スマホでドラマを楽しみながらファッション・アイテムを購入できる「ドラマコマース」を展開

夢展望(株)

ファッションECを展開する夢展望(株)は、動画の活用に注力。ブランドの世界観などを動画で紹介するほか、オリジナルのネット配信ドラマに登場する商品をリアルタイムで購入できる「ドラマコマース」の取り組みも展開している。

インターネット上に店舗を構えるファッション関連のSPA

 1998年5月に設立し、ダイエットコスメの通信販売から事業をスタート。現在では、10~20代女性をメインターゲットにファッション小売業を展開する夢展望(株)。「夢展望」「sevens」「eYEBEST」といったブランドで展開する同社の売り場は、すべてインターネット上に存在する。各ブランドとも独自運営の本店のほか、「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「DeNAショッピング」といったポータルサイトへの“支店”も出店しており、例えば楽天市場では、優秀な店舗を表彰する「ショップ・オブ・ザ・イヤー2011」で「レディースファッションジャンル賞」ならびに「海外販売賞」を受賞するなど、高い実績を誇っている。
 取扱商品はアパレル、靴・バッグ、雑貨など。当初は仕入品を販売していたが、その後、自社オリジナル商品の製造・販売に移行。現在ではいわゆるSPA(製造小売業)の形態を採っている。
 同社の競争力の源泉は何と言ってもその圧倒的な商品力だ。トレンドが目まぐるしく変化する中で、流行に敏感な若い女性のニーズを満たすため、20代女性スタッフを中心とした商品企画チームを編成。同チームが顧客の目線で企画商品のデザイン、価格、着心地などを厳しくチェックすると同時に、生産企画管理部がサンプル段階での品質チェックを実施することで高い品質を担保している。また、商品企画はシーズン単位などではなく恒常的に行っており、しかも、企画から販売まで最短3週間という開発スピードを実現。SPAならではの機動性を生かして、トレンドに沿ったベーシック・アイテムだけでなく、個性的で挑戦的なアイテムの生産も手掛けている。加えて、大規模な販売力を背景に生産ロットを拡大し、協力工場に専有ラインを確保することで実現した高いコスト・パフォーマンスを軸に、多くの若い女性の支持を獲得。その登録会員数は約135万人にも及んでいる。
 さらに近年では、ECサイトの検索機能、レコメンド機能の強化のほか、ポイント・プログラムなどの顧客サービスの拡充、顧客情報管理による顧客満足の最大化などを積極的に推進することで、リピーターを増やしつつあり、ファッションEC業界の中でも注目を集める企業の1社となっている。

日本初のスマホ版動画コマースサービスを展開

 同社では、前述の通り、すべての店舗をインターネット上に設置している。
 インターネットへの接続デバイスとしては、PC、従来型の携帯電話(以下、ガラケー)、スマートフォン(以下、スマホ)などがあるが、同社の場合、顧客層の中心が10~20代の女性であることから、もともとPCからのアクセスは少なく、ガラケーからのアクセスが中心であった。しかし、近年のスマホの普及に伴って、ガラケーからの移行が急速に進行。最近のアクセスにおいては、スマホが約65%、ガラケーが約25%、PCが約10%といった状況となっている。
 スマホをガラケーと比較した場合、その大きな優位点として挙げられるのが、動画表現力の高さだ。同社では多くのユーザーがスマホからアクセスしているという状況を最大限に生かすことを目指し、早くから動画の活用に注力。例えば夢展望サイトでは、各ブランドの世界観や“モデルオススメコーデ”をYouTube上の動画で紹介。さらに2012年10月にはオリジナルのネット配信ドラマ「野々村家の人々」の放映も開始した。
 このドラマは、出演する役者の衣裳にすべて自社商品を使用することで、視聴者に楽しみながらブランドの世界観を味わってもらうことを目的としている。10月に試験的に配信を開始した第0話が5日間で1万回以上の再生回数を記録したことから、取り組みを本格化。その後、定期的に配信が行われ、2013年2月現在で第5話までが放映されている。
 さらにこの「野々村家の人々」の人気をベースにスタートした革新的な取り組みが「ドラマコマース」である。ドラマコマースは、スマホでドラマを楽しみながら気になるファッション・アイテムを購入できるという、おそらく日本でも初めてのスマホ版動画コマースサービスの試みだ。
 その具体的な内容は、「野々村家の人々」に登場する商品が気になった場合、画面下に表示されている商品情報をタップすると、販売ページに移行し、そのままリアルタイムで購入できるというもの。「野々村家の人々」を放映したところ、視聴したユーザーから「ドラマで着用している商品に興味があるが、販売されているものなのかどうかがわからず、不便」といった声が数多く寄せられたことをきっかけにシステム開発を進め、2012年12月からAndroidスマホおよびPCを対象としたサービス提供をスタート。2013年春にはその提供範囲をiPhoneにも拡大する予定である。また、商品購入者のレビューを確認できる機能の付加なども検討していく考えだ。
 この取り組みの中で特筆すべきは、Webドラマ「野々村家の人々」の制作を含め、すべてを内製化していることだ。そのためにTV制作会社出身者などをスタッフとして迎え、独自性の高い取り組みを実現している。

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出演する役者の衣装にすべて自社商品を使い、ドラマを見ながら商品を購入できる仕組みとしたWeb ドラマ「野々村家の人々」

動画品質の向上により“商品のイメージ違い”を削減

 ドラマコマースの視聴数は徐々に伸長しており、この仕組みを通じた売り上げも増加傾向にある。ただし、投資対効果については、ドラマを見て、しばらくしてからサイトに再アクセスして商品購入に至るといったケースもあることから、厳密な検証が困難であり、不透明な部分も少なくない。
 しかし、同社ではこの施策を“実験的”な取り組みと認識しており、コストについては、話題性を喚起するといった観点も含め、“広告宣伝費” としてとらえている。そうした意味では、ソーシャルメディアによる情報の広がりなどを見ても、一定の宣伝効果を発揮していることから、ある程度満足できる成果を獲得しているものと評価している。
 今後については、さらに動画マーケティングの強化を図っていく意向だ。
 その背景には今後、スマホに加えてタブレットが普及するという読みがある。そうなれば、インターネットを経由して動画を視聴する機会はさらに増加すると見込まれることから、その最大活用を図ろうというわけだ。
 具体的には、コンテンツのバリエーションを拡充するとともに、動画品質についてもさらなる向上を図り、“生地感”や“風合い”の伝達力を強化する。これにより、通販のデメリットである“商品が届いた際のイメージ違い”を極力なくし、さらなる顧客満足度の向上を目指していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年4月号の記事