コンタクトセンター最前線(第51回):安心・信頼のキーワードは「ユーザーフレンドリー」 と「ダイレクト」

ダイソン(株)

掃除機メーカーでありながら、 常にお客様に目を向けた製品開発や事業展開を行っているダイソン(株)。開発のみならず、 販売後のサポート体制も重要視する同社では、お客様相談室を強化。 メーカーとお客様との間に潜む見えない壁を取り払い、お客様の疑問や困りごとをダイレクトに解決するサポート体制を構築することで、迅速で適切な対応を実現し、お客様の信頼を獲得している。

お客様の視点に基づく製品開発とサポート体制を構築

 近年、デジタル家電が何かと話題を集めているが、機能を向上させた、いわゆる白もの家電市場もにぎわいを見せている。その火付け役とも言えるのが、サイクロン式の掃除機を開発したダイソンである。
 同社の日本法人であるダイソン(株)のお客様相談室を紹介する前に、少々長くなるが、同社のお客様に対する姿勢について説明したい。
 まず、サイクロン式の掃除機は、現在、英国本社の会長を務めるジェームス・ダイソン氏が、自宅で使用していた紙パック式の掃除機が、目詰まりが原因ですぐに吸引力が低下してしまうことに不満を感じたことがきっかけとなり、誕生した。そして、5,000台以上の試作を経て、1993年に世界で初めて、紙パックを使わないサイクロン式の掃除機を発売したのである。
 これまでにない、まったく新しい製品の登場は、人々に驚きと戸惑いを与える。ましてや掃除機は、頻繁に使用する身近なものだけに、疑問やトラブルはすぐに解決したいと考えるのが顧客心理と言える。そこで、ダイソンでは、製品開発のみならず、アフターサポートにおいてもユーザーフレンドリーを追求し、顧客窓口の構築に力を注いできたのだ。
 日本市場への参入は1998年。翌99年より販売を開始しているが、日本においてもそのユーザーフレンドリーな姿勢は継承されており、世界初の掃除機を普及させるマーケティングの一環として、サポート体制の構築・運営には細心の注意が払われている。
 家電製品の修理プロセスは、お客様が購入した販売店に製品を持ち込み、販売店を経由して、販売店がもつ修理部隊あるいはメーカーの修理部門が対応するという流れが一般的である。この場合、持ち込みに手間がかかる。さらに、故障か故障でないかを判断し、故障であればその原因究明に時間を要するといった問題もある。繰り返しになるが、掃除機は頻繁に使う身近なものだけに、トラブルはすぐに解決したいと考えるのが顧客心理である。そのためダイソンでは、お客様のトラブルをダイレクトに受け付け、状況を迅速に把握。修理が必要な場合は、宅配便で製品を回収して修理を済ませ、72時間以内に返却するというサポート体制を構築した。問い合わせの受け付けから修理部門との連携に至るまでをスムーズに行うために、お客様相談室のオペレーションシステムには、ERPとCRMの機能を併せ持つものを導入している。
 また、インターネットやeメールが普及した現代でも、トラブルが発生したときにお客様が最も短い時間でメーカーに問い合わせでき、回答が得られる手段は電話である。そこでダイソンでは、電話をメインチャネルとしたお客様相談室の運営を、サポートの核と位置付けた。
「お客様は宝」と明言するダイソン。その言葉の通り、お客様を大切にする姿勢が、製品開発から修理や問い合わせの受け付けに至るすべてに反映されているのである。

製品にフリーダイヤル番号を記載して、使用時に発生するトラブルに備える

 ダイソンお客様相談室は、東京都千代田区の本社内に開設されている。ここには、主に、利用上の問い合わせ、ご意見・ご指摘、修理依頼が寄せられる。
 電話窓口には、お客様の通話料負担を軽減したいとの考えから、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを導入。携帯電話ユーザーが増加していることから、携帯電話からの着信も可能にすることで、お客様の利便性を高めている。
 さらに、電話番号告知方法もまたユーザーフレンドリーである。製品そのものに、お客様相談室のフリーダイヤル番号を記載しているのだ。もちろん、取扱説明書やWebサイトにも記載しているが、掃除機のような操作方法がシンプルで、メーカーや機種による操作の違いがないに等しい家電製品を利用する際、取扱説明書を丁寧に読むお客様は少ないし、必ずしも長期にわたって保管されているとは限らない。また、Webで電話番号を調べてから電話をかけるとなると時間がかかり、お客様のストレスとなることから、製品へ直接記載するという方法を採り入れたのである。
 トラブルが生じるのは、そのほとんどが掃除機を使用している時なので、この告知方法はお客様にとって非常に親切と言えよう。トラブル発生時にすぐ電話をしてもらえれば、早期解決につながると同時に、顧客満足度を高めることができる。
 一方、製品の購入を検討しているお客様から寄せられる、問い合わせの受け皿も必要である。こちらには、一般加入回線を使用して、同じくお客様相談室で対応。お客様のグループ別に異なる電話番号を利用することで、サービスの差別化を図っている。

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2004年6月に発売された「DC12」。これは、お客様相談室に寄せられた情報や、モニター調査の結果など、あらゆる手段を通じて市場のニーズを収集して日本市場向けに開発された製品である。日本の住環境においては、収納のしやすさが求められることから、伸縮パイプを用いて本体に巻き付けることで、コンパクトな収納を可能にした。また、軽量化を図り、大きさと重さの2つの課題を解決。これにより、販売実績を伸ばしている。お客様相談室のフリーダイヤル番号は、視界に入りやすい、本体のパイプ差込口に記載されている

コミュニケータを正社員として採用しモチベーション向上を図る

 お客様相談室の受付時間帯は、午前9時から午後6時まで。元日を除いて364日、営業している。席数は20席。常時14〜15名の製品を熟知したコミュニケータが対応に当たる。
 お客様相談室開設当初は、まだお客様数が少なかったことから2〜3名で対応していたが、市場拡大および2004年6月に日本市場向けに開発された「DC12」の発売を機に、人員と受付時間帯を拡充したという経緯がある。
 お客様相談室の特徴として、コミュニケータを全員正社員として採用している点が挙げられる。これは、離職率の低下、スキルアップ、モチベーションの維持・向上を目的としたもの。ダイソンでは、継続的なトレーニングは、スキルを高めるだけでなく、コミュニケータの気持ちをリフレッシュさせることができる。そして、モチベーションの向上にもつながると考えているのである。

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身体と頭で製品を理解しお客様に共感するスキルを習得

 同社の研修は、まず、掃除機の組み立てから始まる。机いっぱいに広げられたパーツを組み立てて、製品を完成させ、製品の分解と組み立てを徹底的に叩き込む。さらに、製品を自宅に持ち帰らせ、実際に利用することで、身体で製品を理解させているのである。こうすることで、電話の向こうにいるお客様の状況をイメージしやすくなり、的確な判断やアドバイスができるようになるのだ。その後は、新製品の発売などを機に、継続的な研修を行っている。
 こうしてより一層高まった応対品質により、メカニックを不得意とする主婦などから不具合の内容をうまく聞き出し、数分で問題を解決している。また、「スイッチを入れても、回らないのはなぜ?」といった、サイクロン式掃除機が新しい製品であるがゆえに、お客様が抱く素朴な疑問にも真摯に対応。不安を解消して、信頼を得ている。
 2004年と2005年に『日経ビジネス』が実施した「アフターサービス調査」の掃除機部門で、同社は2年連続で1位に輝いた。これは、ダイソンのお客様を大切にする取り組みが、確実に成果を挙げている証のひとつと言えよう。

ダイソンお客様相談室

本社が入居するビルのワンフロアの一角に設けられているお客様相談室。他部署とはガラスの壁で仕切られており、閉塞感がなく、オープンな雰囲気を漂わせている。中央の棚にあるのは製品見本で、コミュニケータたちは、実際に製品を手にしながら応対に当たるケースもあるという。また、部屋の片隅にはミネラルウォーターが用意されており、コミュニケータへの気遣いがうかがえる

市場シェア拡大とともに増加するコールへの対応が課題

 日本は世界に名だたる総合電機メーカーが林立し、国内需要も多い家電大国である。近年では日本製品に限らず、さまざまな外国家電も見られるようになった。しかし、外国家電は、はじめは高いデザイン性で注目されるものの、普及には至らないケースが多い。
 こうした中、ダイソンが日本市場に支持されている理由はどこにあるのだろうか。それは、製品と主に既購入者をサポートするお客様相談室、そしてバックヤード部門のすべてが、ユーザーフレンドリーであることが基本になっているためだと考えられる。お客様のニーズにあった製品を開発する。そして、問い合わせやトラブルへの対応から修理までをスピーディーに行う。こうした、お客様の不安を安心に変え、信頼を獲得する取り組みが実り、日本でのシェアを高めているのである。世界的に見ても、日本市場は重視されており、今後はより一層の成長が見込まれている。
 ここで、お客様相談室の課題となるのが、シェア拡大に伴うコール増に、いかに対応するかである。すでに、昨年末のボーナスと大掃除のシーズンからコール数は増加傾向にある。2005年11月までは月間7,000件程度だったコール数が、12月には1万件を上回った。年が明けた現在も、コール数は減少することなく、約1万件前後を推移しているという。そのため今後は、人員の拡充も視野に入れ、受付体制の拡充を図る予定である。


月刊『アイ・エム・プレス』2006年3月号の記事