今やパソコンは老若男女を問わず、大切な自己表現ツールとして活用されるようになった。 こうした状況の中、(株)ホーム・コンピューティング・ネットワークがフランチャイズ方式で全国に地域密着型で展開しているパソコン教室が、シニアや主婦を中心に好評を博している。 同社の指導方針は、教室での対面指導が核。 電話によるサポートはあくまで補完と位置付け、裏方に徹している。
目的別に電話窓口を開設
(株)ホーム・コンピューティング・ネットワークは、NTT東日本(株)と人材派遣業を営む(株)パソナが1995年に設立した合弁会社。フランチャイズ方式で全国に地域密着型のパソコン教室を展開するほか、パソコン周辺機器の販売も併せて行っている。
2003年末の総店舗数は420教室。受講生総数は延べ17万人で、常時2万2,000人の受講生が全国の教室で学んでいる。受講生の多くは、シニアと主婦。何と受講生全体に占める50歳以上のシニアの割合は約60%に達しているという。
同社では、パソコン教室のカリキュラムの照準を初心者に合わせ、平易な言葉、分かりやすいテキスト、無理のない進度、少人数制、リーズナブルな月謝、コミュニティ機能やアフターサポートの充実などで多くの受講者を魅了している。これらが同社のビジネスを成功に導いている所以だ。
しかし、これだけが成功の要因ではない。ビジネスの目的の達成を陰で支えているものがある。それが、コールセンターだ。
同社では、受講前の見込客用の問い合わせ受付、教室のオーナーや受講中の生徒からの問い合わせを受け付けるサポート、卒業生を対象とした会員組織「ハッピー会員」専用24時間パソコン無料電話サポートと、目的別に電話窓口を開設している。順にそれらを紹介していこう。
インバウンド業務をメインに希望者にのみアウトバウンド・コールを発信
まず、見込客からの問い合わせを受け付ける、「問い合わせフリーダイヤル」は、名前の通り、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤル番号で全国からの問い合わせに対応している。
フリーダイヤル番号の告知媒体にはパンフレットやホームページを活用(資料1)。受付時間帯は、月曜から金曜の9時から17時30分までで、土・日曜・祝日は休業となっている。
【資料 1】問い合わせフリーダイヤル番号の告知媒体。左がホームページで、トップ画面下に大きくフリーダイヤル番号が掲載されている。右はパソコン教室のパンフレット。
主な問い合わせ内容は、最寄りの教室やコースの照会、資料請求など。教室の開校時にオーナーをサポートするスーパーバイザーが中心となって対応に当たっている。スーパーバイザーが対応に当たるのには理由がある。教室の様子やオーナーの人柄を知っているため、見込客に最適な案内をすることができるからだ。細部にまで気を配り、正しい情報を提供することで、入塾に至ったり、長く楽しく通っていただけるという効果が生まれるのである。
また、メインはインバウンド業務だが、場合によってはアウトバウンド業務も行う。同社では春と秋に受講生を募集しているが、募集期間を過ぎてしまっていたり、最寄りの教室が満員だったりした場合に、次の募集に合わせてお知らせの電話をしている。ここでのポイントは、希望者に限っている点。問い合わせをいただいた方全員に、入校を促すようなセールス色の強いアウトバウンド・コールは行っていない。
オーナーと生徒にはインハウスで対応
次に、教室のオーナーや受講中の生徒からの問い合わせを受け付けるサポート窓口だが、これは同社のビジネスを支える要となる電話窓口と言える。
もともと各教室のオーナーの教育・指導を目的に開設されたが、その後、教室数・生徒数が拡大していくに従って、段階的に受講中の生徒にまでサポート対象を広げていった。
具体的な業務内容は、オーナーが生徒を指導する際の疑問点への回答やアドバイスと、生徒からの授業に関する問い合わせなどが中心となっている。
受付時間帯は、オーナー、生徒ともに月曜から金曜の9時から18時までで、土・日曜・祝日は休業。受付時間外は、留守番電話機能でメッセージを流している。各教室の始業時間は午前10時。サポート窓口の始業はそれより1時間早い午前9時。授業中は問い合わせできないオーナーに配慮して、受付時間を設定しているのである。
対応に当たるのは、サポート専任の同社の社員。オーナー用と生徒用で電話番号を分けており、前者はフリーダイヤル、後者は一般加入回線を利用している。NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを導入した理由は、オーナーの通話料負担をなくすことで電話をかけやすい環境が整えられること。同社では、教室での対面による指導を核としているため、オーナーの教育・指導に注力することが第一なのである。
前述の通り、電話番号でオーナーと生徒の識別をしているが、加えて受付時にはオーナー情報や顧客情報を蓄積したデータベースとID番号で、本人確認を行っている。そして、いつ、どこの教室に通う、何という生徒から、どのような問い合わせがあり、どう回答したのかをデータベースに蓄積しているのだ。現在、サポート窓口には月間1,800件のコールが寄せられている。
また、オーナーからの問い合わせは、eメールでも受け付けており、対応は電話サポート・スタッフが兼務している。
卒業生を対象にしたサポートでは24時間・年中無休でコミュニケータが対応
そして3つ目が、ハッピー会員向けの24時間パソコン無料電話サポートである。
ハッピー会員とは、卒業生を対象とした会員サービスで、受講修了後も継続的に提供できるサービスとして 2003年5月からスタートしたもの。ハッピー会員になると、月額1,980円で、24時間パソコン無料電話サポートが受けられるだけでなく、冠婚葬祭マナーやボランティア情報、法律・税務・ファイナンシャル情報などを提供するお悩み電話相談や、教室で覚えた知識を維持するための自宅学習用テキストを利用することができる。
数あるサービスの中でも、好評を博しているのが、24時間パソコン無料電話サポートだ。ひとつ分からないことがあると、そこから先へ進めなくなってしまうのがパソコンの操作というもの。そのため、疑問点はその場で即、解決することが望まれている。そこで同社では、24時間・年中無休で機械ではなくコミュニケータが、しかもフリーダイヤルで受け付けるサポートサービスを開始したのである。早朝でも夜中でも、トラブルや疑問が生じた時に問い合わせができるのは、利用者にとって非常に魅力的だ。さらに魅力的なのは、期間中の問い合わせ回数が無制限であること。どんなに些細なことでも気兼ねなく尋ねられるようにとの考えから、同社ではあえて制限を設けなかったという。
パソコンのテクニカルサポートというと、一般的につながりにくいというイメージがある。同社では、予測コール数に基づき、必要な回線数と人員を確保しているが、万一つながらなかったときのために、留守番電話機能を活用したコールバック・システムを採用している。
また、サポートの対象商品は、メーカーや購入先を問わず、プリンター、デジカメなどの周辺機器までトータルに対応。もちろん、自宅学習用テキストに関する問い合わせも可能だ。最適なサポートを提供するため、入会時に卒業した教室、会員IDのほかに、機種、OSのバージョン、使用アプリケーション、インターネット環境など、サポート時に必要な情報を収集、データベース化している。
さらに同社では、eメールによるサポートと訪問サポートも併せて提供。万全なサポート体制を確立している。
深夜でも問い合わせへのニーズがある
24時間パソコン無料電話サポートに寄せられる時間帯別コール数の平均値は図表1の通り。8時から増加し、10時に第1回目のピークを迎える。そして13時から14時に第2回目のピークがやってくるといった具合だ。8時から 23時の間は、食事時に若干減少する程度で、比較的コンスタントにコールが寄せられている。
24時間、コミュニケータが対応するコールセンターは以前より増えつつあるようだが、業務によっては24時間体制にしたものの深夜はコール数が少ないとか、運用コストの問題から、受付時間を短縮するケースもある。だが、同社の場合は、深夜1時から早朝6時の間もコンスタントにコールが寄せられている。これはニーズとサービスがマッチしているためと言えるだろう。
パートナー選びのポイントとは
同社では、3つ目の24時間パソコン無料電話サポートのみ、受付業務をアウトソーシングしている。
その理由は、オーナーや受講中の生徒からの問い合わせを受け付けるサポート業務とは位置付けが異なること。既存の受付体制では、コール増に対応しきれず、既存のオーナーと生徒へのサポート業務が滞ってしまうことを危惧したのである。
ここで気になるのが、アウトソーシング先、つまりパートナーの選定ポイントだ。同社では、前述のコールバックシステムを採用してくれること、24時間有人対応が可能であること、コミュニケータの教育体制が確立されていること、コミュニケータを社員、あるいは契約社員として雇用していることの4つを絶対条件にしたという。
4つ目に挙げた、コミュニケータが社員あるいは契約社員であることの理由は、安定した応対品質を実現するためには長期勤務が望ましいと考えたからだ。電話なので顔見知りにはなれないが、“声見知り”となることで会員とのコミュニケーションを深化させることを狙っているのである。
多く寄せられる問い合わせはQ&A形式でフィードバック
各種サポート業務を通じて寄せられた顧客の声は、問い合わせ頻度が多いものを中心に、さまざまな方法でフィードバックしている。例えば、代表的なトラブルとその解決方法を掲載した副読本を発行しているほか、ホームページ上にFAQコーナーを設けるなどして情報提供に努めている。加えて、問い合わせてきた生徒の通う教室のオーナーに匿名で意見や要望を伝えることもあるという。
コールセンターに寄せられるのは悩みごとばかりではない。「教室に通うことにより共通の趣味を持つ友だちができた」など喜びの声も寄せられる。これらもホームページ上に生徒の声として掲載している。
また、ハッピー会員から多く寄せられた問い合わせ内容は、会員向けコミュニケーション誌「HAPPINESS」(資料2)のQ&Aコーナーに掲載するかたちでフィードバック。サポートスタッフを写真入りで紹介するなどして、親しみやすさを演出している。こうした工夫が、サポートの利用を促進し、コミュニケーションの深化につながっていくのだろう。
隔月でハッピー会員に送付されるコミュニケーション誌「HAPPINESS」
同社では、「なぜこうした質問が寄せられるのか」、その原因を突き詰めていくことで、効果的な情報提供ができるのではないかと考えている。今後は、サポートセンターとしてだけでなく、情報発信局としての機能を強化していく意向だ。同社の今後の展開に注目していきたい。