通信ネットワーク最前線(第4回)

積水ハウス(株)

組織改革を機にフリーダイヤルを各営業本部ごとに導入。新規顧客の獲得と企業イメージ向上を狙う積水ハウス株式会社。 その経緯と活用法について話を聞いた。

お客様の便宜を図り、フリーダイヤル窓口を設置

 積水ハウス株式会社は「人間愛」を企業理念に、120 万戸(累計)というナンバーワンの建築実績を持つ大手住宅メーカー。同社では営業統括本部を東日本と、西日本の 2つに大きく分けて営業活動を展開している。また同社の営業活動は、ディーラー方式ではなく、各地域に積水ハウス本体のブランチを置く方法をとっているのが特徴である。
 同社がフリーダイヤルを導入したのは、4 年前。新聞広告でフリーダイヤル番号を告知し、問い合わせを東京で一括して受け付けることになった。
 フリーダイヤル導入以前には、広告に展示場の電話番号を羅列し、お客様に最寄りの展示場を選んで問い合わせていただく方法をとっていた。しかしこの方法では、お客様に電話番号を選ぶ手間をかけさせてしまう。また、たとえば横浜市内だけでも複数カ所の展示場があるので、電話番号の一覧を見ただけでは、どこが一番近いのかがわかりにくいという問題があった。
 さらに、せっかく電話をかけていただいているのだから、その場でお客様の具体的な相談にも応じたい。しかし相談となると通話時間も長時間におよぶため、お客様が通話料がかさむのを気にして、「資料を送ってくれれば結構です」と会話を切り上げてしまうケースもあった。
 フリーダイヤルを導入することによって窓口を 1 本化し、さらに、ゆっくりとお客様のお話をうかがえる体制を整えたわけである。

窓口 1 本化の課題

 フリーダイヤル導入当初は、問い合わせ内容をまずシートにおこし、その日のうちに各地域の営業所や展示場へ FAX で送信、このシートに基づいて、各地域の営業所・展示場の営業担当者が直接お客様に連絡をとるという仕組みだった。
 住宅は非常に地域性のある商品。その地域によって、気候や敷地面積、施工条件にも大きな違いがある。また、住宅に対するニーズも大きく異なる。このため東京 1 カ所で受け付けていたのでは、地方のお客様のニーズにきめ細かく応えるのは難しい。
 相談にのってもらおうと電話をかけたのに、折り返し営業所からの連絡を待たなければならないのでは、お客様にフラストレーションがつのってしまう。また、いったん東京で受けた問い合わせを、各地域の営業所・展示場に振り分けてから対応したのでは、その分時間がかかり、結 として貴重な見込み客を逃すことにもなりかねない。
 的確な営業活動を展開するためには、直接の担当者が、お客様の情報を一から把握していることがベスト。できるだけ間にクッションをはさみたくない。試行錯誤の結果、その土地の事情に明るい現地の営業担当者が、直接その場で応対することが、最も望ましいという結論に達した。
 そこで約 1 年前に、各地域ごとに別々の番号のフリーダイヤルを導入することを決めたのである。

組織改革にともない地域密着度を強める

 フリーダイヤル窓口の分散と時期を同じくして、同社では組織改革を行った。東日本と西日本の営業統括本部の下に、地域ごとの営業本部を設置したのだ。これによって東日本営業統括本部の管轄下には、首都圏地区の東京、神奈川、埼玉、千葉と茨城南部を含む関東第一、茨城北部・栃木・群馬を担当する関東第二、および東北の 6つの営業本部と、札幌支店が設置されることになった。西日本営業統括本部の下には中部第一・第二、関西第一・第二、中国、九州の 6カ所の営業本部が置かれた。さらに各々の営業本部の下には、支店、営業所、および展示場が設置されている。
 東日本営業統括本部では、これらの営業本部それぞれに、フリーダイヤル窓口を設置した。これによって、見込客からの最初の電話で、地域ごとの事情をくみした具体的な相談業務を行うことが可能になった。まず営業本部である程度のコンサルティングを行った後に、各営業所がよりきめの細かいフォローをする。タイミングを逃さない素早い返答、的確なコンサルティングで、お客様の満足度の向上に成功したのだ。
 フリーダイヤルの「全国共通番号サービス」を利用すれば、受付窓口を分散しながら電話番号を統一することも可能なわけだが、同社では見込客に地域に密着したイメージを強調するために、あえて地域ごとに別個のフリーダイヤル番号を採用した。またこれには、同一市外局番の地域を 2 つの営業本部が受け持っている場合があるため、「全国共通番号サービス」では必ずしも各営業本部の管轄区域別にコールを分散できないという理由もある。

「入口」は広く、オープンに

 同社では、お客様との接点は本来、各地域に点在する営業所や展示場であるべきだと考えている。希望者に送付する商品資料などに、各営業本部のフリーダイヤル番号が記載されていないのも、こういった理由による。本来は地域に密着し、そのお客様を、検討期間から契約、アフターフォローに至るまで責任を持ってフォローすることのできる営業所が窓口になるのが望ましいのである。
 しかし具体的なプランを持っているお客様ならいいが、そうでない場合には、わざわざ営業所に問い合わせるのには少しばかりの勇気が要る。「とりあえず資料が見たい」「今のところ購入の予定はないけれど、展示場に行ってみたい」といったお客様にとっては、気軽に電話をかけられる、問い合わせ専用窓口は心強い存在だ。
 つまり、本来の「入口」は地域に密着した営業所であり、その担当者なのだが、フリーダイヤルはそこにたどりつくまでのもうひとつのより開かれた「入口」として、位置付けられているのだ。「入口」の「入口」は、あくまで広く、軽く。より多くのお客様に最初の扉をくぐっていただくのが、フリーダイヤルの役割だ。
 ちなみに営業所の中にも、独自の判断でフリーダイヤルを導入しているところが増えてきている。

各営業本部のフリーダイヤル番号を告知した、積水ハウス(株)の新聞広告の一例

各営業本部のフリーダイヤル番号を告知した、積水ハウス(株)の新聞広告の一例

フリーダイヤル番号は広告のみで告知

 現在、フリーダイヤル番号の告知は、新聞広告のみで行っている。
 広告出稿頻度は、全国紙、地方紙を合わせ、管轄地域全域のお客様が月に 1 〜 2 回程度目にするように調整している。
 同社では広告によって、記載する問い合わせ電話番号を、一般加入回線とフリーダイヤルとで使い分けている。たとえば、新商品の告知や企業全体のイメージアップを目的とする広告なら、営業本部のフリーダイヤル番号を記載する。また、新商品の広告では、その商品を見ることのできる展示場の一加入回線番号と、営業本部のフリーダイヤル番号を併記する場合もある。
 新聞広告の場合には、資料請求の際に必要な情報は、住所、氏名、電話番号といった基本的な項目のみ。これもできるだけ多くの人に、気軽にアクセスしてもらう工夫のひとつだ。
 一方、『月刊ハウジング』などの住宅専門誌に掲載する広告の場合は、これとは対照的。雑誌に綴じ込まれた資料請求ハガキには、いつ頃の購入を考えているか、敷地の面積はどのくらいか、予算はいくらかといった具体的なアンケート項目が織り込まれている。このような雑誌を購入するのは、すでに具体的なプランを持っている人であると推測できるためだ。
 広告については、営業統括本部が窓口となって出稿するもののほかに、営業本部が地方紙などを使い、地域性に合わせて企画しているものがある。たとえば都市部より人と人との結び付きが強い地方では、口コミ効果を狙い、実際のお客様と営業担当者を広告に登場させている。レスポンスのあったお客様を、その営業担当者が訪問すると、「あら、広告に出ていた人だわ」と話がはずむというわけだ。
 ひとつの新聞広告に対するレスポンスは 200 〜 700 件ほど。しかし同社では、広告効果はレスポンス数だけでは測れないとしている。定期的な広告出稿により、同社のコンセプトを伝え、企業イメージの向上を図ることも、「その時」にお客様が同社を思い出してくださるきっかけになる。
 また一般生活者を対象とした広告の場合、レスポンスはハガキと電話で受け付けているが、アパート経営者などの事業主を対象にした広告の場合には、電話とハガキに加え、FAX を活用。忙しい事業主の便宜を図り、資料請求を 24 時間受け付けている。
 同社では今年の 11 月、インターネットに自社のホームページを開設した。ここでは会社案内、商品案内を実施。資料請求受付も検討中である。

営業担当者が交代で受付業務を担当

 各営業本部のフリーダイヤル受付時間帯は、同社の営業時間帯である午前 9 時から午後 5 時 30 分まで。応対にはすべて自社の社員が当たる。電話受付専任のオペレーターは置いていない。
 比較的問い合わせが集中するのは、午前中。また、新聞広告のレスポンスは、出稿後 3 〜 4 日間に70 〜 80%が集中するため、この期間は受けもれがないよう、応対人員を増強するなどしてフレキシブルに対応している。
 問い合わせは「商品の資料がほしい」「展示場の場所を教えてほしい」といった数分で終了するものから、30 分以上の長時間にわたる具体的な住宅相談まで、実にさまざまだ。
 わざわざ電話をかけてくださるお客様は、ある程度具体的なプランを頭に描いている場合がほとんど。資料請求を糸口に電話をかけてきたお客様でも、その場で話が住宅相談に発展することは珍しくない。住宅に関する専門知識や商品知識に加え、高いコンサルティング力を持った営業担当者でなければお客様の要望に応えることができないという理由から、同社では受付業務をテレマーケティング・エージェンシーなどに外注することは考えていないという。
 都市部における最近の傾向として、狭い敷地を有効に活用できる 3階建て住宅や 2 世帯住宅のニーズが高い。2 世帯住宅では施主が子世帯と親世帯の両方になるケースも多いことなどから、お客様の年齢層は 30 〜 60 代と広範囲にわたっている。その家を代表して、まずフリーダイヤル番号に資料請求などの電話をかけてくるのは主婦が多いという。「経済観念のしっかりしている主婦には特に、フリーダイヤルは好評のようです」(東日本営業統括本部 朝田修平氏)。

じっくり時間をかけて信頼関係をはぐくむ

 戸建て住宅は一生のうちに何度も買うものではない。また、検討期間が長いことから、フリーダイヤルで問い合わせをしてきたお客様と即、契約が成立するということはまずない。
 契約に至るまでのプロセスはお客様によってさまざまだ。広告を見て、まず資料を請求するお客様もいれば、展示場に足を運ぶお客様もいる。検討期間はお客様によって、数カ月の場合から数年間の長期にわたるケースまで、大きなばらつきがある。契約後も、営業担当者との緻密な打ち合わせが繰り返される。
 住宅の販売にはコンサルティングが重要な要素。適切なアドバイスを行うためには、お客様をよく理解することが必要だ。営業担当者とお客様との間に築かれたヒューマンな関係が、営業活動の基盤となる。このため、同社では担当制を敷き、問い合わせ対応から、資料の提供、契約、着工、引き渡しまでの諸々のプロセスを、ひとりの営業担当者が責任をもってお世話している。
 また、引き渡しが済んだ時点でお客様との関係が終わるわけではない。むしろここから、同社とお客様の本当のお付き合いがはじまるのだ。何十年にもわたる長い期間、お客様に対して、点検、改修などのアフターフォローを提供していかなくてはならない。
 そこで同社では顧客情報をデータベース化し、営業所と、営業本部ごとに設置されているアフターサービス専門の拠点、カスタマーズセンターとできめ細かなアフターフォローを行っている。またいつ、どこに建てられた、どのような住宅であるかを正確に把握できるよう、カスタマーズセンターは詳細な施工図を保管。お客様の相談に、迅速に応えられる体制を整えている。
 カスタマーズセンターの業務のひとつに、定期点検のご案内がある。同社では引き渡しの 3 カ月後、6 〜 12 カ月以内、12 〜 24 カ月以内に定期点検を実施している。アウトバウンド・テレマーケティングで、このアポイントをとるとともに、お客様の声を聞いているのだ。
 また、積水ハウスとお客様の結び付きを深めるために、フラワーアレンジメント、お料理教室、ふすまや網戸の張り替え講座、また餅つきなどのイベントを定期的に企画・開催。これらのイベントをお客様にご案内するのも、カスタマーズセンターの役割だ。
 「入口」は広く、「奥」は深く。同社はじっくり長い時間をかけて、お客様との信頼関係をはぐくんでいこうとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年1月号の記事