各種施策と“人の魅力”を組み合わせてリピートを促進

ラクーア〔(株)東京ドーム〕

(株)東京ドームが運営する複合型レジャー施設「ラクーア(LaQua)」。同施設ではモバイル会員サイトやポイントプログラムの運営、レディースデーの設定などの施策に加えて、出店テナントも含めた従業員教育・ES向上にも注力することでホスピタリティにあふれるサービス提供を実現。女性を中心とする顧客のリピートを促進している。

東京ドームシティ内の複合型レジャー施設

 ラクーア(LaQua)は、(株)東京ドームが東京ドームを中心とする東京ドームシティ内で運営する複合型レジャー施設。以前の「後楽園ゆうえんち」の半分をリニューアルして、2003年5月にオープンしたものであり、トリートメント&ビューティー施設を含む温浴施設「スパラクーア」とショッピングゾーン、レストランゾーン、アトラクションからなる。ちなみに、LaQua(ラクーア)という名称は、優しくやわらかい響きを持つフランス語の女性冠詞「La」、リラックスして楽しめるという意味のラク(楽)「LAQ」、そして、やすらぎ、生命の源である水のアクア「aqua」を基に考案されたものである。
 ユーザーは女性が中心で、来場者の約3/4を占めている。年齢別では20~30代が多く、顧客層の中心はいわゆるF1層と言えるが、曜日や時間帯により顧客層の変化が著しく、例えば平日午前中は近隣の居住者、ランチタイムや夜間は近隣のビジネスパーソンや学生、休日には広範囲から訪れるファミリー層などの来場が多いという傾向がある。来場者数は平日平均2万5,000~3万人、休日平均4万~5万人で、月間来場者は100万人以上、年間来場者は2008年度で1,500万人にも及ぶ。ショッピングゾーン、レストランゾーンなどSC(テナント)部門の売り上げも確実に増加しており、2008年度では124億円に達した。
 来場者のエリア別分布では、東京23区内の在住者が中心で7割強を占める。特に地元の文京区在住者が4割強を占めており、同施設としても半径2km圏をメイン商圏と設定している。従って、同施設の構成要素の中でも、アトラクションを除く温浴施設、ショッピング施設、飲食施設は、いずれも比較的狭い商圏内の在勤・在住者などをターゲットとするものであり、同一顧客のリピートがなければビジネスとして成立しない。一方で、同施設周辺のエリアは昼間人口が夜間人口より多いエリアであることから、住宅地のスーパーマーケットのように、折り込みチラシを中心として集客を行うことは困難だ。そこで同社では、CRM的な視点に基づいた各種施策を講じることにより、リピートの促進を図っている。

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東京都心に都市型公園を内包したエンタテインメント融合施設「ラクーア」外観

モバイル会員サイトに加えてポイントプログラムもスタート

 現在、同施設におけるリピート促進施策の中心となっているのは、「LaQuaモバイル会員サイト」である。このサイトは、入会金・年会費が一切無料の会員サイト。施設内の各種紙媒体やWebサイト上に記載されているQRコードなどを利用して携帯電話からサイトにアクセスして、氏名・性別・生年月日・居住エリアを入力し、パスワードを設定すれば、誰でも会員登録をすることができる。会員数は2009年3月現在、約10万人である。
 登録会員には、アトラクションの予約権、料金割引、メールニュース配信などの特典を提供。メールニュースの配信頻度は月1回程度で、内容はイベント案内や新店舗の開店告知などとなっている。
 また、2009年3月24日には、ラクーアを含む東京ドームグループ約200施設共通で利用できる「東京ドームグループTDポイントプログラム」もスタートした。このプログラムでは、①ポイント付与率の高いクレジット機能付き「TDポイントプラスカード」、②クレジット機能が付いていない「TDポイントベーシックカード」、③携帯電話でポイントを貯める「TDポイントカードモバイル」の3種類を用意。商業施設での買い上げ時のポイントだけではなく、東京ドームシティアトラクションズのジェットコースターなどに乗車すると貯まる「乗車ポイント」や、ヒーローショーやJCB HALL、後楽園ホール、ラクーア内「フィットネスクラブ東京ドーム」(会員制)などに来場すると貯まる「来場ポイント」など、東京ドームグループならではのポイントを設定。貯まったポイントは自動発券機を使用して、会員自らが東京ドームグループで使える利用券などと交換できる仕組みとしている。
 なお、各種カードには非接触ICチップ(近接型)を採用。TDポイントプラスカードとTDポイントカードモバイルには「FeliCa」(フェリカ)を、TDポイントベーシックカードには「MIFARE」(マイフェア)を搭載することで、アトラクション乗車時の「乗車ポイント」や各ホール来場時の「来場ポイント」も、鉄道の自動改札のように、スムーズに付与することが可能となっている。
 目標とする会員数は稼動3年で37万人。3月中旬よりラクーア内に特設カウンターを設置して会員登録の受け付けを行ったところ、予想を上回る反応が得られるなど、これまでのところ順調に会員獲得が進んでいる。
 このほか、メインターゲットである女性を対象とする試みとして、2004年6月から毎週水曜日を「レディースデー」に設定している。これは、毎週水曜日に女性だけを対象とした「スパラクーア」の入場料値引き、参加テナント店舗での各種特典などを提供するというもの。当初はラクーアだけの試みであったが、好評を博したことから、2005年1月から東京ドームシティ全体の試みに拡大し、現在に至っている。

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写真左から、クレジット機能付き「TDポイントプラスカード」「TDポイントベーシックカード」「TDポイントカードモバイル」

「雰囲気」と「人の魅力」で売るホスピタリティあふれる施設を目指す

 同施設がリピート来場促進のために、以上のような具体的施策の展開と同様に力を入れているのが、特に施設近隣に在住・在勤する顧客との触れ合い・コミュニケーションを大事にすることである。目指すところは商品や立地や価格ではなく「雰囲気」と「人の魅力」で売るホスピタリティにあふれた施設。例えば、同施設では毎年正月に福袋販売イベントを行っているが、その際、行列する顧客にオリジナルの使い捨てカイロを一人ひとり手渡しで配布するなど、マニュアルにとらわれないサービスを展開している。
 また、サービスの主体は“人”であるという考えから、出店テナントのスタッフを含めた従業員教育やES向上にも力を入れている。
 従業員教育については、新規入店時にデベロッパーの立場から入店研修を実施。顧客に対する敬語の使い方など、施設全体として必要な決まりごとなどを指導している。また、各テナントの店長に対しても、新規着任時に同施設の特徴などを伝えるマネジメント研修を実施しており、いずれもテナント出店企業から好評を得ているとのことだ。
 一方、ES向上については、「顧客に楽しんでもらう施設として、従業員にも楽しく働いてもらう」という考えの下、休憩室の設備や出店テナントの協力による従業員割引特典の充実などを図るほか、定期的に懇親会なども実施。高いESに基づくCSの向上を目指している。
 同施設の2009年度のスローガンは、「その先の“あったかさ”へ」。これまで以上に、顧客との触れ合い・コミュニケーションの強化を図っていくことで、中長期的に施設を利用してもらえる“ファン”づくりを促進していく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年8月号の記事