主力のスーツで生産から販売まで10カ月 常時20パターンの型紙で顧客の細やかなニーズに応える

青山商事(株)

都会の若いビジネスパーソンを対象に、洗練された「仕事服」を提供する青山商事(株)のTHE SUIT COMPANY(以下、スーツカンパニー)。同社がネット販売を開始したのは2002年から。現在では、ネット上でも店舗と同じ商品を取り扱っており、その売上高はリアル店舗のほぼ1店舗分。ネット顧客の80%前後は、リアル店舗での購買経験者となっている。

最初の3年で売上目標を順当に達成

 スーツカンパニーの第1号店は、古くからの老舗が立ち並ぶ日本橋にある。ビジネス街に近く、ステイタスの高い地域である。
 2000年10月、「洋服の青山」があったところにパイロットショップとして開店。半年間の試行を経て、2001年に正式に開業し、2008年度で8期目を迎えた。
 当初の目標は、最初の3年間で20店舗・100億円の売上げを上げること。同社では2003年度までにこれをクリアし、以降、順調に業績を伸ばしてきた。現在、全国に30店舗を展開。2007年度には1店舗当たり約7億円の売上高を達成している。

TSC外観2

THE SUIT COMPANYのリアル店舗

 スーツカンパニーの店舗の売場面積は、100~300坪で、150~170坪が主流。取扱商品はスーツ、ジャケット、パンツ、シャツのほか、ネクタイ、靴、かばんなどである。

糸を選び、素材を作るところから関与

 そもそも「洋服の青山」では、スーツカンパニーの立ち上げ以前から完全買い取り制を採用。スーツを中心とした商品に関しては、自社の企画、自社の型紙でオーダーを出し、製品すべてを買い取る形を繰り返してきた。スーツカンパニーについても、立ち上げ当初から、すべてのアイテムについてSPAという体制をとっている。
 商品の企画、生産、販売までの期間は、主力商品であるスーツを例にすれば、10カ月程度。イタリアの生地以外は、糸から選んで買い付けている。羊毛からの生地製造を行う中国の工場と提携し、オーストラリアでの羊毛の買い付けから、どのような糸と素材を作るかにも関与している。
 スーツの型紙は、常時20パターン程度を用いており、その時どきでテイストを絞り込んでデザインを決めている。

想定と一致した実際の顧客層

 スーツカンパニーのターゲットは27歳前後の都心あるいは政令指定都市に職場をもつビジネスマン。未婚か、既婚でも子どもはいないという人物像である。
 27歳という年齢は、25歳以下はブランドに頼って購入を決める傾向が強く、40~50歳代は購入場所を選ぶ傾向が強いという調査結果をもとに選定したもので、ちょうど“モノを見る眼”ができる頃として想定されている。彼らは社会人として5年ほどのキャリアを持ち、10着程度のスーツを保有している。実際の顧客のデータでも22~32歳が8割を占めているとのことで、同社の狙いはぴったりはまったといえるだろう。

店舗でもネットでも主力商品はスーツ

 スーツカンパニーのスーツは、1万9,000円(税込1万9,950円)と2万8,000円(税込2万9,400円)のツープライスである。このほかセレクトラインとして、一部の店舗に3万8,000円(税込3万9,900円)の商品を置いている。これは工程に手作業を含む、高級感をもたせた商品で、製造ロットも100着程度と限られている。
 客単価は、店舗によってかなり違いがあるが、平均して2万4,000円前後である。スーツの場合は、顧客の75%が2万8,000円の商品を購入するが、シャツと小物という組み合わせでの買い物も少なくないという。男性スーツのイメージが強いせいか、売り上げの87%近くはメンズ、13%強がウィメンズという比率になっている。
 店舗のスタッフは、都心の大型店ではアルバイトも含めて100人程度だが、地方都市の店舗では10人程度と開きがある。1店舗当たりの平均は25人。前述のように“モノを見る眼”を持ちはじめた顧客自身の主体的な選択を尊重し、売り場では、必要でなければ声をかけないという姿勢で接客している。
 一方、ネットでの販売開始は2002年。当初は、3万8,000円の商品を販売するのが目的だったが、その後品揃えを充実し、現在ではリアル店舗と同じラインアップを展開、ほぼ1店舗分の売上高を達成している。主力商品はスーツ。当初はもっと単価の安い小物などが売れると想定していたが、嬉しい誤算であったという。なお、ズボン丈などの直しに関しては、明細書と現物を近くの直営店に持参するか、過去に購入したことのある顧客であれば、股下のサイズと裾の形状をメールで伝えれば、あらかじめ補正した上で配送してくれるという。
 スーツカンパニーでは、アドレスを登録すれば商品の送料が無料になるというサービスを提供しているが、いろいろと聞かれることが面倒なのか、個人情報の漏洩を心配する人が増えたのか、アドレスを登録したがらない顧客も少なくないようだ。
 現在の登録者数は約160万人。リアル店舗の顧客では約60%、中でもリピーターでは100%が登録するという。メールマガジンの配信数は、週1回発行のモバイルメールが約21万件、月2回発行のPCメールが約1万5,000件となっている。
 同社の場合は、店舗でもネットでも主力商品がスーツであることに変わりはない。合わせて購入する雑貨の組み合わせなどに若干の違いは見られるが、チャネルによって購入傾向に大きな差が出るということはないようだ。なお、ネット顧客の約80%は過去にリアル店舗で買い物をした経験を持つ顧客であるという。

足元を確かめながら、リアル店舗を地方都市に増やし、ネットの出店も拡大したい

 スーツカンパニーでは、今後も店舗とネットのどちらかに注力するのではなく、双方をバランスよく運営していくとのことである。
 店舗については、人口60万~70万人都市への出店を推進する意向。この程度の人口の都市であれば、前例もあり、成功の公算が高い。具体的には、岡山、静岡、新潟を成功例として、その他の都市を候補地に計画を進めている。
 ネットに関しては、現在、「Yahoo!ショッピング」に出店しているが、将来は、ネットのショッピングモールにも出店したいとの意向をもっている。また、姉妹店であるセレクトショップ、「UNIVERSAL LANGUAGE」でもウィメンズを充実させた上で、同ショッピングモールへの出店を考えているとのことである。
 また同社では、店頭での新たなサービスとして、靴の特徴や在庫状況が調べられる端末を全店に設置した。店員を呼ぶには気後れするといった時に、自分で在庫の有無を調べられるとあって、来店客から好評を博している。さらに銀座店では、同じようにスーツの在庫を検索できるシステムを試験的に稼働させ、顧客へのサービスを強化している。

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靴の裏面にICタグが貼ってあり、端末にのせると詳しい説明と、自店および他店の在庫状況がわかる


月刊『アイ・エム・プレス』2008年5月号の記事