ。こうした場合、同センターではお客さまのニーズをよく聞き、運賃や所要時間、混雑具合などを考慮した上で最適な経路を案内している。

サービス改善の取り組みをお客様サービス課がサポート

 お客様センターに集まったVOCは、週報、月報、そして「お客様からの通信簿(年報)」(図表2)としてイントラネット上に公開し、全社で共有。サービスの向上に反映させている。

1006S4

 中でも、お客さまの要望は、CS推進チームやCS推進リーダー会議、CS推進会議で実現への検討がなされ、鉄道本部会議、経営会議を経て実現される(図表3)。比較的実行が容易な改善についてはCS推進会議までの審議で実行に移されるが、重要案件については、経営会議にまでかけられる。

1006S6

 この流れを経て行われたサービス改善は多数あるが、最近の例としては、ダイヤ改正が挙げられる。「原宿へ買い物に行きたいのに、急行列車だと明治神宮前駅を通過してしまい不便」という声が多く寄せられたことから、2010年3月6日に、有楽町線・副都心線のダイヤ改正を行ったのである。有楽町線は準急列車を各駅停車に変更。乗降機会を6駅に増やした。また、副都心線は、土日の急行列車停止駅に明治神宮前駅を追加。千代田線との乗り換えも可能にし、利便性を高めた。
 こうした取り組みを支援しているのが、同社お客様サービス課である。お客さまに満足いただけるサービス改善を行うには、多くの部署の協力が不可欠。そのため、同課がCS推進事務局として部門間の意見を積極的に調整し、部門横断的に施策を実行できるようサポートしているのだ。併せて、お客さま満足度向上のために実施した施策をお客さまにPRすることも、同課が担っている。

1006S7

最新のサービス改善例を紹介したポスター

課題は、応答率向上とスキル・ギャップの解消

 お客様センターの現状の課題としては、まず目標応答率を高めることが挙げられる。現在、応答率93%を実現しているが、これを100%に近づけようとしているのだ。そのための施策として取り組んでいるのが、平均通話時間の短縮である。
 現状、忘れ物の問い合わせの場合、お忘れ物検索システムへのアクセスが必要な上、お客さまの話から考えられる限りの可能性を挙げて探索していることから、対応に5分以上を要している。一方、そのほかの問い合わせの通話時間は平均3〜4分であることから、忘れ物の問い合わせの通話時間もこれと同レベルにまで短縮させることで応対効率を高め、1件でも多くの電話に対応していきたいとしている。
 もうひとつの課題としては、応対スキルの底上げが挙げられる。同センターでは、FAQがスキル底上げの一助になると見ており、現在FAQの構築を推進中。その一方で、何らかの教育方法も模索しているところだ。
 お客様センターは情報発信基地である。今後もより多くのお客さまにお客様センターを利用していただき、さらなるVOC活用を推進していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年6月号の記事