ハイヤー乗務員を対象に英会話の社内研修を実施 外資系企業などのニーズに対応

日本交通(株)

タクシー/ハイヤー事業を展開する日本交通(株)は、外資系企業などのニーズに対応するため、ハイヤー乗務員の英語による接客を強化。英語に堪能な人材の採用に力を入れている。また、社内留学制度により英国ロンドンで語学を習得した管理職が講師を務める、ハイヤー乗務員を対象とした英会話研修は、すでに約400人が受講している。

日本特有の旅客サービスであるハイヤーは欧米のプライベート・ジェットに相当

 首都圏を中心にタクシー/ハイヤーによる旅客運送事業を展開する日本交通(株)は、創業者である川鍋秋蔵氏が1台のハイヤーで個人営業を始めた1928年の創業。終戦直後の1945年12月に同社を設立し、以来、政府要人や企業役員などを顧客とするハイヤーと、一般に広く利用してもらうタクシーのサービスを両輪に、事業を拡大。同社が2013年5月現在で公表している営業用車両は、ハイヤー1,179台、タクシー3,659台で、従業員数は7,122人となっている。
 うちハイヤー乗務員は約1,000人で、千代田区と中央区にある3カ所の営業所に在籍。同社ではこうしたハイヤー乗務員を対象とする英語研修などの取り組みを、6年ほど前にスタートさせた。
 そもそもハイヤーは、日本に特有な旅客サービス。欧米では、企業役員などの近距離移動手段としては、シェーファーと呼ばれる専属の運転手を雇用して専用高級車を利用するスタイルが一般的であり、遠距離の移動にはプライベート・ジェットが利用される。一方、日本国内では、官庁など政府機関や主要企業の本社が都内に集中しており、欧米と比較すると、航空機による移動頻度は概して低い。同社ではハイヤーを、欧米におけるプライベート・ジェットに当たる存在と位置付け、乗務員の選抜や人材育成に力を入れ、高級車の導入や機密保持の徹底など、安全かつ確実でラグジュアリーなサービスを実現してきた。
 同社のサービス提供形態には、1日単位の短期スポットや、特定のお客さまに専属の乗務員が付く期間契約などのほか、お客さまが保有する車両の運転や管理業務を請け負うサービスがある。なお、一般的にハイヤーの利用料金はタクシーの3倍程度と言われ、専属の運転手付き車両を期間契約すれば、月間100万円は下らない。
 同社のハイヤーの利用客の中には、欧米を中心とする外国人客も少なくない。さかのぼれば終戦直後にはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)に利用されていたといい、以来これまで、日本を訪問、もしくは日本に滞在する諸外国の政府要人や外資系企業の役員に多数、利用されてきた。特に近年は、経済のグローバル化が進展し、今後は一層の利用増加が見込まれることから、より質の高いサービスを提供するためには、乗務員の英語による接客が必須条件になると同社は考えている。

英国留学の経験がある管理職が乗務員対象の英会話研修の講師に

 少子高齢化や個別輸送に対するニーズの変化といった経営環境の変化を受け、同社のタクシー事業においては、高齢者の利用に対応する「ケア」、子育て支援の「キッズ」、国内外の観光客向けの「観光」という重点3分野を掲げ、各分野のニーズに対応した「EDS(エキスパート・ドライバー・サービス)」を推進。一方、ハイヤー事業においては、従来からのサービスに英語対応を加味することによって、より専門性の高いサービス提供を目指しているのだ。
 同社では、以前から乗務員の人材育成には力を入れている。特にハイヤー乗務員には、二種免許取得や、首都圏の交通事情や関係法規の知識、接客ノウハウの修得はもとより、秘書検定(2級、3級)の合格を課している。そこに今回、基本的な英会話の習得が加わったわけだ。研修を受講した後、社内認定制度にパスすることが求められている。
 こうした人材育成のカリキュラムの進捗や試験の合否に応じて、人材はふるいに掛けられ、配属先が決まる。こうした“関門”を突破した乗務員には、広く活躍の場が開かれ、成績次第で高収入も期待できることから、志望者は多い。もっとも面接などを経て採用となるのは志望者60人のうち1人、さらに試用期間中に二種免許を取得し、秘書検定、英語の試験、乗務試験にパスして晴れて本採用になるのはその5分の1という“狭き門”なのである。
 そのため現在、外国人客にも対応できるハイヤー乗務員は、多士済済。いずれも中途採用者で、元ホテルマンや海外における長期滞在の経験者、観光業を専門とする高等教育機関の出身者、要人警護を担当していた元警察官など、多彩なキャリアを持つ人材が集まっている。
 ただし同社では、これまで英語に縁遠かったハイヤー乗務員にも英会話を身に付けてもらえるように、研修カリキュラムを整備。同社では、英国ロンドンに選抜者を派遣する留学制度を以前から設けており、この制度で留学を過去に経験し、ハイヤーの営業所に勤務している約20人の運行管理者が研修の講師を担当している。英会話の初心者向けに、ハイヤー乗務で使われる頻度の高い基本的な表現などを中心に編さんした独自のスクリプト集をテキストとして使用し、1コマ6時間の座学を4 ~ 5回にわたって実施。また、講師が同乗する成田空港への送迎のロールプレイングも行う。これらの研修を受講したハイヤー乗務員はこれまで約400人に達しており、そのうち150人は、英語での接客ができるスペシャリストとして社内認定されている。

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諸外国の政府要人の送迎にも利用されてきた日本交通のハイヤー(上)。同社では英会話教材として、独自のスクリプト集を作成している(右)

外資系企業や大手メーカーなど年間で約300 社が利用

 英語に対応できるハイヤー乗務員によるサービスを継続的に、もしくはスポットで利用しているのは、外資系企業を中心に、海外から取引先の企業幹部や研究機関の専門家などを招く機会の多い大手メーカーなど年間で約300社。特に、外資系企業には、本国にいる親会社の経営トップの来日などに備え、日ごろから、英語に対応できるハイヤー会社に当たりを付けておき、必要に応じていつでもハイヤーを確保できる態勢を整えている企業が多く、同社には、こうした問い合わせも多い。ただし、ハイヤーが欧米など諸外国にはないサービスであることから、日本を初めて訪れる外国人客が事前にハイヤーを予約するケースはまれ。英語対応のハイヤーは、ニッチな市場がターゲットであることから、同社ではあえて、積極的なプロモーション活動は行っていない。
 なお、同社のハイヤー乗務員が心掛けているのは、あくまでも同社のスタンダードである“日本流”の接客サービス。欧米流のサービスを取り入れることはしていないが、日本流のサービスに、むしろ好印象を持っている外国のお客さまが多いという。来日のたびに同社のハイヤーを利用し、以前、担当した乗務員を指名するお客さまも少なくない。
 英語によるサービスを提供することによる売り上げへの効果の把握は難しいものの、乗務員が英語をまったく解さない場合、外国のお客さまに安心・満足していただくことは困難であり、また、リピート利用も多いことから、一定の評価につながっていることは間違いないと言えるだろう。また今後は、中国や韓国からの来日客の利用増加が見込まれることから、英語に限らず、将来的には、中国語や韓国語への対応も検討しており、そのための人材確保にもすでに着手し始めているという。


月刊『アイ・エム・プレス』2014年3月号の記事