DMW東京300回記念イベント:ダイレクトマーケティングの歴史に未来へのヒントを学ぶ 第二部①「ダイレクトマーケティングの基本」

2016年5月27日
去る4月15日、「ダイレクトマーケティングの歴史に未来へのヒントを学ぶ」と題し、Direct Marketing Workshop東京の第300回記念イベントが開催されました。同イベントは二部構成で、第一部の<通販領域編>では(公社)日本通信販売協会 理事 主幹研究員 柿尾 正之氏が「ダイレクトマーケティング(通販)の転換期とヒット商品開発の秘訣」、第二部の<非通販領域編>では私、西村が「ダイレクトマーケティングによる売れる仕組みづくり」と題し、プレゼンテーションを行いました。

ちなみにDirect Marketing Workshopは、1984年に、米国の流通視察を機に発足したダイレクトマーケティングの勉強会で、以降、今日に至るまで、原則として月1回のWorkshopを開催。発足32年にしてついに300回目を迎えることになったのです。私自身はDMW発足当初からのメンバーであると同時に、この間、理事や事務局なども担ってきましたが、現在は顧問として、40代を中心とした若手執行部を側面支援しています。

さて、 「ダイレクトマーケティングによる売れる仕組みづくり」と題した私の講演は、「ダイレクトマーケティングの基本」「これまでの歴史を振り返ってみよう」「歴史から学ぶべきことは?」「そして残された課題は?」の4つのパートから構成されています。本日はこのうち「ダイレクトマーケティングの基本」について、その概略をご紹介したい思います。

ダイレクトマーケティングは、米国で通信販売会社をクライアントとする広告会社を経営していたレスター・ワンダーマン氏が開発したコンセプト。氏は、1961年に通信販売会社の首脳陣向けの講演で初めてこの用語を公的に使用、1967年にMITで「ダイレクトマーケティング—販売の新しい革命」と題した講演を行ったのを機に、多くの人々から注目されるようになりました。

ダイレクトマーケティングの定義としては、今から30年ほど前に米国の『Direct Marketing』誌に毎号、掲載されていた「ダイレクトマーケティングとは、一つ、または複数の広告メディアを用いることにより、効果の測定できるレスポンスを発生させ、商取引をどんな場所でも行うことができる双方向のマーケティングである」(『カタログ通信販売 注目企業のダイレクトマーケティング戦略と業界展望』<工業市場研究所>より引用)というものが知られています。

この定義は、ワンダーマン氏に影響を受けた当時の米国のダイレクトマーケティング協会(Direct Marketing Association)の指導者たちが記したもので、そこにはダイレクトマーケティングの適用分野が、通信販売に限らず、店頭集客、リード開拓など多様な領域に及ぶことが併記されていたことを記憶しています。

また、ダイレクトマーケティングの生みの親であるワンダーマン氏は、その著書『ワンダーマンの売る広告 顧客の心をつかむマーケティング』(翔泳社)の中で、「産業革命の恩恵ともいえる大量生産・大量マーケティングの仕組みはあまりにも間接的で、個客のニーズに耳を傾けていない。こうした状況を改善するためには生産者と消費者の直接的な対話を再開することが不可欠であり、ダイレクトマーケティングこそがそれを実現するベストな方法である」と記しています。

ワンダーマン氏の著書『ワンダーマンの売る広告 顧客の心をつかむマーケティング』(翔泳社)。本書の監訳者は、月刊『アイ・エム・プレス』のコメンテーターを長年にわたりお引き受けいただいた藤田浩二氏、監修は電通ワンダーマンである
ワンダーマン氏の著書『ワンダーマンの売る広告 顧客の心をつかむマーケティング』(翔泳社)。本書の監訳者は、月刊『アイ・エム・プレス』のコメンテーターを長年にわたりお引き受けいただいた藤田浩二氏、監修は電通ワンダーマンである


日本においてダイレクトマーケティングという言葉が知られるようになったのは、1980年代のこと。1980年代と言えば、大手企業による通信販売参入ブームが真っ盛りだったこともあり、ダイレクトマーケティングを通信販売の異名として受け止めるマーケターが大半で、店頭集客、リード開拓などを含むより広義なダイレクトマーケティングが活発化しはじめたのは、1990年代に入ってからのことでした。このあたりの国内におけるダイレクトマーケティングの歴史については、次回のコラムで詳述したいと思います。

近年におけるダイレクトマーケティングへの注目の背景としては、市場の成熟、競争の激化、情報流通量の増大などにより、生活者のパワーが増大し、企業のパワーを大きく上回るようになってきたことが挙げられます。そしてインターネットに代表される情報インフラの整備や、情報を蓄積・分析するためのテクノロジーの進展が、これを後押ししてきたことは、皆さん、ご存じの通りです。

しかし、ダイレクトマーケティングが注目されればされるほど、これと類似する概念も台頭してきました。例えば1995年にはドン・ペパーズ、マーサ・ロジャーズ両氏による『ONE to ONEマーケティング』(ダイヤモンド社)が出版されたことを機にOne to Oneマーケティングが脚光を浴びたかと思えば、2000年前後にはCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)が注目され、さらに昨今では、データドリブン・マーケティングという言葉が多用されるようになっています(これらはほんの一例)。

ドン・ぺパーズ、マーサ・ロジャーズ両氏の共著による『ONE to ONEマーケティング ---顧客リレーションシップ戦略---』は、1995年3月に発行された
ドン・ぺパーズ、マーサ・ロジャーズ両氏の共著による『ONE to ONEマーケティング —顧客リレーションシップ戦略—』は、1995年3月に発行された


これらのコンセプトは、それぞれにフォーカスポイントが異なるものの、“顧客データに基づくマーケティング”という点においてはダイレクトマーケティングと共通しています。こうしたコンセプトの中には、ITをはじめとするマーケティング支援企業が、顧客データに基づくマーケティングを支援する自社のソリューションを差別化し、競争優位性を築くために開発したものも多く、このことが次々と新しい用語を生むと同時に、用語の混乱を招く一因になっていると言えそうです。

次回は、私の講演の二番目のパートである「これまでの歴史を振り返ってみよう」をダイジェストしてご紹介したいと思っています。