広告部がリードをとって“AGFの顔”を確立

味の素ゼネラルフーヅ(株)

2つのニーズに応える2つのブランド

 味の素ゼネラルフーヅは、食品会社である味の素(株)と、米国の大手食品会社、ゼネラルフーヅの合弁会社として1973年に設立。以来、コーヒー事業を中心に展開し、現在、年間1兆4,000億円と言われる日本のコーヒー市場において大きなシェアを誇っている。
 同社はインスタントコーヒー、レギュラーコーヒー、ペットボトルなどの液体コーヒーをはじめ数多くの商品を提供しているが、それらすべての製品名に「Maxim」、「Blendy」という2つのブランド名を冠することでイメージを統一している。これは店頭、テレビ、新聞、インターネットなど、生活者との接点が多様化していることを鑑みたもの。あらゆるメディア、チャネルにおいて、AGFの製品群が一定のイメージで生活者に受けとめてもらえるか否かは、同社にとって重要な問題なのだ。
 というのも、コーヒーは非常に嗜好性の高い商品。そのためブランド・イメージが売り上げに大きく影響するのである。
 そこで同社は、生活者が日常生活でコーヒーを飲みたくなるシーンを想定し、それに応えるかたちで2つのブランドを提供している。ひとつは一日の中でも特にゆったりとくつろぎたい時。これに対しては、深い味わいや香りをもち高級感を大切にしたブランド「Maxim」で提案している。一方、仕事の合間など、ちょっと一服したい時には、軽やかな味わいと飲みやすさを基調としたカジュアルなブランド「Blendy」で応えている。
 2つのニーズに応える2つのブランドに製品群を統一し、さまざまなメディアやチャネルで各製品をわかりやすくアピールすること、すなわち“AGFの顔”を明確に見せることが、製品のイメージを生活者に広く浸透させ、結果、売り上げを大きく向上させると考えているのだ。 

4つの事業部の活動を統合する広告部

 こうした統一したブランド・イメージを実現するのがIMCである。同社の場合は、通常のインタスタント、レギュラーコーヒーなどを扱う家庭用事業部、自動販売機用の製品、ファーストフード店用製品などを取り扱う業務用事業部など、事業部ごとに各製品を担当する事業部制を採っている。ブランディング活動も、事業部内のブランドマネージャー制により実施。「Maxim」、「Blendy」それぞれのブランドマネージャーが、各事業部の取扱製品のブランド戦略を統括しているが、やはり基本的には各事業部が単独で活動するため、マーケティング・コミュニケーションの統合、つまりは製品イメージを統一することに課題があった。
 そこで、同社は昨年7月、各事業部の活動を統括する広告部を設置。前述の家庭用事業部、業務用事業部、またギフト用製品を担当するギフト事業部、冷蔵タイプ、カップタイプの製品を扱うチルド事業部の計4つの事業部のマーケティング活動をすべて連動させ、製品イメージの統一化を図っている。
 広告部の具体的な役割は、製品に関する表示の統一化と各事業部の意見の統一化。
 たとえば広告を例にとると、具体的なブランドのアピール内容を考案するのは各事業部だが、どんなメディアに出稿すればもっとも効果的かという媒体戦略からは広告部が担当する。クリエイティブ内容に関しても、担当事業部、広告代理店とともに広告部主導でディスカッションを実施。商品ロゴ、シンボルカラーなど、広告を制作する上での基調要素を、他の事業部で打ち出すメッセージと統一するよう配慮するわけだ。もちろん広告以外にも、製品のパッケージ、CM、ポスターなど、AGFと顧客の接点となる部分はすべて、2つのブランドイメージに統合するよう、各事業部のコミュニケーション活動をリードしている。

事業部を超えた顧客誘因を実現

 キャンペーンにおいても姿勢は変わらない。たとえば家庭用事業部ならアイスコーヒーの需要が増える夏に向けて、ギフト事業部ならお歳暮の季節に向けて、といったように、各事業部ごとに広告出稿、CM放映、フェア開催など一連のキャンペーン計画は異なるが、こうした年間スケジュールも、広告部が各事業部とのディスカッションを重ねつつ意見を統合。その上で全国の営業拠点にフェア開催などの告知をしている。
 また、各事業部の広告出稿スケジュールなどを広告部があらかじめ全国の営業拠点に告知できることで、各営業拠点が単独でキャンペーンを行う際も、広告出稿などのタイミングに合わせて実施することが可能になる。つまり、広告とキャンペーンの連動で、より大きな集客効果を狙うことができるのだ。
 「Maxim」は高級感を醸し出すやや渋めのゴールド、「Blendy」はくつろぎを演出する深いグリーンを基調カラーとしているが、こうした活動の結果、広告、パッケージなどにはすべて、この基調カラーが反映されている。キャンペーンの時には店頭の陳列棚やプレミアムにまで基調カラーが使われる。広告部という全社の意思を、まさに営業という販売の最前線にまで到達させているのだ。
 また、このように「Maxim」「Blendy」それぞれをシングルマインドで訴求することは、自動販売機で「Maxim」「Blendy」を知った顧客が、家庭用製品の顧客になるなど、各事業部を超えた顧客吸引に貢献していることも見逃せない。

商品ロゴはすべてこのパターンに統一。また、全製品にこれらのブランド名がつく

商品ロゴはすべてこのパターンに統一。また、全製品にこれらのブランド名がつく

広告部が双方向コミュニケーションを統括

 広告部による統一したブランド戦略の結果は、目に見える形で現れた。広告部は調査部と連動し、広告出稿やキャンペーンなどの実施前後に一般消費者を対象とした製品イメージのアンケートを実施している。結果を明確にするため、毎回同じ調査項目で定点観測を行っているが、広告出稿やキャンペーンを重ねる度に、「Maxim」なら「高級感がある」、「Blendy」なら「親しみやすい」などのイメージが着実に定着。こうしたブランド・イメージの統一は、収益増にも大きく貢献しているという。
 「広告部は、CMや製品パッケージ、キャンペーンなどを担当する各事業部にヨコ串を刺すかたちで、一連のコミュニケーション活動を統合しました。その結果、各メディア、店頭など、顧客とのさまざまな接点において、シングルマインドでブランドを訴求し、そのイメージを店頭やフェアなどでフォローすることが可能となったわけです。組織とはどうしても排他的になりがちなもの。ブランドは短期間で確立できるものではない以上、やはり統合した活動を継続的に行うための、社内の仕組みづくりが重要です」(味の素ゼネラルフーヅ(株)広告部長 兼 調査部長 咲花直哉氏)
 ちなみに同社は、自社製品のイメージや感想を自由に述べ合う、「JAM」という社内組織をもつ。集まった感想を社内メールで社長以下、関連部署の社員に報告するなどし、全社員が自社のコミュニケーション活動を日常的に把握し、見直せるようにしているが、これは各組織間のコミュニケーションの円滑化にも一役買っている。
 今後同社は、今年6月から提供している自社ホームページにおいて、各製品ごとにコンテンツを立ち上げる予定。これを2つのブランドのアピールに活用するとともに、掲示板に感想を書き込んでもらうなどして顧客の意見も積極的に収集。双方向コミュニケーションの中で、AGFへのロイヤルティを効果的に向上させていきたい考えだ。

キャンペーンのプレミアムにもブランドの基調カラー、キーワードを反映

キャンペーンのプレミアムにもブランドの基調カラー、キーワードを反映


月刊『アイ・エム・プレス』2000年10月号の記事