メイベリン・ニューヨークは、世界最大の化粧品会社ロレアルグループの日本法人である日本ロレアル(株)が日本において展開する代表的なブランドのひとつ。2005年10月に新発売したマスカラ「インテンス ダブルXL」の販促キャンペーンでは、自社サイト、化粧品関係のWebサイト、メールマガジン、店頭に加え、期間限定のブログサイト「目指せモテ顔!女っぷり向上委員会」でトラックバック・キャンペーンを展開。顧客主導の口コミ醸成・コミュニティ化を試みた。
メルマガ会員化に注力する一方でネット上の口コミ活用のタイミングを模索
化粧品の輸入、製造、販売、マーケティング事業を展開する日本ロレアル(株) 。同社のコンシューマー・プロダクツのひとつであるメイクアップ・ブランド「メイベリン」は、2005年のドラッグストア・GMS集計のマスカラの販売個数NO.1を誇る。同社では、テレビ、雑誌、Webサイトなど、既存メディアでの広告・販促を展開して商品認知・訴求を図る一方で、インターネット上で“口コミ”をどのように仕掛けることができるかを模索してきた。また、PC/モバイル双方のメールマガジン会員獲得にも注力している。
CGM(Consumer Generated Media)が一般化し、ますます広がりを見せる中、マーケティング担当部署が主導し、ブログを活用するアイデアを温めてきた。「口コミ喚起の方法はいろいろあるが、ブログを中心に複数のメディアを立体的に組み立てて口コミを発生させるようなプロモーションをやりたかった」と、同社コンシューマー プロダクツ事業本部の宮腰江里奈氏は語る。これを実現させたのが、新商品のマスカラ「インテンス ダブルXL」のキャンペーンだ。このキャンペーンでは、先行他社のブログ・キャンペーンの運営実績を持つアメーバブログのサービスを採用。さらに、@コスメと親和性の高い(株)フラウディア・コミュニケーションズに運営を委託した。
キャンペーン名は「目指せモテ顔!女っぷり向上委員会」。これは、ブログを口コミを誘発する受け皿と位置付けるトラックバック・キャンペーンで、2005年10月の「インテンス ダブルXL」の発売に合わせ、10月25日から12月末日にかけて、 Webサイト、 モバイルサイトの双方で展開された。なお、このブログはキャンペーン専用に開設されたブログで、「女性として理想の自分になるために必要なコスメや、その使いこなし術をナビゲートする」というもの。メイクアップにまつわる計4回のテーマ (お題) について、 トラックバックもしくはコメントにより意見を投稿すると、抽選で同社の化粧品や豪華プレゼントが当たるという内容である。
前述のメルマガ会員には、新商品発売ならびにキャンペーンの告知を行い、発売後の11月には、テレビCM、雑誌、新聞広告、「@コスメ」「Yahoo! Beauty」「cafeglobe.com」「Fe-Mail」「ELLE Online」「Ginza Street」などインターネット広告、全国各地の店頭プロモーションを同時展開。店頭で購入いただいた方には、当選確率が高い特別なシリアル番号を渡して、ブログサイトへの誘導を図った。
トラックバックによりブロガーのコミュニティ化を実現
キャンペーン応募の流れは以下の通り。まずはブログ上に出される、「みんなに好かれるモテ顔って?」「使ってうっとりの新作コスメって?」「マスカラ&リップ頂上作戦!」「女っぷり向上委員のコスメ座談会」という4つのテーマに対して、ブログを持っている人はトラックバック、持っていない人はコメントにより投稿する。コメント送信後、サイト上のフォーム(送付に必要な住所、氏名、電話番号のほか、eメールアドレスや、店頭イベントでシリアル番号を入手した場合はその番号)に入力して応募手続きは完了。テーマごとに、毎回抽選で30~100名に、限定コスメセットなどのプレゼントが当たるほか、秀逸なトラックバック・コメントを寄せた1名には特別賞が贈呈される。
また、異なるブログ間で誰が見に来たかの足跡を残せる「ログログシール」をカスタマイズした、女っぷり向上委員会のシールをブログ内に設置。これをダウンロードして自分のブログに表示すると、ほかのログログシールのユーザーが自分のブログ内のシールをクリックした時に、登録しているブログのURLが記録される仕組みだ。
「女っぷり向上委員会」を展開するに当たっての留意点は、大きく2つ。ひとつは、ブログ上で正しい使い方を自発的に紹介する良い口コミをつくること。「インテンス ダブルXL」の前身にあたる「XXL(ダブルエックスエル)」が発売された際、メイクアップ専門家と一般ユーザーで評価が大きく分かれた。メイクアップ専門家からは高評価だったのに対し、一般ユーザーからは「ベース液とマスカラ液の2種類をうまく重ね塗りできない」という声が多かったのだ。同社ではこれを、正しい使い方が伝わっていないと解釈した。「メーカー側のお勧めが“押し付けになってはいけない”と表現に気を遣っていても、お客様主導の認識を徹底することは難しい」(宮腰氏)。例えば、キャンペーンのテーマの決定に当たっては、「インテンス ダブルXL」の使用前後を「Before/After」として画像で紹介するといった案に対して、運営委託先から「主役はコンシューマーなのに、説明の仕方が企業側の発想」と意見を出されるなど、喧喧諤諤の議論がなされた。
2つ目の留意点は、何をもってキャンペーンを成功とするかの基準。アクセス数がどのくらいあったか、コメント内容の分析結果、コミュニティの規模などさまざまな指標が考えられるが、今回は、売り上げにどのくらい結び付いたかを指標とした。営業担当者は「小売店への説得材料として、CMに比べてブログはインパクトに欠ける」とブログ活用に消極的な姿勢だったこともあり、テレビCM放映時期の売り上げ上昇の山を放映終了後どのくらい維持できるかを指標のひとつとした。現在、結果を集計している段階である。
ブログサイトへの総アクセス数は約5万件。トラックバック数約100件、コメント数約500件であった。ブログサイトへのアクセス状況は、Web/モバイルがほぼ半々。既存のメルマガ登録者と非登録者の割合についても、ほぼ半々だったと言う。ちなみに、メルマガからの誘導に関しては、PCメールからの反応が即時的に得られない一方で、携帯電話ではメルマガ配信後30分以内に800人からの反応があり、媒体特性の違いが明確に表れた。
JANコードを用いて会員組織を形成
同社では、今回の取り組みを今後のキャンペーンやブランド・コミュニケーションの布石としてとらえているようだ。ブログから発生する口コミやコミュニティ的なつながりをどう維持し、セールスにつなげていくか。またブロガーと長く付き合っていく方法として、どのようなものがあるか。同社では、コミュニティや口コミの要素を残しながら、特別なイベントに招待したり、限定プレゼントを提供するなどのCRM施策を準備中だと言う。まずは2006年1月より、リップ商品の会員組織「うるるんくちびるクラブ」を発足。対象商品パッケージに付いているJANコードや製品に付いているシリアル番号を元にWebコミュニティ上で会員登録をすると、購入や口コミをするごとにポイントがたまり、それに応じて特典が受けられる、という仕組みだ。
各メディアを生活者主導の導線で整備する同社のマーケティング戦略に、引き続き注目していきたい。
キャンペーンブログ「女っぷり向上委員会」のブログサイト。モバイルサイトへの誘導も図っている