低価格パソコンの開発・製造を実現し、今日の低廉化のきっかけを作った (株)ソーテック。 その一方で、サポート体制の不十分さがユーザーの満足度を低下させていた。 これを解決しようと、サポート専門の子会社を立ち上げてから早5年。これまでどのような改善に取り組み、サポート体制の充実を図ってきたのか。また、これから目指すコールセンター像に迫ってみた。
子会社を設立してサポート体制の基盤を固める
1984年4月、(株)工人舎の技術部門が独立するかたちで設立された(株)ソーテック。“私たち自身がユーザーとして、誰からも愛されるワクワクするコンピュータを開発してゆく”という精神のもと、パーソナルコンピュータの企画・開発・生産・販売を行っている。
同社製品は、これまでになかった低価格でユーザーを魅了し、急激に販売台数を伸ばしていった。一方では、予想を超える反響でサービス体制の増強が追いつかず、お客様に十分なサポートを提供することができなくなっていた。製品が話題となっていたこともあってサポート体制の不十分さが目立ち、「つながらないコールセンター」などと揶揄されたことをご存じの方も多いだろう。
製品開発はもちろんのこと、ユーザーサポートも重要であると考える同社では、早急にこうした状況を改善しようと、2000年5月にサポート業務を専門に行う(株)ソーテック・イー・サービスを設立。ユーザーからの技術的な相談などに応えるテクニカルサポート業務や保守・修理業務の改善に着手。ユーザーの満足度を高めようと、取り組みを開始した。
その後イー・サービスを中心としたさまざまな試みが実施され、当初は、沖縄、札幌、横浜の3カ所に点在していたカスタマセンターを横浜に統合。さらに、保守・修理センターもカスタマセンターと同じ敷地内に移転し、テクニカルサポートと保守・修理の連携を可能にした。修理受付から発送まで、スムーズな応対を実現したのである。また、オペレータの増員と教育、IT投資などインフラ整備に努め、サポート体制の基盤を固めていった。
現在、電話による受付時間帯は、午前9時30分から午後6時までで、年中無休。電話のほかにWebメールと訪問によるサポートを提供している。スタッフ数は60名で、ユーザーサポートのほかに販売店のサポート窓口も担っている。こちらの受付時間帯は、月曜から金曜日が午前10時から12時までと13時から19時まで。土曜日が午前10時から12時までと13時から18時までで、日曜・祝日は休業となっている。
IT投資によるオペレーションサポートとオペレータの育成に注力
IT投資はインフラ整備の中でも特に注力した点だ。カスタマセンターでは、基幹システムであるコールシステムとリペアシステムの構築に当たり、システムベンダーと共同で一から開発。現場のニーズを盛り込んで、業務に最適なシステムを作り上げていった。また、実際に運用してから発生する問題点についてはきめ細かく手を加え、迅速で正確な対応の実現に努めてきた。
例えば、コールシステムの修理の納期日欄は、後から加えられたものである。従来は備考欄に記載していたが、備考欄にはありとあらゆることが記載される。情報を分析する際、細かいルール設定が必要になることから、修理の納期日欄を設けて、分析プロセスを簡素化したのである。
また、新製品がリリースされると、データベースに蓄積されるモデルが増える。5年前はプルダウンでモデルを選択できていたが、モデルが増えるに従って難しくなってきた。そこで、機種名の入力でも必要な情報を検索できるよう改善を図り、現在に至っている。このように、カスタマセンターでは運用しながら改善を繰り返して、システムの完成度を高めてきた。
コールシステムとリペアシステムは、本社および営業所(札幌、名古屋、大阪、福岡)と共有している。そのため、ユーザーから本社や営業所に電話が入ることがあっても、カスタマセンターにかけ直してもらうことなく、対応できるようになっている。これも、ユーザーの満足度を高めるための取り組みのひとつと言えよう。
一方、オペレータの育成にも力を入れてきた。導入研修には3週間を費やし、座学とOJTとで知識を実践で身に付けていくカリキュラムを導入している。
フォローアップ研修は、ソーテック本社の開発者が直々に新製品の研修を行ったり、オペレータが集まってディスカッションをしたりして、知識の向上に努めている。また、不明点があれば、ほかのオペレータやスーパーバイザーなどにチャットで質問するほか、開発者にeメールで質問するなどして問題解決を図っている。
コールシステム画面(写真左)/リペアシステム画面(写真右)
ナビダイヤルで公平なサービスを実現
常にユーザーの視点に立って、コンピュータを創造する高度なテクノロジーを優しさに変換し、人とコンピュータの関係を高めていこうと努力を重ねているソーテックであるが、トラブルをゼロにすることは容易ではない。大切なことは、トラブルが発生した時の対処法であると考え、問い合わせから問題解決までのプロセスを、迅速・誠実・公平に行うことをモットーとしている。
カスタマセンターの統合に当たり、公平という点において留意したのが、ユーザーが負担する通話料の問題である。ユーザーが全国どこから電話をかけても同じ通話料でサポートが受けられる環境を作ろうと、0570で始まるNTTコミュニケーションズのナビダイヤルを導入。発信地域にかかわらず、1分10円に料金を設定した。
また、迅速という点においては、ITによるサポートとは別に、社内の風通しをよくすることにも気を配っている。例えば、トラブル時やオペレータが判断に迷った時に上層部がスピーディーに判断するほか、現場への理解を深めることに注力しているのである。こうした取り組みは、オペレータにとって働きやすい環境を作り、ひいてはモチベーションの維持・向上につながっている。
カスタマセンターに集まった情報に基づき、Q&A集や電話の混雑状況、修理日数といった情報を提供している
旬の情報を活かして旬の製品を作る
カスタマセンターに寄せられるコール数は、コールが多い月曜日で800件、少ない日曜日で400件ほど。さまざまな取り組みが功を奏し、つながりにくい状況は大きく改善された。現在は、待ち呼がひと桁にとどまるほど高い応答率を実現している。
満足度の高いサービスを提供することと並んで、もうひとつの大切な業務となっているのが、カスタマセンターに集まった情報の活用である。冒頭で述べたように“私たち自身がユーザーとして、誰からも愛されるワクワクするコンピュータを開発してゆく”というソーテックの経営方針を実現する上で、なくてはならない取り組みとなっている。
中でも特に重視しているのが、新モデルをリリースした初期段階に寄せられるユーザーの声である。パソコンは、開発に3カ月、販売に3カ月、後処理に1カ月と言われており、製品サイクルが早い。ソーテックでは四半期ごとに新モデルをリリースしているが、旬の情報を吸い上げ、旬な製品を作るためにも、この初期段階のユーザーの声は重要なのだ。ソーテックの取締役も、当然のように目を通しているほどである。
ソーテック従業員の大半を占めるパソコンのプロフェッショナルたちが、ユーザーや販売店から寄せられる貴重な情報を的確に把握・整理し、旬のニーズを反映させた製品コンセプトを素早く立案して生産ラインに発注すること。これが、ソーテックの開発・生産体制の強みとなっているのだ。そして、こうした声の活用が、オペレータに「単なる電話応対ではなく製品作りに役立っている」という誇りを抱かせ、モチベーション向上にもつながっているのである。
カスタマセンターの様子。晴れた日に窓の外を望めば大きな空が広がり、一方には海が見られる。その景色のリフレッシュ効果は大きいという。また、オペレーションブースの横には最近のモデルが置かれており、必要に応じて確認などに使用している
システムと研修プログラムの改善が課題
カスタマセンターでは、課題のひとつに基幹システムの改善を挙げている。これまでも大きなシステム投資をしてきたわけだが、現状のシステムは今日に至るまでに改良に改良を加えてきたため、少なからず複雑になっており、操作性に欠ける感がある。より一層、迅速、誠実、公平な応対を推進するためにも、まだ改善の余地があると考えているのだ。
もうひとつの課題として、セルフサービスの充実と利用促進を挙げている。カスタマセンターでは、過去の応対履歴をもとに、電話が混み合う時間帯をWebサイトに掲載したり、問い合わせが多い内容をQ&A形式で紹介するなど、あらゆる情報を開示し、混雑時やカスタマセンターの受付時間外のサポートを充実させてきた。ひとつ目の課題である基幹システムの改善と合わせて、注力していく構えだ。
なぜなら、パソコン専業企業としてのソーテックを取り巻く環境は、パソコンのコモディティ化や国内外の大手メーカーとの競争などにより、非常に厳しい状況にある。こうした状況の中、生き残っていくためにも、IT面の改善は不可欠であると認識しているのだ。
加えて、人の問題も重視。現状のモチベーションをさらに高め、応対品質を向上するにはどうしたらいいのか。研修プログラムの拡充に取り組んでいきたいとしている。
また、これはどのコールセンターでも課題としていることだが、ストレス・マネジメントにも積極的に取り組む意向。オペレータが働きやすい職場環境を整えるほか、今以上に社内の縦と横のつながりを強化することなどを検討している。
コストパフォーマンスに優れた高品質製品の提供と、信頼できるアフターサービスが、真の満足につながる。カスタマセンターでは、ユーザーの期待に添えるよう、今後も継続的にユーザーの声を聞き、開発やサービスに活かす取り組みを強化していく計画だ。