感動を伝播するユニークな仕掛けを用意

ビー・エム・ダブリュー(株)

今年3月2日に発売開始された新型MINI。初年度売上目標は1万台だったが、6月末現在、すでに6,500台を受注した。BMWが発信する新ブランドは、どのように顧客の間に浸透していったのか。そこにはブランドイメージの確立を絡めた、綿密な仕掛けが用意されていた。

オピニオンリーダーをつかむ

 BMWが新型MINI、「MINI One 」「MINI Cooper」を日本で販売開始するに当たって実施したマーケティング活動を理解するには、まず、新型MINIが背負っていた使命を説明することから始めなければならない。
 MINIはもともと、英ローバーが1959年に発売開始した車だ。1994年にBMWのドイツ本社がローバーをグループ傘下に収めてからもMINIブランドは続いたが、2000年9月には生産が打ち切りとなった。世界中で愛されたMINIは、これまで累計530万台が販売され、1990年代になってからは、本国の英国における出荷台数を日本が上回り、日本国内の出荷台数は年平均8,000台に上っていた。
 BMWは独自の開発設計の下で新型MINIを製造することを決定。新設したカテゴリー「プレミアム・スモールカー」として、新型MINIブランドの立ち上げを決めた。2001年7月に英国で、同9月にドイツで販売をスタート。日本と米国は今年3月に同時発売を迎えている。
 こうした経緯の中、新型MINIは2つの大きなタスクを担いマーケットに登場した。ひとつはハードの面で、調査により明らかになった安全面への懸念を払拭すること。もうひとつは、BMWのブランドイメージから抜け出し、新型MINIとして独自のブランドイメージとその世界観を確立することだ。
 ハードの問題点は比較的スムーズにクリアできた。BMWの技術力により、同クラスの競合車と比べて2~3倍ものボディ剛性を実現。6つのエアバッグを標準装備するなどし、その安全性を確保した。
 むしろ難しいのは、まったく新しいMINIとしてのブランドイメージを確立し、その認知を図ることだった。MINIビジネスオフィス ブランド・イニシアティブ マネジャー 上原弘氏によると、BMWの顧客ターゲットは「年齢を問わず、社会的成功を収めた層」で、BMWブランドにはいわゆるジャーマン的な、高品質でかちっとしたイメージがある。しかし、新型MINIでは、「おしゃれで都会的。時代の最先端をいくアクティブな層」をターゲットにしたいと考えていた。企業が固めたブランドイメージを、いかに顧客に伝えるか。そこがポイントとなる。
 マーケティングはリアルとバーチャルの2つの世界で行われ、コンセプトは「誰が買ってくれるかを探す」ではなく、「誰に買って欲しいかを発信する」ことに決めた。
 リアルの世界では、新型MINIのハンドルを握ってほしい顧客層のイメージを、第三者へ瞬時に伝える「場」の創出を図った。2001年9月28日、代官山にオープンさせた「Studio MINI」がそれである。1階がカフェ、地下1階がクラブ、地下2階にイベントスペースがあり、音楽関係者やプロダクション関係者など、感度の高い20~30代に強くアピールする雰囲気作りを目指した。車やそのパーツ関連商品は展示しない。その代わり、上質だがどこかポップな内装、スタッフのきびきびとした気持ちの良い対応、国籍を問わず、すんなり溶け込めるオープンな雰囲気、品質に裏打ちされたリーズナブルな価格などによって、MINIの世界観を具体化していった。
 渋谷の街頭ビルボードや雑誌広告、そしてうわさを聞いて集まってきた顧客は、新型MINIが目指すハイセンスな顧客層、そして、口コミの起点となるオピニオンリーダーそのものだったという。また、オープニングセレモニーやレセプションでStudio MINIを訪れたマスコミ関係者やディーラーは、寸分たがわずMINIの世界観を理解した。「その時点で、この試みは99%成功だったと思う」と上原氏は振り返る。
 今年3月末日までの半年間で、 合計6万~7万人が訪れた。色、匂い、そこに感じる息遣い。リアルの世界は人間の五感にパワフルに訴え、そこにひとつの感動を生む。その感動が、口コミとなって浸透していった。Studio MINIがなかったら、BMWブランドの一部としてのイメージから抜け出すのは、至難の業になっていたに違いない。

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チリ・レッド、インディ・ブルーなどカラフルな一団が街を走った 写真:ビー・エム・ダブリュー(株)

バーチャルでも口コミ発生

 同社は、バーチャルの世界にも積極的に打って出た。2001年4月にMINIブランドの公式サイトを新設しただけでなく、フラッシュムービー制作に携わるようなトレンディな層が集まる有力サイト主催者と次々とタイアップ。イベント共催やコンテンツサポートに注力した。
 ここでのマーケティングの目的は、有力サイト内にある新型MINIのコンテンツから、公式サイトへと見込客を呼び寄せることにあった。公式サイトを開設したと言っても認知度0からのスタートになる。それなら、有力サイトから公式サイトへの道筋を付け、それをハイウエーに育て上げることで、見込客を引き寄せようと考えた。現実はそんなに甘いものではなかったが、予想外な効果も生まれている。
 「普通だったらバナー広告を考えるところを、自らコンテンツの一部になる、インターネット・タイインのかたちを取ったことで、新型MINIが面白いマーケティングをやっているらしい、といううわさが業界関係者の中で広まった。日経新聞から取材を受けたり、ネット関係の広告代理店、D.A.コンソーシアムから講演依頼が舞い込んできたりした。広告業界関係者の間に口コミが広がり、露出の機会が自然と増えていった」(上原氏)。

満を持したストリート・ジャック 今夏にも新たな口コミ・プラン

 新型MINIの世界観を発信し続けた一連の活動の、総仕上げとして行われたのが、3月2日の発売当日に合わせて敢行された「MINI Street Jack」である。
 発売当日と前日の2日間にわたり、渋谷、原宿、表参道、青山、代官山を、1日に5回、7台の新型MINIがフリート走行(決まったルートのデモンストレーション走行)を実施した。カラフルな色を身にまとった新型MINIが一団となって走り抜けていく。これが人目を引かないわけがない。都心の渋滞も奏効した。ゆっくりと、ときには止まりながら走ることで人々の目にその姿を焼き付けることができた。
 情報発信型の口コミマーケティング。その効果はどうだったのか。それは、これまでの出荷台数および登録台数に如実に表れている。
 Studio MINI、MINI Street Jack、インターネットを通じたプロモーション、2001年10月開催の東京モーターショー、東京・銀座にあるソニー・スクエアのクリスマス展示、さらに3月1日~3日までの3日間に東京・原宿のYMスクエアで行われた屋外展示などを通して得た見込客は、12万人に及ぶ。
 昨年10月27日に、ホームページと専用フリーダイヤルを通して先行予約の受け付けを開始し、2002年1月末時点で、1,300台の予約獲得に成功した。さらに、6月末現在で、累計受注台数は6,500台を達成。顧客プロフィールを見ると、男性73%、女性27%と圧倒的に男性客が多いが、年齢別では20代22%、30代32%、40代23%、50代23%と、幅広い層に支持されていることが分かる。
 イベント直後から4月までの2カ月間の車両登録数は1,800台。うち、インターネット経由は280台となっている。初年度の売上目標1万台の達成は確実だ。旧型のMINIが最も売れた1990年の登録台数が1万3,000台程度だったことを考えると、「大ヒットと言える」(上原氏)。
 すでに全国に72のショールームを開設。今年の夏には軽井沢のレストランやショップにさりげなく新型MINIを駐車させ、「軽井沢に行ったらMINIがあふれていた」といううわさが広まるような仕掛けを演出する計画だ。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年8月号の記事