道路事業の透明性、およびアカウンタビリティの向上を目指す国土交通省。 その実現に向けて、同省では1998年より「道の相談室」 を開設して幅広く道路利用者の意見を収集。 道路事業に関する施策の重要性や緊急性、さらには効果を把握することにより、よりよい道路サービスの提供に努めている。 道の相談室開設の経緯、受付状況、今後の展望について話を聞いた。
円滑なコミュニケーションを目指して「 道の相談室」 を開設
国土交通省では、道路事業の透明性、およびアカウンタビリティの向上を目指している。これを実現するためには、あまねく情報を提供すると同時に、道路利用者の意見を聞くコミュニケーション活動が不可欠。しかし、これまでは相談窓口が分かりにくく、道路利用者が問い合わせや相談をしたくてもどこに尋ねればいいか分からない、あるいは、相談してもたらい回しにされて結局、答えが得られないといった状況にあった。これでは当然、道路利用者と行政側の接点は弱いものとなる。そこで、窓口を明確にし、的確かつ適切な対応をしていこうと「道の相談室」を開設。受付体制を整え、道路事業に関する施策の重要性や緊急性、さらには効果を把握することにより、よりよい道路サービスの提供に努めている。
道の相談室は、1998年10月に東京23区、翌年1月に高知県を対象にサービスを開始。以来、1999年度より本格的に対象エリアの拡大が進められた。現在では、北海道を除くすべての都道府県を対象にサービスを提供。総人口の96%をカバーしている。
連携機関との密接な連携体制で迅速な対応を実現
道の相談室は、東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州は地方整備局内、沖縄は総合事務局に設置されており、道路利用者からのあらゆる相談、問い合わせ、意見、要望、苦情を、電話、FAX、eメールで受け付けている。
受付時間帯は、各地域によって若干異なるが、基本的には月曜~金曜日の午前9時30分から午後5時まで、土日・祝日は休業となっている。
対応に当たるのは、各地方整備局などの職員。それぞれ数名が交替で対応に当たっている。職員は、道路に関する知識に長けているため、応対に際しての研修は特に行っておらず、専用マニュアルも用意されていない。
道の相談室では、対応時の留意点として迅速な対応に努めているが、日々、地元住民と接している職員が対応に当たっているため、住民の気持ちが理解でき、自然と迅速な対応ができているという。
道の相談室の仕組みは、図表1の通り。ここでは、国道、都道府県道、高速道路といった管轄を問わず、あらゆる道路について通報、苦情、相談、問い合わせ、意見、要望を受け付けている。道路地図など各種資料をもとに回答できる内容に関しては即答するが、地方自治体、道路関係公団といった連携機関の対応が必要な内容に関しては、適所に対応を依頼するかたちで対応。これには、1週間以内に回答している。同省では、さらに迅速な応対を目指し、関連機関との密接な連携体制の維持・強化に努めているという。
フリーダイヤルの付加サービスを有効活用
電話による受け付けには、道の相談室開設当初より、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを利用。着信課金サービスはフリーダイヤル以外にもあるが、「0120」が一般に広く浸透しているとの理由から、NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルサービスを選択した。
また、着信課金サービスを導入した理由としては、次のようなことがある。そもそも「道路のコンクリートが剥がれている」「大きな荷物が落ちていて通行を阻害している」といった路上問題の発見や、意見や要望の把握といったマーケティング調査は行政が行うべきことである。道の相談室の開設は、逆に言えばこうした業務の一部を道路利用者に依存することにもつながるため、電話をかけやすい環境を整えようとしたわけだ。
さらに、番号の一元的なPRと経済的な受付体制を実現するべく、フリーダイヤルの付加サービスのひとつである「全国共通番号サービス」を利用している。全国共通番号サービスとは、ひとつのフリーダイヤル番号にかかってきた電話を、発信地域によって、あらかじめ指定した受付先に着信させることができるサービス。例えば、埼玉からの電話は関東地方整備局、兵庫からの電話は近畿地方整備局に設置されている道の相談室に着信するといったことが容易にできるのである(図表2)。
ただし、携帯電話やPHSからの着信は受け付けておらず、これらについては一般加入回線で受け付けている。
多岐にわたる相談内容
道の相談室の開設から、これまでに寄せられた総受付件数は図表3の通り。他のエリアに比べ、関東や近畿に寄せられる件数が圧倒的に多い。やはり、受付件数と人口は比例するようだ。また、大半の地域において、年々増加傾向にあることが分かる。特に近畿は、関東の開設から2年後に開設されたにもかかわらず、累計件数は関東を上回るほどの勢いだ。
具体的には、以下のような内容が寄せられている。
【問い合わせ】
・○○峠の崩落による通行止めは、改修工事が行われて通行可能になったか?
・国が管理している国道と県が管理している国道との区分けは?
・「道の日」の道路フェアーについて教えてほしい。
【意見】
・タクシーがロータリー内の一般車送迎用エリアや付近の道路などに駐車しているのをよく見るが、タクシーだけが優遇されているように感じる。
・ETC専用レーンがいつも一般レーンへの行列でふさがっていて、ETCを取り付けた意味がまったくない。
・家の前の道路にくぼみがあり、水がたまるので改善してほしい。
【苦情】
・道路工事の音が、深夜3時を過ぎても鳴り響いていて眠れない。
・歩道が狭い。
【発見・通報】
・国道○○号のコンクリートが剥がれている。
・歩道橋がさびていて危ない。
【感謝・激励】
・車が通る際の振動がなくなった。ありがとうございます。
こうした道路利用者から寄せられた声は、データベース化され、連携機関内で共有。道路施策の立案に活用するほか、ホームページを利用して道路利用者にフィードバックしている。現在、ホームページでは、よくある質問とその回答を掲載しているが、将来的には、受付後の対応状況についても公開していく意向。現在、準備を進めている。
1日も早い全国展開を目指して
現在、 道の相談室の告知媒体には、ホームページ、 国土交通省の広報誌、および地域ごとに制作している刊行物を活用している(資料1)。受付件数の推移から徐々に認知度が高まっていることがうかがえるが、まだ十分とは言えないのが実際のところ。例えば、テレビCMや新聞、雑誌を活用すれば、多くの人々に道の相談室を知らしめることができる。しかし、同時に相談件数が急増し、現在の受付体制では対応しきれなくなることは想像に難くない。同省では、受付体制を整えてから本格的なPRを展開していきたいとしている。
【資料1】告知媒体
そうは言っても、図表3の通り、相談件数は年々増加傾向にある。こうした状況の中で、受付体制の拡充は急務と言えよう。
そして忘れてはならないのが、北海道に道の相談室を開設すること。同省では、1日も早い全国展開の完了を目指している。
関東地方整備局内に設置されている「道の相談室」。壁際の棚には、サー ビス対象エリアの住宅地図など、あらゆる資料が並んでいる