最初は耳垂れウサギの看板から
薬局薬店の店頭でよく見かける動物と言えば、「カエル」「ゾウ」「ウサギ」。誰もが思い浮かべることができる、薬局の3 大キャラクターだ。そのうちのウサギがエスエス製薬の「ピョンちゃん」である。
「ピョンちゃん」の歴史はなかなかに古い。ウサギが誕生したのは、1952 年のこと。エスエス製薬の製品を販売する薬局・薬店であるSSチェーンの看板の中にアイキャッチャーとして登場したのが最初である。この時には、両耳の垂れた珍しいウサギのデザインだった。しかし、その後「両耳が垂れているのは元気がないウサギなのでは」という話があり、片耳を立てることにし、さらに「元気良く」「勢い良く」との意味合いをこめて、やがて両耳が立っていく。1961 年に完成したものが、以降97 年まで商標として使われてきた。
薬局薬店向けの新生ピョンちゃんグッズのキャンペーン用リーフレット
このウサギが本格的にキャラクターとして使われはじめたのが、SS チェーンの店頭大うさぎである。初代は1954 年頃に登場し、1988 年の7 代目までずっと同社の薬を店先でアピールしてきた。店頭置物としての初代ウサギは片耳の垂れた白ウサギで、赤いチョッキを着ていた。素材は石こう製で、これを毎朝店先に出すのが薬局の日課となった。2 代目で両耳が立ち、さらにスタイルを一新した3 代目が登場した1963 年には、ウサギ年にちなんで名前の一般公募が行われ、「ピョンちゃん」と命名された。応募総数は約16万 。「ピョンちゃん」は白から暖色系のカラフルなウサギに変身。そして、当時の同社の売り上げNo.1 製品「エスタロンゴールド」のアンプルを手にしていた。以来、4 代目はアポロの月面着陸にちなんでロケット噴射台をかたどった台に乗ったり、5 代目はV サインをしたりと、時代感を採り入れながらスタイルを変え、多くの人に親しまれてきた。しかし1988 年、道路交通事情などにより、店頭置物は姿を消すことになる。とは言うものの、「ピョンちゃん」の仕事がなくなってしまったわけではない。店置きの小物やグッズとして、店頭から店内へと活躍の場を移したのである。97 年5 月には、新生「ピョンちゃん」が誕生。立体的、静的なデザインから、グッズや画面でより“ポーズや表情のつけやすい”キャラクターへと生まれ変わった。現在は販促用グッズやホームぺージ、テレビコマーシャルの最後の部分に登場している。
ところでなぜ、ウサギをキャラクターとして採用したのだろうか。それは、日本神話の「因幡の白兎と大国主命」の物語に由来し、助けられた白兎が、感謝報恩の意味を込めて社会に奉仕するという設定から。それにウサギは古くから実験動物として医学に貢献しており、何より姿が愛らしい。「跳ねる」が飛躍に通じて縁起がいい。これらさまざまな想いや願いをこめて、ウサギが抜擢されたのである。
指人形、タオル、キーホルダー等々、「ピョンちゃん」グッズは数多いが、これらはすべて非売品ばかり。薬局薬店で、エスエス製薬の薬を買わなければもらえない。しかも、店によってはグッズを置いていない場合もあるので、どうしてもグッズがほしい時は、事前にお店で確認したほうが良いだろう。エスエス製薬本社にも、これらグッズの過去の在庫はないということなので、希少価値は高そうだ。
企業に寄り添うキャラクター
同社では「ピョンちゃん」を、“会社のシンボル”でもあると同時に“一般生活者に親しみをもっていただくためのマスコット”と位置付けている。
同社は、一般用医薬品(OTC)を中心に事業を展開している。つまり、同社が製造している薬のユーザーの大半は、薬局薬店で薬を購入する一般生活者なのだ。一般生活者が同社に対して親しみを感じてくれればくれるほど、製品の認知度も上がるというわけだ。「ほら、あの……」と会社名や商品名が出てこなくても、「ほら、あのウサギの……」と言ってもらえればしめたもの。OTC メーカーとしてのイメージアップ、売り上げアップへの「ピョンちゃん」の貢献度は高い。
だがもちろん、キャラクターばかりが先行して、社名が置き去りにされては困る。「エスエス製薬といえば、ウサギ」「ウサギといえば、エスエス製薬」このバランスのとれた関係が重要だ。同社は会社のロゴマークも、全製品に入っている商標も、すべてウサギで統一。徹底してウサギを使用することによって、この関係をうまく築き上げてきた。同社ではCI が騒がれはじめるはるか以前から、これを実践してきたのである。
同社では1998 年1 月1 日より、設立70 周年を機に企業イメージの向上を図るため新VI(ビジュアル・アイデンティティ)を導入。商標と社名ロゴマーク、社章のデザインを一新した。しかし、従来からのウサギのモチーフはもちろん継承している。
エスエス製薬は「ウサギ」とともに「21 世紀に向けての新たなる飛躍」を目指している。