コンタクトセンター最前線(第115回):受注センターでありながら顧客とのコミュニケーションを重視

(株)丸山海苔店

160年の歴史を持つ、老舗海苔店の(株)丸山海苔店。同社では、寿司店をはじめとする飲食店のプロから、一般生活者にまで商品を提供。原材料の仕入れから商品企画、生産、供給、流通までを一気通貫で手掛けており、良質で美味しい海苔を提供し続けている。「老舗は常に新しい」を企業理念に掲げる同社では、20年ほど前から通信販売にも乗り出し、現在は年に5回、ダイレクトメールを発送。2008年にはネットショップを本格的にスタートした。その受注や問い合わせに対応する受注センターでは、単なる受け答えではなくコミュニケーションを重視している。

電話を掛けるとお客さまに喜ばれる存在を目指して

(株)丸山海苔店は、魚河岸の名で親しまれる東京都中央卸売市場築地市場からほど近い場所に本社を構える、1854年(安政元年)創業の老舗海苔店である。同社では、原材料の仕入れから商品企画、生産、供給、流通までを一気通貫で手掛けており、160年にわたり良質で美味しい海苔を提供し続けてきた。その海苔は、築地近隣の有名寿司店やホテルをはじめとする食のプロフェッショナルに用いられている。このほか、一般生活者を対象とした贈答用や家庭用の商品も販売。いずれも人気が高く、数十年来の付き合いだという顧客も多い。主な顧客の年齢は60代で、30〜40年にわたり丸山海苔店の海苔を購入し続けている顧客も珍しくない。
 同社では、日本茶、昆布や干し椎茸などの食品も販売している。日本茶については、約40年前より販売を行っているが、創業150年を機に、日本茶のブランド名を「築地丸山 寿月堂」に改称し、丸山海苔本店の横に日本茶喫茶と茶葉の専門店をオープンさせた。さらに、2008年10月には、フランスはパリに日本茶葉専門店「寿月堂パリ店」を出店。世界に向けて、日本文化の美しさと茶の心を広めるための一歩を踏み出した。これは、「老舗は常に新しい」という企業理念に則ったチャレンジと言えよう。
 プロから一般生活者までを相手に、海苔だけでなくお茶や食品も販売している同社では、顧客の属性に応じて販売チャネルを用意している。飲食店などには営業(外商)店舗。一般生活者には店舗と通信販売だ。そして通信販売のメディアとしては、ダイレクトメールとネットショップを活用している。
 顧客が企業を選ぶ時代になって久しい。今後も長きにわたり事業を展開していくには、来店を待つだけでなく顧客に直接、働きかけることができるダイレクトビジネスへの参入が必須であると考えた同社では、20年ほど前から店舗販売の補完として通信販売を開始した。その後、2008年には本格的にネットショップを展開。当初の顧客数は数百人であったが、現在は6万人に拡大し、リピート率は40%に達しているという。
 同社では、毎年2月、4月、10月と、夏・冬の贈答を加えた年5回、全販売チャネル共通のキャンペーンを展開し、ダイレクトメールを発送している。ダイレクトメールの年間発送数は30万通。主にこれに関する問い合わせや相談、注文、資料請求を受け付けているのが、今回紹介する「受注センター」である。
 受注センターの主な業務は、上記のようなインバウンドコールへの対応であるが、ダイレクトメール発送後のフォローコールや近況伺いといったアウトバウンドコールも実施している。ただし、アウトバウンドコールの目的は、あくまでも顧客とのコミュニケーションとしており、強引な売り込みは一切、行っていない。顧客の中には一人暮らしの高齢者も少なくないことから、受注センターが話し相手になることで、電話を掛けると喜んでいただけるような存在になりたいとしている。

1106S1

2011年4月に行われた新茶キャンペーンのダイレクトメール。海苔のみ購入する顧客には、お茶のサンプルを同封したり、お茶のみ購入する顧客には海苔のパンフレットを入れたりして、クロスセルを促している

繁忙期には他部署の社員も顧客対応を実施

 受注センターは築地本社内にあり、1拠点で運営されている。
 受付チャネルには、電話、ファクス、Webメールを利用。注文においてはこの3つのほかに、郵便も利用している。電話回線には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを使用。フリーダイヤル電話の受付時間帯は、月曜〜土曜日の9時から17時までで、日・祝日は休業としている。また、携帯電話からの着信も可能とすることで、窓口の利便性を向上。顧客満足度を高めている。
 対応に当たるスタッフ数は、正社員4名、パート2名の計6名。1年の中でも、夏のお中元と冬のお歳暮の時期にコールが集中することから、この時期は、他部署の社員も電話に対応している。この目的は、当然のことながら1本でも多くのコールに対応し、ビジネスチャンスを確実につかんでいくことにある。しかし、それだけではなく、全社で顧客対応に臨むことは、企画部など商品開発に携わる部署の社員がお客さまを知ることのできる貴重な機会でもあるととらえているという。
 また、繁忙期における顧客データの入力業務はアウトソーシングしている。

1106S2
1106S3

トップページ右上の「お問い合わせ」をクリックすると、Q&Aが表示される。回答が見つからなければ、画面右上に表示されるフリーダイヤル番号かファクス番号にアクセスしてもらう

クレームも喜びの言葉も全社で共有 仕入れや生産に役立てる

 受付状況を見ると、受付内容は受注、問い合わせ、カタログ請求の3つに大別できる。中でも最も多いのは受注だ。利用チャネルを見ると、電話が最も多く6割を占め、郵送が2割、ファクスが1割、ネットショップが1割と続く。郵送の割合が比較的多く、ネットショップの割合が低いのは、同社の中心顧客層が60代であることが関係していると言えるだろう。
 応対履歴は、注文とクレームのみを紙ベースで残している。クレームの中には、ダイレクトメールの見やすさを求める声や、商品パッケージの資材に関する意見などが寄せられる。同社では、こうした顧客の声に真摯に耳を傾けて取りまとめ、全社にフィードバックしている。逆に、「こんなに美味しい海苔を食べたことはない」といった、喜びの声が寄せられることもある。こうした声もクレームと同様に全社にフィードバックしている。同社では、リアルな顧客の声を全社で共有し、仕入れや商品企画、生産などでも役立てていく意向だ。

今秋に新システムを導入

 これまで、問い合わせについては記録を残してこなかったが、2011年秋に予定している新システムの導入以降は、すべての対応履歴を残し、データベース化する計画。これにより、応対履歴に基づく対応が可能となることから、顧客の好みやライフスタイルに合った商品のお勧めをこれまで以上に推進していきたいとしている。
 また、新システムでは、これまで独立していた原料管理、製造管理、受注管理、フルフィルメント管理、販売管理、顧客管理のシステムとの連携も可能となる。具体的には、受注の際の在庫確認がスピーディーかつ正確に行えるようになるほか、海苔が工場で焼かれた日に至るまで、工場に問い合わせることなく回答することができるようになるという。

接客の正解はひとつではないためマニュアルは最小限にとどめる

 企業が顧客に選ばれるようになったことに加えて、長引く景気低迷により買い控え傾向が続く中、主食ではない、しかもスーパーマーケットで売られているものより価格が高い同社の製品が顧客に選ばれるには、顧客に「海苔は丸山海苔店」と思ってもらうことが大切である。そのためには、顧客ニーズをかなえる商品開発やブランディングが、これまで以上に重要な要素になってくる。こうした中、今後は顧客と直に接する受注センターの役割がより一層、大きくなっていくであろう。加えて、10人の顧客がいれば、10通りのニーズがあるため、顧客に選ばれる顧客満足度の高い対応をするには単なる受け応えではなく、個別の対応が求められる。
 接客の正解は、数学の答えのようにひとつではない。そのため、同社ではトークスクリプトやトークマニュアルを用意してはいるものの、必要最小限にとどめることで、フレキシブルに顧客ニーズに対応している。
 最小限のマニュアルしかない中で、顧客満足度の高い対応ができる人材を育成するには、教育が不可欠である。そこで同社では、2011年1月にオープンカレッジを開講した。オープンカレッジは、受注センターのスタッフだけでなく、全社員を対象としたもの。内容は、海苔やお茶の基礎知識、売り上げをはじめとする数字の見方などを学ぶとともに、コミュニケーション力を高めることに力点が置かれている。開講後間もないため、効果検証には至っていないが、同社ではオープンカレッジで身に付けた情報を顧客対応に生かし、業務経験を重ねることで、最終的にはスタッフの“人間力”が高まることを期待している。

1106S4

主力商品は受注センター内に取り揃えてあり、必要に応じて手に取って確認することができる(左)/本社ビルにある受注センター。DM・IN事業部が業務に当たっている。ヘッドセットを装着し、笑顔で対応するスタッフが印象的(右)

工場見学や店頭接客を通じてスキルアップを図る

 教育ということでは、工場の見学や店舗での接客も効果的であるという。冒頭で述べた通り、同社は原材料の仕入れから販売までの全行程を自社で行っている。その体制を生かし、スタッフには業務に支障のない範囲で、工場を見学して商品の製造工程を見せたり、店頭に立って対面での接客を経験させたりしているのだという。実際に体験したり、感じたりして学んだことは、自分の言葉で語ることができるため、スタッフの商品を勧めるに当たっての説得力を高める。さらに、顧客のニーズを察知した上で最適な商品をお勧めすることができる上、同社が伝えたい情報や商品の背景にあるブランドヒストリーを伝えていくこともできるようになるという。また、同社の商品の中でもロングセラー商品は、同社のブランドそのものでもあることから、同社ではロングセラー商品を知ることは会社を知ることにもつながり、スタッフの総合的なスキルアップが可能だとしているのだ。
 人材の育成を課題に挙げるコールセンターは数多いが、同社もその例にもれない。前述のように、オープンカレッジの開講や工場見学、店頭接客の経験は有効な手段である。今後もこれらに注力することで経験を重ねていき、商品知識はもちろん、コミュニケーション力や“人間力”も高めていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年6月号の記事