DMW東京300回記念イベント:ダイレクトマーケティングの歴史に未来へのヒントを学ぶ 第二部②「これまでの歴史を振り返ってみよう!」

2016年6月13日
今日は前回のコラムに引き続き、去る4月15日に開催されたDMW東京300回記念イベント「ダイレクトマーケティングの歴史に未来へのヒントを学ぶ」における私の講演をご紹介させていただきます。前回のコラムでは、プレゼン用パワーポイントで「ダイレクトマーケティングの基本」としていた本講演の前提とも言えるパートをご紹介しましたが、今回の内容はこれに続く「これまでの歴史を振り返ってみよう」という本講演の主要コンテンツとも言うべきパートになります。前回のコラムをご覧になっていない方は、前回のコラムもあわせてお読みいただければ幸いです。

今回、ご紹介するパートは、一言でまとめれば、1960年代から2010年代にかけて、ダイレクトマーケティングのプレイヤーがどのように広がり、またその展開方法、すなわち「誰に」「何を」「どのように」がどのように変遷してきたかを、非通販領域を交えて振り返ってみたものになります。ダイレクトマーケティングの代表的な適用分野である通信販売は、日本国内でも戦前から展開されていたわけですが、ここで1960年代以降に限定したのは、ダイレクトマーケティングという用語が初めて公的な場で使われたのが1961年であること、今回の講演が非通販領域にフォーカスしたものであり、これが活発化し始めたのは1990年代に入ってからであることなどが理由となっています。
本サイトのトップページに掲載している、ダイレクトマーケティングを含むインタラクティブ・マーケティングの年表
本サイトのトップページに掲載している、ダイレクトマーケティングを含むインタラクティブ・マーケティングの年表
さて、日本経済が高度成長に湧いた1960年代。国内におけるダイレクトマーケティングの適用分野は、概ね通信販売に限られていたと言えるでしょう。当時、通信販売は、小売りの王道としての店舗販売に対して「特殊販売」と位置付けられており、そのプレイヤーもマニアックな商品を取り扱う通信販売専業企業が中心となっていました。当時の通信販売における利用媒体は、雑誌広告DM(ダイレクトメール)が中心。私自身、初めて通信販売を利用したのは1960年代のことですが、当時、少女雑誌に掲載されていたダイレクト・レスポンス広告を見て、俳優のブロマイドを購入したことを記憶しています。<笑>

そして1970年前後になると、高度成長の歪としての公害問題が表面化。また1973年には第一次オイルショックが発生し、それまでの高度成長に終止符が打たれたることになりました。1970年代のダイレクトマーケティングの適用分野は、1960年代と同様に通信販売が大半で、オイルショックを機に不振にあえぐ店舗小売業を尻目に、通信販売の売上高は2桁台の成長を維持していました。一方では、公害問題の表面化を受けて消費者保護への関心が高まり、消費者相談窓口を開設する企業が増加。今日におけるカスタマー・サポート系のコールセンターの礎となったと言うことができるでしょう。

1970年代の通信販売のプレイヤーは、後半になって百貨店など店舗小売業からの参入が活発化したものの、やはり専業企業が主役。ペイドメディアではテレビショッピング新聞広告などマス媒体を活用した通信販売が活発化し、オウンドメディアでは多くの商品を掲載したゼネラルカタログが注目を浴びていました。また、大手百貨店がシアーズやクエレといった欧米の大手流通業と提携して海外製品のカタログ通信販売を展開するなど、“第一次国際化”の波が到来したのもこの時期のことでした。

その後1980年代も後半に入ると、バブル経済期に突入。これと足並みを揃えて、それまでの“マス=大衆”に対して、“分衆”あるいは“少衆”といったキーワードが叫ばれるようになってきました。一方では、“ニューメディア”が脚光を浴び、「キャプテンシステム」の実験が開始されたのもこの頃のことでした。当時のダイレクトマーケティングの適用分野はやはり通信販売が中心でしたが、ここに来て店舗小売業はもちろん、製造業や卸売業など大手企業の参入が相次ぎ、かつて“特殊販売”と言われた通信販売は、ごく一般的なショッピング形態へと変貌を遂げていきました。
1980年代後半には、分衆・少衆論が活発化。関連する書籍も多数、発行された
1980年代後半には、分衆・少衆論が活発化。関連する書籍も多数、発行された
1980年代におけるダイレクトマーケティングの最大の特徴は、前述のような大手企業の参入を受けて、通信販売における取扱商品、利用者層の双方が広がっていったところにあります。また媒体戦略においては、後半以降、“分衆・少衆論”が活発化する中で、ゼネラルカタログからスペシャルカタログへのシフトが始まったことが挙げられるでしょう。さらに1985年には、NTTのフリーダイヤルサービスが開始されたのを機にテレマーケティングが活発化。換言すれば、“電話”というメディアをフックに、非通販領域のダイレクトマーケティングへの模索が開始されたわけです。

そして1990年代に入ると、1991年のバブル崩壊を機に低成長期に突入。また、1995年の「Windows95」発売を機に、今日ではダイレクトマーケティングの中心的なインフラとなったインターネットが普及し始めました。こうした中、通販領域においては、地場のメーカーによる産地直送、海外通販企業の日本進出、保険・旅行などサービス商品の通販、OA機器などのB2B通販が活発化。終盤になると楽天などのインターネット・ショッピング・モールも営業を開始しました。

1990年代のダイレクトマーケティングにおいてもうひとつ、特筆すべきことは、プロモーションを中心に非通販領域における取り組みが活発化してきたことです。この背景には、特に後半になって、店舗小売業を中心にポイントカードの発行が相次ぎ、ダイレクトマーケティングによるプロモーションの基盤となる顧客DBの構築が進んできたこと、PCの普及を受けてカスタマーサポートの需要が増大したこと、さらにはOne to OneマーケティングCRM(Customer Relationship Management)など顧客起点のマーケティングがブームとも言える様相を呈したことなどが挙げられます。
1990年代~2000年代初頭にかけて発行された、One to OneマーケティングやCRM(Customer Relationship Management)などにかかわる書籍
1990年代~2000年代初頭にかけて発行された、One to OneマーケティングやCRM(Customer Relationship Management)などにかかわる書籍
そして2000年代に入ると、このような企業による個人情報収集・活用機会の広がりを受けて、個人情報の取扱方法をめぐる議論が活発化し、2005年には個人情報保護法が全面施行されることになりました。また2005~2007年には、ブログやSNSの台頭を受けて「Web2.0」がブームとも言える状況に。そして2007年にはサブプライムローン問題に端を発する世界同時不況へと突入していきました。こうした中、個人情報保護法施行前後には一時期、個人情報の活用に消極的な向きも見られたものの、折からの顧客起点のマーケティングへの注目の高まりや、インターネットの進展といった追い風を受けて、多くの企業がダイレクトマーケティングに参入していきました。

2000年代のダイレクトマーケティングを振り返ってみると、通販領域においては、eコマース(EC)、mコマース(ケータイ通販)が活発化。後半には「クリック&モルタル」「マルチチャネル」が注目を浴び、インターネットと店舗、さらにはカタログなどのオフライン・チャネルを併用する動きが広がってきました。また、インターネットの普及と足並みを揃えて、Webサイトインターネット広告eメールなどのオンライン・メディアが注目され、通販領域はもちろん、非通販領域においてもこれをブランディングやプロモーション、顧客サービス(コールセンターを含む)に活用する企業が増加。一方では、コールセンターにおけるVOC(Voice of Customer)活動が活発化したのも、2000年代後半以降のことでした。
2000年には、デビッド・S・ポトラック、テリー・ピアースの共著による『クリック&モルタル』、バーンド・H・シュミットの『経験価値マーケティング』がほぼ同時期に発行された
2000年には、デビッド・S・ポトラック、テリー・ピアースの共著による『クリック&モルタル』、バーンド・H・シュミットの『経験価値マーケティング』がほぼ同時期に発行された
そして2010年代に入ると、高齢化・人口減少社会の到来が現実味を帯びてくる中、企業の海外進出が加速すると同時に、2000年ごろをピークに一時期、勢いを失っていたかに見えるCRMの重要性が改めて意識されるようになってきました。また、コミュニケーションのデバイス面で、それまでのPCや携帯電話に加えて、スマートフォンが普及してきたのもこの時期のことです。こうした中、ダイレクトマーケティングのプレイヤーは、通販領域・非通販領域ともにますます拡大。中でもダイレクトマーケティングによるリードの獲得・育成に注力するB2B企業や、ソーシャルメディアの進展と足並みを揃えて、新たなビジネスモデルによりC2Cのダイレクトマーケティングを支援するベンチャー企業などが目立ってきました。

2010年代におけるダイレクトマーケティングの特徴としては、ECがさらに普及すると同時に、2000年代の「クリック&モルタル」「マルチチャネル」を顧客視点でさらに進化させた概念とも言える「オムニチャネル」がブームとも言える様相を呈してきたことが挙げられます。また前半には、通販領域・非通販領域を問わず、ソーシャルメディア・マーケティング共通ポイントサービスなどへの取り組みが活発化。さらにここ数年は従来からの顧客データにWebのアクセスログやソーシャル上のデータ、さらにはIOT(Internet of Things)により収集したデータなどを加えたビッグデータの収集・分析や、これに基づくマーケティング・オートメーションに注目が集まっています。

つまり今日では、業種・業態を問わずあらゆる企業が、顧客接点を越えて顧客データを収集・分析・活用し、CX(Customer Experience:顧客経験価値)を高めることを通じて、持続的な成長を遂げようと考えるようになってきました。この結果、こうした取り組みを推進している企業が「自社はダイレクトマーケティングを展開している」と認識するか、しないかにかかわらず、「すべてのマーケティングはダイレクトマーケティング」と言われるようになってきたのです。

以上、今回は、1960年代以降のダイレクトマーケティングの歩みを駆け足で振り返ってみました。何せ50年以上を一気に振り返ったので、荒削りのところもあるかと思いますが、何かお気づきの点がありましたらご遠慮なく、こちらの問い合わせフォームよりご指摘ください。

なお次回は、私の講演の三番目のパートである「歴史から学ぶべきことは」をダイジェストしてご紹介したいと思っています。