ブログにアップするのが遅くなってしまったのだが、
先月に行った星野リゾート星野社長のトップインタビューはとっても面白かった。
今週、上がってきたスタッフの原稿を見て、改めてそのことを痛感したので、
今日はそのポイントを紹介しようと思う。
まず前提として、リゾート事業には「開発」「所有」「運営」という
3つのドメインがあるが、同社は1991年に自らの事業ドメインを“運営”に特化。
これは日本の観光産業がグローバルな競争にさらされる中で、
地方の老舗リゾート企業の生き残りを賭けた選択だったという。
そして、“リゾート運営の達人”の3条件として下記を掲げ、
これらを同時達成する運営能力を“達人の領域”と定義、達人への道を歩み始めた。
1:顧客満足度 2.50
2:経常利益率 20%
3:エコロジカルポイント 24.3
ちなみに1は自社内で継続的に行っている7段階の顧客満足度調査の結果、
3はNPOグリーン購入ネットワークの評価方法に則ったものとのこと。
2の20%は「保有」企業の満足度を踏まえた結果としての、
同社におけるビジネスの基本的な考え方である。
今回のインタビューでは、同社の概要や最近の市場環境に加えて、
この3つの目標達成に向けてのさまざまなアプローチの中から、
特にCRMにフォーカスしてお話を伺った。
リゾート施設は基本的にリピート利用が少なく、
100点満点で85点くらいを取らないと、これが実現しないという。
そこで同社では、初回に収集した顧客情報に基づき
1人1人にカスタマイズしたサービスを提供することにより、
リピート利用時における顧客満足度を高めることに注力している。
カスタマイズするサービス・メニューは、
誕生日等の顧客の記念日を軸にしたものや、
好き嫌い等の顧客の特殊事情を軸にしたものなど53種類。
具体的には、ペット用の食事を用意するなどといった具合だ。
これは同社が「所有」もする「星の屋」で実施しているプログラムだが、
最初は未整理のまま顧客情報をCRMシステムにいわば放り込んでおき、
リピート利用が明確になった時に改めて入力データを見直し、
顧客ごとに提供するサービスの作戦を立てるのだという。
しかも1回目よりは2回目、2回目よりは3回目と、
回数を重ねるごとに顧客満足度を高めていくというのだから、
まさに顧客情報を収集・蓄積して活用するというCRMのサイクルを
スタッフが一丸となって実践しているといえる。
ちなみに、星の屋のリピーター率は来場者の25%とのこと。
開業からわずか3年であることを踏まえると、かなりの高率といえる。
これは、回を重ねるごとに新たな顧客体験を提供し続ける、
星の屋そのものの魅力のなせる業。
というのは、星の屋では、ポイントプログラムはもちろん、
広告やDMによる集客施策は投資対効果が期待できないとして講じておらず、
施設外での顧客コミュニケーション施策では、宿泊客からの予約受付を担う、
Webサイトとコールセンターに投資を集中しているからだ。
同社では“リゾート運営の達人”を目指しているわけだが、
中でも顧客満足度と経常利益率の目標を同時実現するためには、
投資対効果に基づき取り組みの優先順位を明確化していくことが欠かせない。
前述のCRMシステムの運用方法(データを未整理なまま放り込む)や、
コミュニケーション・コストの投資配分はまさにその一例だが、
これは星の屋が提供する顧客サービスの優先順位にも生かされている。
星の屋の顧客満足度調査は40項目に上るそうだが、
この中で総合満足度に“効く項目”と“効かない項目”を識別し、
接客などの資源配分の優先順位を決めているというのだ。
このほか、仮に全体の顧客満足度がアップしたとしても、
リピート客の満足度が下がったのでは元も子もないという観点から、
顧客の声の拾い方にも配慮を欠かさない。
インタビュー時に挙げられたケースは、
「客室に置かれているCDの種類が少ない」というリピート客の声。
集計結果では下位、すなわち少数意見に属したとしても、
それがリピート顧客のものである以上は無視できない。
そこで、すべての客室のCDを増やすことができなくても、
その顧客が宿泊する時、宿泊する客室に限って、
CDの種類を増やすことは運営面の工夫でできるはずというのだ。
この話を聞いたときに私が思い出したのは、
以前に月刊『アイ・エム・プレス』で取り上げた、
甲府にあるスーパー、オギノのケーススタディ。
こちらは、死に筋の高級ピクルスを店頭から排除したところ、
それが優良顧客が同店を訪れる動機となる商品であったことが判明したため、
再び取り扱いを開始したといったような話だったのだが、
同店では以来、単なる単品ごとの売り上げのみならず、
誰がその売り上げを支えているのかを重視するようになったという。
星野リゾートのケースに戻ると、同社では今後、
ブランディングに乗り出すと同時に、
星の屋で構築したノウハウを徐々に横展開していく意向。
ドン・ペパーズのOne to Oneマーケティングにかかわる書籍を
聖書のように紐解きつつ今日に至ったという星野社長は、
インタビューの最後に、「“リゾートの達人”への道程は、
サイエンティフィックだと言いたい」との一言を残し、
次なるアポイントへと足早に向かっていった。
星野社長へのインタビューの詳細は、
月刊『アイ・エム・プレス』8月25日発行号に掲載されます。
インタビュアーの私が言うのもなんですが、超おすすめです!!
星野リゾート 星野社長にインタビュー
2009年8月1日