コンタクトセンター最前線(第9回):1回限りのお付き合いから“継続的なお付き合い” へ

(株)メモリアルアートの大野屋

保険・葬祭・墓所・墓石・環境など「デスケアにおけるトータルサービス」 を確立している(株) メモリアルアートの大野屋。 同社では、1995年1月、仏事に関する相談窓口である「大野屋テレホンセンター」 を開設。 このほか、もしもの時に役立つ「もしもカード」、インターネットを活用した情報提供「大野屋ホームページ」 など、独自のコミュニケーション・ メディアを立ち上げている。これらを活用したCRMの取り組みについて話を聞いた。

トータルサービスの開始に伴い「 大野屋テレホンセンター」 を開設

 1939年3月、東京・多摩霊園門前の小さな石材店として創業した(株)メモリアルアートの大野屋。以来、墓所・墓石の販売を中心とした事業展開を推進してきた。1994年には長期経営計画をスタートし、事業領域を拡大。保険、葬祭、仏壇、墓所、墓石、環境といったデスケア(死にまつわるお世話)におけるトータルサービスを提供している。
 同社では、トータルサービスの開始に伴い、1995年1月にサービスの総合窓口として「大野屋テレホンセンター(以下テレホンセンター)」を開設した。
 同社が半世紀以上の間に施工した墓石や改修工事の数は10万件をはるかに超える。同社では、この10万件の顧客データをクリーニングし、トータルサービスの開始とテレホンセンターの開設を告知した。
 墓所・墓石は、一生のうちに何度も購入するものではないため、継続的な関係の構築は難しいと言える。しかし同社では、テレホンセンターの開設を機に、すべてのお客様を対象としたCRMに着手。“1回限りのお付き合い”から“継続的なお付き合い”へと、ビジネスの変革を標榜している。

仏事相談でファン作りを推進

 テレホンセンターでは、商品全般に関する問い合わせや資料請求の受け付けのほか、一般的な仏事相談といったインバウンド業務と、新規見込客の獲得、マーケットリサーチ、顧客満足度調査などのアウトバウンド業務を行っている。
 まず、インバウンド業務につい て詳しく見てみよう。
 前述の通り、インバウンド業務には、商品全般に関する問い合わせや資料請求の受け付けと、一般的な仏事相談の2つがある。
 前者は「墓所を探している」「葬儀の生前予約について知りたい」といった売り上げにつながる業務であるのに対し、後者は「香典はいくら包めばいいのでしょうか」「新盆の時、何を用意したらいいのか分からないのですが」といった一般的な仏事相談で、直接売り上げにつながる業務ではない。昔であれば、近所や家族の中に仏事に詳しいお年寄りがいて、何かあった時には頼りにすることができた。しかし、核家族化が進み、近所付き合いが少なくなった今日、仏事について分からないことが多くて悩んでいる人や、相談したくても相談相手がなく困っている人は増えている。多くのお客様と触れ合う中で、こうした現状を知った同社では、お年寄りに代わって、仏事に関する相談を受けようと決意したのだ。同社では、これも社会貢献のひとつととらえており、創業以来培ってきた経験やノウハウをお客様に還元することで、同社のファン作りにつなげようと考えている。
 仏事相談をきっかけとして認知度が高まり、同社を身近に感じてもらえれば、もしもの時に大野屋を思い出してくださる人も増えるだろう。仏事相談の背景には、すぐには売り上げに反映されなくとも、いずれは必ず業績に結び付くという同社の思いがある。

来場促進から満足度調査まで幅広いアウトバウンドを実施

 アウトバウンド業務では、霊園の案内会への来場促進といった新規見込客の獲得や、墓石未工事客への工事促進の案内を行っている。
 また、テレホンセンターは、お客様と同社の橋渡し的存在であり、トータルサービスに精通していることから、商品の開発・改善、事業計画の策定に役立てるためのマーケットリサーチ業務も担っている。例えば、散骨に関する問い合わせが増えた場合、大野屋で散骨を商品化し、ニーズに応えることはできないだろうか、といった提言を関連部署や役員にフィードバック。その後、潜在ニーズがどのくらいあるのかを、アウトバウンドコールによって調べている。また、広報室からの依頼を受けて、ラッピングバスの印象など、PR効果の測定なども行っている。
 このほか、墓石を購入したお客様を対象とした顧客満足度調査も担っている。調査は、墓石完成から2カ月後に、電話によるアンケートを実施。営業スタッフの取り組み姿勢や、業務知識に関することなどを伺う。お客様の満足度を正確に把握し、社員教育や商品開発に結び付けることが狙いだ。
 これとは別に、社長室の主導ですべてのお客様を対象としたハガキによるアンケートを実施しているが、ハガキでは、内容を深く掘り下げて聞くことが難しい。具体的に何が良かったのか、どこが悪かったのかをその場で詳しく聞けるところに電話のメリットがある。テレホンセンターでは、お客様にリラックスしていただき、より深い話を聞き出すために、満足度調査には、ベテランのテレコミュニケータを起用している。

お客様の声が上層部への説得力を強める

 テレホンセンターは、東京・豊島区の本社内にある。業務内容ごとにインバウンドチームとアウトバウンドチームに分かれて、業務に当たっている。
 インバウンド業務の受付時間帯は、9:00~20:00まで。9:00~17:30までと、11:30~20:00までの2シフトを組み、年中無休で受け付けている。席数は6席。このうち4席にマネージャー等の社員が入り、テレコミュニケータと同じく対応に当たっている。
 1カ月当たりの平均コール数は約600件。2002年1~6月までに寄せられた内容の内訳は図表1の通り。仏事相談が最も多く、3割を超えている。これが将来、同社にどのような成果をもたらすかが期待されるところだ。

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 続いて、アウトバウンドの実施時間帯は、月曜から土曜日が10:00~20:00までで、日・祝日が10:00~19:00までとなっている。席数は10席。このうち8席がテレコミュニケータ席、2席がスーパーバイザー席となっている。
 テレホンセンターのシステム概略は図表2の通り。

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 2000年5月にCTIを導入。NTT東日本のナンバー・ディスプレイサービスを利用し、業務の効率化を図っている。 インバウンド業務においては、着信とほぼ同時に顧客情報をテレコミュニケータ端末にポップアップ。アウトバウンド業務においては、発信用リストから非適用顧客を除外したり、以前クレームをいただいた方に同様の電話をかけないためのチェックに活用している。
 イン/アウトを通じてテレホンセンターに集まったお客様の声は、すべて情報カードに入力してデータベース化。営業の見込みがある案件については営業部門に、商品開発に役立つと思われる情報については企画開発部門にフィードバックする。また、これ以外のお客様の声は、月報や各種ミーティングを通じて関連部門にフィードバックするほか、社長をはじめ役員にも報告される。以前から社内の風通しが良く、何かあるごとに社員が社長室に出かけて行き、話ができるといった土壌があったが、テレホンセンターの開設を機に、これを一歩前進させ、全社的な情報共有を効率的に行える体制を整えた。加えて、現場スタッフの主観ではなく、お客様の生の声をフィードバックしているため、テレホンセンターの各部署や上層部への提言には説得力が増したという。

「 もしもカード 」 でテレホンセンターをPRしつつお客様に安心感を提供

 「お客様から情報をいただくのだから、通話料金を負担するのは当たり前のこと」という考えに基づき、テレホンセンターでは、インバウンド業務にNTTコミュニケーションズのフリーダイヤル・サービスを導入している。
 墓所の案内や墓石の販売は商圏が限られているため、フリーダイヤルの受け付けエリアは、通常は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県に限定。ただし、散骨など全国のお客様を対象とした商品の発売時には、期間限定でフリーダイヤルを全国に開放している。
 テレホンセンターの告知には、新聞、雑誌、交通広告、テレビCMなどさまざまな媒体のほか、フリーダイヤルカードを活用している。
 フリーダイヤルカードとは、公衆電話にカードを差し込むだけで、指定のフリーダイヤル番号につながるというもの。同社では「もしもカード」と名付け、葬儀の生前予約をしたすべてのお客様のほか、保険や墓石を購入したお客様の中から希望者に配布している。カード発行枚数は、6万枚に及ぶ。
 「もしもカード」はダブルフリーダイヤルカードになっており、右側から差し込むと24時間年中無休の葬儀に関する緊急用窓口に、左側から差し込むと仏事相談窓口につながる仕組みになっている。人は、万一の時には気が動転してしまうもの。お客様の不安感を取り除く心強い味方が「もしもカード」なのである。

テレコミュニケータには人生経験が豊富な人材を採用

 スクリプトがあれば初心者でも比較的スムーズにオペレーションできるアウトバウンド業務に比べ、インバウンド業務はあらかじめ用件を予測することが難しい上、お客様の本意を引き出すテクニックが求められる。こういったインバウンド業務の特性に加え、人の死というデリケートな内容を扱うため、テレコミュニケータには①人生経験が豊富で、②葬儀を出したり、お墓を建てたことがある人を採用している。従って、同社のテレコミュニケータの平均年齢は53歳と高い。
 テレコミュニケータは、日々お客様の悲しみに遭遇する。時には、お客様と一緒に涙を流すこともあるという。自分自身も経験があるからこそ、お客様の心情をより深く理解できるのだろう。お客様の信頼を獲得するためにも、テレホンセンターでは、こうした気持ちを大切にしていきたいとしている。
 このように精神面を重んじる一方、応対品質を高めるための教育にも注力している。品質向上に欠かせないのが、テープチェックとモニタリングだ。評価の偏りを防ぐと同時に、テレコミュニケータの指導方法を統一するために、テープチェックはマネージャーとSVで行っている。
 また、昨年よりSVの育成に力を注いでいるという。SVの質がコールセンターの質を決めるといっても過言ではない。指導力とテレコミュニケータの資質を見極める能力を備えたSVを育てていきたいとしている。

eメール対応とインバウンド業務の強化が課題

 同社では、1996年11月に「大野屋ホームページ(http://www.ohnoya.co.jp/)」を開設。商品紹介や仏事相談のQ&Aを掲載しているほか、eメールによる資料請求と仏事相談を受け付けている。
 eメールへの対応は、電話に比べて手間と時間がかかるものだ。例えば「お香典はどのくらい包めばいいのですか?」という問い合わせの場合、電話であればその場でどういう立場の人へ差し上げるものなのかを確認しながら回答できる。しかし、eメールの場合には、あらゆる例を想定して回答したつもりでも漏れる場合があり、結局、詳細の確認から回答までに、数回のやりとりが必要となる。テレホンセンターでは、効率的な対応方法を模索しているところだ。
 総アクセス数は増加傾向にあり、1カ月当たり60万件に及ぶ。現在、テレホンセンターとネット事業グループとの協力体制のもと、ホームページを改善中。テレホンセンターでは、より一層、利便性を高めることで、顧客満足度の向上に結びつくことを期待している。
 また、テレホンセンターではインバウンド業務の強化を今後の課題としており、見込客獲得を目的としたアウトバウンドコールは縮小していく方針。電話をかけてお客様に情報を提供し、見込客を開拓する時代から、お客様自身がインターネットなどを活用して情報を収集し、企業を選ぶ時代になってきたためだ。現在進行中のホームページ改善は、こうしたことへの対策でもある。
 さらに、お客様が気軽にアクセスできる環境作りが大切であるとの考えから、今後もインバウンド強化のための方策を打ち出していきたいとしている。
 しかし一方で、マーケットリサーチや顧客満足度調査といったアウトバウンド業務は事業活動に不可欠。今後も継続していく意向だ。

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左がアウトバウンドチームで、右がインバウンドチーム。同じフロアーにあるが、アウトバウンドチームの声がインバウンド業務の阻害要因になることを防ぐため、部屋を分けている


月刊『アイ・エム・プレス』2002年9月号の記事