お客様との接点を増やす「トヨタカード」

トヨタ自動車(株)

限られたパイの中でファンを獲得

 日本の自動車生産台数は 1990年をピークに減少傾向にある。海外需要対応は海外生産に移行しているため、頼みの綱は国内需要。国内登録・届出台数は 1990年をピークに93年まで減少を続け、 94年にやや持ち直してはいるというものの、今後再び大きく需要が膨らむことは期待しにくい。限られたパイの中でシェアを維持・拡大するために、 1995年 1 月、トヨタ自動車(株)では「トヨタカード」の発行をスタートさせた 。
 トヨタカードのヒントになったのは、 GM杜のGMカードをはじめとするキャッシュ・パック・サーピスを付加した米国各社のクレジットカードだった。このサービスは、カードで商品・サービスを購入・利用するごとにポイントが加算され、自社商品を購入した際、ポイントに応じた金額が戻ってくるというもの。
 トヨタカードの場合、トヨタ車両販売店、トヨタレンタリース店、およびSS 、ホテル、航空会社などの特定提携先でのカード利用は 1,000円につき 30ポイント、提携カード会社加盟店での利用でも 1,000円につき 15 ポイントを加算。トヨタ車両販売店で新車を購入、またはトヨタレンタリース店で新車をリース契約すると、過去 5 年間のポイント数を 1 ポイント 1 円で換算した金額が直接お客様の口座に振り込まれるという仕組み。お客様への返金は、トヨタ自動車(株)と提携カード会社が負担している。
 このサービスによって、トヨタファンはもちろん、現在はトヨタ車に乗っていない人も修理や車検にトヨタの店舗を利用するなど 、“オールトヨタ”とマーケットの接触機会が増えることを同社では期待している。キャッシュ・ バックというわかりやすいメリットは、同社の狙い通りカードの利用促進に大きな効果を発揮しているという 。
 トヨタカードが火付け役となって、本田技研工業 ( 株)、日本電気 (株) などが相次いで同様のサービスを付加したカードの発行を開始している。

わずか 5 カ月半で100 万人の会員を獲得したトヨタカード

わずか 5 カ月半で100 万人の会員を獲得したトヨタカード

5カ月半で100万人を達成

 スタート後 2 カ月間はテレビで CF を流し、『ベストカー』『Car & Driver』『月刊自家用車』などの自動車雑誌と『週刊読売』『週刊文春』『週刊朝日』『週刊ダイヤモンド』などの週刊誌、合わせて 20~30誌で広告を展開。申し込みはトヨタ車両販売店、トヨタレンタリース店の店頭と、一部銀行の窓口などで受け付けた 。
 トヨタ車のユーザーに限らず幅広く会員を募るのが主旨であったこともあり、たとえば系列店にインセンティブを提示して会員獲得を促進するなどの策は講じなかった。店舗ではノボリを立ててカードの告知を行った程度であるという 。

国内登録・届け出台数の推移(資料提供 トヨタ自動車)注:四捨五入の結果、乗用車・商用車の合計は総台数と必ずしも一致しない。1994 年は海外生産を含む

 だが、結果として当初の年間目標であった 100万人のカード会員獲得は 5 月半ばで達成された。 店舗別ではやはり本拠地である愛知県が強く、100万人達成時点での会員獲得数は愛知トヨタが 5 万 1,100人で第 1 位、続いて名古屋トヨベット、東京トヨペット、大阪トヨペット、カローラ東京の順になっている 。
 カード会員の男女比は約 7:3 で、一般のカードに比べ男性の比率が高い。年代は、 20代以下が34% 、30代が23% 、40代が22% 、50代が 15% 、60代以上が6% である。現在会員数は約 150万人。 これを 1997 年中に 300万人にするのが目標である 。
 日本自工会とトヨタ自動車の調べによると、 1994年の国内自動車保有台数は約6,491 万台で、そのうち乗用車は約4,256万台。 トヨタ自動車のシェアが約 31.0% であるから、日本には約2,000万台のトヨタの乗用車が走っていることになる。乗用車を複数保有している世帯が約 19% あることを考えてもトヨタ車のユーザーは 1,500万人近くを数えるとみられるだけに、 300万人の カード会員獲得は決して夢ではない。
 トヨタカードはJCB、 UC、ミリオンの 3 社との提携カードである。したがって現在のところ、会員のデータベースは各社がそれぞれ保有している 。現在の課題は会員数の拡大であり、顧客データの活用法については、これが一定数に達したところで具体的に検討するという 。
 現在の会員のポイント有効期限がくる 2000年には、トヨタカード発行の成否がはっきり見えてくるだろう 。

トヨタカードの入会申込書。本田技研工業(株)も同様のカードの発行を開始したことから、今後の動きが注目される

トヨタカードの入会申込書。本田技研工業(株)も同様のカードの発行を開始したことから、今後の動きが注目される


月刊『アイ・エム・プレス』1996年4月号の記事