日本の歴史的な都市であり、観光地として人気の高い京都市。人口約147万人を擁する政令指定都市である同市では、大型ごみや一時多量ごみの収集を受け付ける「大型ごみ受付センター」や犬・猫などの死体の収集を受け付ける「死獣受付センター」、市民からのあらゆる問い合わせに対応する「京都いつでもコール」を開設し、市民サービスの向上に努めている。
大型ごみと死獣の受付センターを開設
平安京遷都から東京遷都まで日本の首都であり続けた歴史的な都市であり、1年を通じて国内外から大勢の人々が訪れる観光地として人気の高い京都市は、人口約147万人を擁する政令指定都市である。同市では、大型ごみの収集や市政全般に関する問い合わせを受け付けるに当たり、コールセンターを活用。窓口の明確化を図り、迅速かつ的確な対応を行うことにより、市民サービスの向上に努めている。
同市の環境政策局が運営・管理しているのは「大型ごみ受付センター」と「死獣受付センター」である。前者では主に家具・寝具、スポーツ器具、電気器具などの収集受付を、後者では犬や猫など動物の死骸の収集受付を行っている。
受付チャネルは電話のみで、電話回線にはNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルとナビダイヤルを導入している。回線数は、両ダイヤルで29回線を使用。大型ごみと死獣とでそれぞれ専用の番号を設け、固定電話からはフリーダイヤル、携帯電話からはナビダイヤルで受け付けている。受付時間帯は、大型ごみ受付センターが毎日9時から17時まで。死獣受付センターが月曜から金曜日の9時から17時までと、土日の9時から12時まで。いずれも年末年始のみ休業としている。
大型ごみ受付センターと死獣受付センターの告知媒体には、同市のWebサイトのほか、市内の全世帯に配付している「ごみ減量・分別ハンドブック」や広報物などを活用している。
大型ごみと死獣の収集受付窓口は、京都市のWebサイトや「ごみ減量・分別ハンドブック」で告知している。直近では、2011年2月に同ハンドブックを70万部作成し、京都市内の全世帯に配付した
大型ごみの有料化に伴い市民サービスの向上を目指してフリーダイヤルを導入
フリーダイヤルの導入は1997年10月である。大型ごみや死獣の収集窓口にフリーダイヤルを導入している自治体は比較的少ないが、京都市では一般家庭から排出される不用となった家具や家電製品などの大型ごみについては、受益者負担という観点から処理料金を徴収することが望ましいとして、同年10月から有料収集を開始。これに伴い、それまで通話料市民負担(一般加入回線)で受け付けていた大型ごみの収集を固定電話からは通話料無料で受け付けることで、市民サービスの充実を目指したのである。当初は、大型ごみ受付センターでのみフリーダイヤルを利用していたが、さらなる利便性向上を目指し、2007年10月に受付日を拡大した際、死獣受付センターをフリーダイヤル化した。
また、同時期に受付センターの京都府外への移転が決定。京都以外の市外局番を利用することによる市民の混乱を避けるため、携帯電話からの受け付けにはナビダイヤルを導入し、現在に至っている。
市民サービスの充実を目指す以上、すべてフリーダイヤルで受け付ければいいという考え方もある。しかし、市民サービスとは言え、受付センターの運営費用は市民から徴収した税金でまかなっていることから、サービスと費用のバランスを考慮し、現状の受付体制にたどり着いたという。
京都市の各施設内にポスターを掲示したり、車体にロゴのステッカーを貼るなどして、京都いつでもコールを告知している
2009年度には25万件を超えるコールが寄せられた
両センターは1カ所で受け付けており、受付業務は富士通エフ・アイ・ピー(株)に委託している。前述の通り、電話回線数は29 回線を用意しているが、日々のオペレーター数に関しては委託先の裁量で決定。入電状況を見ながら適切な人数を配置しているという。
大型ごみ収集の受け付けの流れは、まず、市民からのコールが大型ごみ受付センターに着信すると、オペレーターが氏名、住所、電話番号、収集するごみの種類や大きさ、数量、出す場所を確認。次に、収集日と収集場所(収集車が進入可能かを地図で確認して排出場所を指定)、手数料を伝える。そして、収集を行う生活環境美化センターに受付状況を伝達するという流れだ。
なお、ナビダイヤルで受け付けの際には、固定電話からは通話料無料で申し込める旨とフリーダイヤル番号をお知らせした後、ナビダイヤルでは20秒10円が課金されることを案内した上でオペレーターにつないでいる。また、業務の特色上、フリーダイヤルでは利用可能エリアを指定。市外からは利用できないようにしている。
受付状況を見ると、2009年度には25万612件のコールが寄せられた。内訳は、大型ごみが23万7,462件で、死獣が1万3,150件。入電傾向としては、月曜日や祝日の翌日の午前中にコールが集中することがあるという。
業務を遂行するに当たってはマニュアルを用意し、スムーズかつミスのない対応に努めているが、問題が生じた際には毎月行っている委託先との定例会で協議。早期改善に当たっているという。
緊急時の問い合わせにも対応する窓口として2006年1月に開設
広報担当が運営・管理している「京都いつでもコール」は、市民サービスの向上を目的に、市民からのあらゆる問い合わせに対応する窓口として2006年1月に開設された。同市では、コールセンターの開設に当たり名称を全国から募集。2,671件の中から選ばれたのが「京都いつでもコール」である。ロゴとこれを配したポスターを作成するなどして、市営地下鉄など市が持つインフラを活用してPRすることで、認知度アップに努めている。
具体的な業務内容は、市政全般に関する問い合わせと、市が主催する講演会やコンサートといったイベント参加申込の受け付けなど。このほかにもうひとつ、地震などの緊急時には避難場所や救援物資の配付場所、京都市内へのアクセスルートなどの問い合わせに対応する窓口としても機能するよう備えている。
緊急時の問い合わせ対応機能は、1995年1月に起こった阪神淡路大震災の経験を生かして設けられた機能である。万一、震災で市役所が倒壊しても緊急時の問い合わせ対応機能は失わないように、京都いつでもコールはその業務を大型ごみ受付センターと死獣受付センターと同様に、富士通エフ・アイ・ピーに委託している。
委託先を選択するに当たっては、①自家発電設備があり、②震度7でも倒壊しないビルであること。そして、③年間最大6週間の24時間受付を行えることを条件に選定した。緊急時の問い合わせ対応は、幸いまだ一度も実施したことがないが、万一に備えて、年に1度、抜き打ちで防災訓練を実施。また、災害時のシフト表を作成・提出するなどにより、いざという時に備えている。
きめ細かなメンテナンスでナレッジ・データベースの鮮度を保ち一次完結率94.3%を実現
通常業務の受付チャネルは、電話、ファクス、eメールを利用。電話の受付時間帯は8時から21時までで、年中無休で受け付けている。スタッフ数は、最低5名から最大12名で対応。人数は、委託先の裁量で、コール予測に基づき決めている。
2009年度の受付件数は、全チャネル合計で6万3,190件。内訳は、電話が最も多く5万5,048件、ファクスが2,231件、eメールが5,911件であった。
多く寄せられる問い合わせ内容は、国民健康保険に関することや高齢者への施策、人間ドックに関してなど、保健と福祉に関することとなっている。また、京都という土地柄、観光に関する問い合わせも多く寄せられるという。本来、観光に関する問い合わせへの対応は、京都いつでもコールの範疇外であるが、京都に根付くおもてなしの精神に則り、信頼できる情報に基づきできる限りの対応を行っているという。
このように、問い合わせ内容は多岐にわたるが、一次完結率は94.3%と高いレベルを実現。一部の委託先で回答できない用件については、所管局・区所管課にエスカレーションして対応している(図表)。
高い一次完結率実現の背景にあるのが、網羅性がありかつ鮮度の高いナレッジ・データベースの存在だ。京都いつでもコールを管轄する広報担当では、市役所内の全局・全課から情報を収集する一方で、日々の受付業務の中で委託先が気付いたナレッジに関する事柄を吸い上げ、情報の取りまとめを実施。広報担当が承認した情報については、委託先でデータベースへの登録や更新といった作業を行うとともに、Webサイトに掲載しているFAQの更新も行うというように、きめ細かなメンテナンスを行っているのである。
なお、電話応対のサービスレベルは、放棄呼率5%未満、80%以上の電話に30秒以内に応答、平均待ち時間8秒以内を目標としている。ファクスとeメールに関するサービスレベルは定めておらず、委託先に任せているが、基本的に、その日に受け付けたものはその日のうちに回答しているという。
日々の受付状況は、委託先から広報担当へ応対記録とともに報告される。これを担当者がすべてに目を通し、誤案内をチェックしている。もし、誤案内が見つかった場合は、市民の連絡先がわかる場合はお詫びと訂正を行うと同時に、委託先にフィードバックし、次回以降は同様の誤案内を防ぐよう働きかけている。毎日のチェックでは、問い合わせ内容はもちろん、これを分類するカテゴリーに至るまで、担当者が1件1件チェック。統計データに狂いが生じないよう努めている。
こうした取り組みが功を奏しているためか、京都いつでもコールに対する市民の満足度は高い。電話終了後にオペレーターからスーパーバイザーに電話を代わり、5段階評価でヒアリングを行う満足度調査を年に2回実施しているが、その結果を見ると、5もしくは4と回答した方の割合が85%を上回っているという。
広聴システムの導入を検討
現在、京都いつでもコールが課題としていることは均一な対応である。当然のことながらベテランオペレーターと新人オペレーターとでは、知識も経験も異なることから、結果的に応対品質にバラツキが生じているのだ。同市では、ベテランスタッフの退職に伴い、応対品質が落ちるようなことがないよう、人に依存せず、システムでオペレーターをサポートすることで、応対品質の均一化を図っていく意向。先ほどナレッジ・データベースについて紹介したが、応対品質のバラツキ解消という観点からも、ナレッジ・データベースは大いに役立っているわけだが、今後もFAQを充実させるなど、ナレッジ・データベースのメンテナンスに継続的に取り組んでいく構え。
このほか、市民の声を市役所内で共有・活用するための広聴システムの導入を検討しているという。同システムは、すでに横浜市や大阪市など、ほかの政令指定都市で導入されているため、先行事例を参考にしながら検討を進めていきたいとしている。広聴システムの導入により、市民の声を可視化することができるようになった際には、ニーズを市政に生かしていきたいとのことだ。