2019年12月28日
消費者志向経営の重要性が叫ばれる昨今だが、これを実践する上では、お客さま相談窓口だけがねじりハチマキで頑張れば良いというものではない。営業担当者や店舗、オンライン&オフラインの広告宣伝部門など、お客さまとのマーケティング・コミュニケーションを担うあらゆる顧客接点、ひいてはこれらの顧客接点の内側で業務を推進する商品開発部門や経営管理部門においても、お客さまをしっかりと見据えて業務を推進することが不可欠だと言えるだろう。
こうした中、先進的なお客さま相談窓口の中には、日々、お客さまと対峙し、多様なお客さまとの直接的なやりとりを積み重ねてきた経験を生かして、社内におけるお客さま視点の醸成に一役買っているところもある。中でも流通の川上に位置するメーカーにおいては、商品開発担当者をお客さま相談窓口に送り込み、その様子を見学させる企業がかねてより散見されたが、最近ではこうした取り組みを組織的に展開する企業も増加してきた。
例えばネスレ日本のお客さま相談窓口では、前号で紹介したVOC(Voice of Customer)活動に取り組む一方、社内にお客さま視点を醸成するための各種プログラムを開発。①VOCセンターの見学を交えたVOC研修、②自社コミュニティサイトに寄せられるお客さまの声を使ったコンシューマー インサイト研修、③実際にお客さまからの問い合わせに対応するお客様相談室体験、④お客さまの生の声を工場スタッフに聴いてもらうVOCセミナーなどを通して、売り上げがひとりひとりのお客さまの購買の積み重ねであることを再認識してもらうように努めているという。※1
また、サントリーでは2005年度から、同社のお客さま相談窓口である「お客様センター」を起点とする「お客様視点プロジェクト」の運営を開始している。これは「お客様視点気づき講座」と「お客様視点体験プログラム」から構成されており、前者はお客様コミュニケーション部のスタッフを講師役に、お客様センターでの実際のコミュニケーション事例等を基に、最近のお客さまの動向や、メーカーの視点とお客さまの視点のギャップなどを解説するもの。後者は他部門のスタッフにお客様センターでの電話対応を実際に体験してもらうことで、お客さまの心情を理解し、把握する力を磨いていくプログラムとなっている。日頃からテキスト情報を通してお客さまの動向をウォッチしていても、実際にお客さまとのやりとりを体験すると“目からウロコ”の気づきに繋がることも少なくないとのことで、本プログラムは社内で人気を博していたようだ。※2
このほかキユーピーでも、「お客様の声体感研修」の名称のもと、お客様相談室で2~3日間に渡り数十本のお客さまの声を聞き、そこで得た気づきを所属部署の活動に活かすコミットメントを作成するという研修を導入している。※3
以上、社内へのお客さま視点醸成のための研修や、実際の電話対応を体験するプログラムを組織的に展開しているお客さま相談窓口の事例を挙げたが、最近ではこれをさらに進めた形で、お客さま相談窓口勤務を社員研修の一環として位置付けたり、お客さま相談窓口のスタッフを正社員化して人事ローテーションに組み込んだりしている企業もある。
例えばプラスの流通系カンパニーであるジョインテックスカンパニーでは、コールセンター(お客さま相談窓口)のスタッフを正社員化する一方で、全新入社員を本配属に先駆けてコールセンターにいったん配属し、数カ月にわたる研修を行うという取り組みを展開している。この担当責任者によると、コールセンターで直接、お客さまの声に触れた経験があると、その後、どのような部署に行っても、自身の仕事がお客さまにどのような影響を及ぼすかが肌でわかるようになるとのことであった。※4
本号では、社内にお客さま視点を醸成するという観点からお客さま相談窓口の活動にフォーカスしたが、こうした活動は日々、お客さまに対峙するお客さま相談窓口の経験知を消費者志向経営の推進に活かす上で、大きな意味を持っていると言えるだろう。
最終回となる次号では、消費者志向経営を実践する上で、他部門と連携することの重要性にフォーカスする。
<注>
※1 ネスレ日本の事例は「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」上のこちらを参照
※2 サントリーの事例は「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」上のこちらを参照
※3 出典:『コールセンター年鑑2011』(アイ・エム・プレス)
※4 出典:『CCAJガイドブック』(日本コールセンター協会)
初出:消費と生活社『消費と生活』2019年3・4月号に若干加筆