オリジナル刺繍入りの衣料品を通信販売で

日本ランズエンド(株)「コーポレート・セールス」

ベーシックな衣料品を引き立てるアクセントとして

 米・ランズエンドの創業は1963年。創業者のゲリー・コマー氏の趣味でもあったセーリングのグッズを通信販売する企業としてスタートをきった。80年代初頭には主要取扱品目をカジュアル・ウェアに切り換えて急成長を遂げ、現在では米国アパレル通販業界でトップの座を誇る。93年には日本法人、日本ランズエンド(株)を設立し、日本での本格的な事業展開に乗り出した。
 商品に顧客のイニシャルを入れるモノグラミング・サービスは、アメリカでは1970年代後半?80年代初頭、まず、セーリング・グッズを収納するラゲッジ類からはじまった。81年版のアメリカのカタログでは、全68ページのうち9ページがラゲッジに当てられており、さらにその中の見開き2ページを割いて、モノグラミングについての説明がなされている。当時は書体は1インチ大のブロックスタイルのみ。印字できるのは大文字だけだった。当初は「誰の持ち物かを明確にする」という実用本位のサービスだったわけだ。
 その後、モノグラミング・サービスはカジュアル・ウェアにも広がり、選択できる書体も増えていった。また、各種のスポーツを象徴する絵柄なども用意されており、同社のシンプルな衣料品を引き立てるアクセントとして利用する顧客が多い。
 日本ランズエンド(株)では、スタート当初からピンポイント・シャツをはじめとする数点のアイテムで、モノグラミング・サービスに応じてきた。このアイテム数を拡大するとともに、98年には「Lands’ End」のロゴ、および、米・ランズエンドのシンボルであるライトハウス(灯台)のロゴを入れる刺繍サービスを開始した。また、日本ランズエンド(株)のオリジナルとして、女性用のTシャツなどに「L.E.J」の文字をアレンジした刺繍を入れるサービスもはじめている。
 現在、モノグラミングや刺繍のサービスを利用できるアイテムは、トップスの約半数、数十種類といったところだ。利用料金はモノグラミング・サービスが500円、刺繍サービスが700円。同社では通常、受注から24時間以内に商品を発送しているが、これらのサービスを利用した場合にはこれにプラス24時間がかかり、受注の翌々日の発送となる。

日本ランズエンド(株)スタート当初からモノグラミング・サービスの対象であったピンポイント・シャツのページ。モノグラミングは毎月、コンスタントに利用があるという

日本ランズエンド(株)スタート当初からモノグラミング・サービスの対象であったピンポイント・シャツのページ。モノグラミングは毎月、コンスタントに利用があるという

ひとりの顧客の声からはじまった「コーポレート・セールス」

 日本ランズエンド(株)では今年1月、「コーポレート・セールス」カタログを創刊し、受注を開始した。「コーポレート・セールス」とは、同社が販売する衣料品やタオルなどにオリジナルの刺繍をほどこすサービス。受注の最小ロットは6点だ。
 「コーポレート・セールス」は90年代初頭、アメリカでスタートした。アメリカには年末に、経営者が社員に対してプレゼントを贈る慣習があるが、ひとりの顧客から寄せられた、「ポロシャツの胸元に会社のロゴを入れて社員に贈りたいのだが…」という要望が発端となって、このサービスが作られたのである。現在、このサービスを利用して同社の製品をユニフォームとして採用している企業の中には、世界に名だたる大企業も数多い。
 「コーポレート・セールス」という名前は付いているが、必ずしもB to Bばかりを意識しているわけではない。日本ではサービス開始からまだ半年だが、中小規模の店舗小売業や外食産業、趣味のサークルなどがユニフォームとして使用するために利用しているほか、結婚式の引出物、出産の内祝、あるいはゴルフコンペの賞品として、個人からの注文も多いという。サービスの告知は、自社カタログ、レストランやベンチャー系の雑誌に出稿する広告、業界紙や一般紙に掲載されるパブリシティのほか、中小企業などにカタログを送付するといった方法で行っている。
 一般の商品はワンコールで受注が完了するが、コンサルティング販売の意味合いが強い「コーポレート・セールス」では、申し込みから商品のお届けまで、顧客とのやり取りが何度も繰り返される。

今年1月に創刊された「コーポレート・セールス」のカタログと、これにはさみ込まれた「刺繍データ制作依頼書」のフォーマット 今年1月に創刊された「コーポレート・セールス」のカタログと、これにはさみ込まれた「刺繍データ制作依頼書」のフォーマット 今年1月に創刊された「コーポレート・セールス」のカタログと、これにはさみ込まれた「刺繍データ制作依頼書」のフォーマット

今年1月に創刊された「コーポレート・セールス」のカタログと、これにはさみ込まれた「刺繍データ制作依頼書」のフォーマット

 まず顧客は、刺繍データ制作依頼書に図案と住所、氏名などの必要事項を書き込み、同社宛てに郵送する。送られてきた手描きのスケッチやモチーフをもとに、同社のデザイナーがデザインを起こす。企業のロゴなど、完成された図版がある場合には、この工程は不要だ。デザインはCADでデジタル・データ化し、刺繍サンプルが作成される。CADデータには必要な針数が示されており、ここまでの料金はこの針数によって決まる。8,000針以下は7,500円、1万6,000針以下は1万円、それ以上の針数の場合には別途見積もりとなる。
 サンプルと最終的な見積書を承認した顧客から、改めて商品申込書を受領した後に、いよいよ商品に刺繍がほどこされ、オリジナル商品が仕上げられていくことになる。商品代金にプラスして、刺繍料金として8,000針以下は1着当たり600円、1万6,000針以下は800円がかかる。同種商品の購入金額が10万円以上50万円未満の場合には10%、50万円以上で15%の割引サービスも用意されている。また、オリジナル刺繍に加えてモノグラミングを利用することも可能だ。
 商品お届けまでのリードタイムは数量によっても異なるが、サンプル確認後、3週間が目安。サンプル確認までにかかる期間も、最初に受け取るスケッチの完成度や顧客の要望によってさまざまだ。「コーポレート・セールス」では、個々の顧客のニーズを的確に読み取り、これに迅速・確実に応えるために、顧客別に担当者を付け、申し込みから商品お届けまでを一貫して受け持つ体制を採っている。
 米・ランズエンドにはスペシャリティ・ショッパーと呼ばれるショッピング・アドバイザーがおり、購買履歴に基づいて、顧客にぴったりの商品をおすすめしているという。たとえば「昨年のクリスマスにお嬢様にラムのセーターをプレゼントなさいましたが、今年はカシミアのカーディガンを贈られてはいかがでしょう?」といった具合だ。「コーポレート・セールス」はコミュニケーションよりも商品そのもののパーソナライズに目を向けたサービスであるが、“個”客にフォーカスするという意味において、コンセプトは非常に近いと言えるだろう。
 日本進出から5年。「コーポレート・セールス」カタログの創刊は、同社が“より多くの顧客を”から“顧客とのより深い関係を”に目標を移したことを象徴的に示しているのかもしれない。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年8月号の記事