コンタクトセンター最前線(第83回):ぜん息の専門家が患者や家族の不安、疑問を解消

(独)環境再生保全機構

2004年4月に発足した(独)環境再生保全機構では、前身である旧公害健康被害補償予防協会の時代から20年にわたり、地域住民の健康維持を図ることを目的に公害健康被害予防事業を行っている。その事業の一環として「ぜん息電話相談室」を運営。ぜん息および慢性閉塞性肺疾患の患者や家族の不安、疑問の解消、治療意欲の向上をサポートしている。

1対1での情報提供を目的にぜん息電話相談室を開設

 環境再生保全機構は、2001年12月に閣議決定した特殊法人等整理合理化計画に基づき、旧公害健康被害補償予防協会および旧環境事業団について事業、組織の見直しが行われ、2004年4月に新たに設立された独立行政法人である。ぜん息、慢性ひ素中毒症といった公害にかかわる健康被害の補償および予防、民間団体が行う環境保全に関する活動支援、石綿による健康被害の救済などの業務を行うことにより、良好な環境の創出と、環境の保全を図ることを目的としている。
 今回紹介する「ぜん息電話相談室」は、同機構が担う業務のひとつである補償法に基づく公害健康被害予防事業の一環として、パンフレットや情報誌の制作・配布と並んでぜん息の患者やその家族が抱える疾患に関する不安や疑問の解消、ぜん息などの発症予防、増悪防止、健康回復を目的に開設された相談窓口である。ぜん息を起こす仕組みは患者ごとに異なる。そのため同機構では、1対Nであるパンフレットや情報誌、講習会を通じての情報提供だけでなく、患者一人ひとりの症状や家族の悩みに応じた1対1の情報提供をすることが必要と考えたのである。そこで着目したのが、電話やファクス、eメールを活用した相談室だった。
 同機構では、2003年10月から2004年2月まで、ぜん息電話相談室を試験的に運営。2004年4月1日より本格的な運営を開始した。現在は、ぜん息に関する相談のほかに、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の相談も受け付け、患者や家族の不安や疑問の解消、治療意欲の向上をサポートしている。

149s1

薬剤から日常生活に至るまで多岐にわたる相談内容

 ぜん息電話相談室の告知媒体には、同機構のWebサイトや新聞広告、交通広告を活用。このほか、地方公共団体を通じてパンフレットや情報誌『すこやかライフ』を配布している。また、イメージキャラクターにタレントのジャガー横田ファミリーや西村知美を起用するなど積極的なPRを展開することで、次第に同相談室の認知度は高まっていき、2007年度には1,223件の相談が寄せられた。
 具体的な相談内容を見ると、薬剤全般、症状全般、治療法、診断、予後、診療科に関する問い合わせから、運動や日常生活に関することまで多岐にわたる。病院の紹介依頼が寄せられることもあるが、同相談室では特定の病院は紹介せず、(財)日本アレルギー協会のWebサイトや連絡先を伝えるまでにとどめている。ただし、インターネットを利用できない相談者には同相談室が相談者に代わって検索し、近隣の病院をお知らせするなどしている。
 最も多い相談内容は、薬剤に関する相談で全体の27%を占める。次に多いのは症状に関する相談で、16%となっている。
 通話時間は長いものと短いものと両極端に分かれる傾向にあるが、平均すると11.9分になる。長いケースでは30分を超える場合もあるが、72%は15分未満で完了している。
 相談者の性別を見ると、80%は女性で、ぜん息患者本人はもちろんのこと、ぜん息の子どもを持つ母親からの相談が多い。また、医師の診断や治療方法に関する疑問については直接、医師に尋ねにくいと感じる向きも多いようで、セカンドオピニオン的に同相談室を利用する方もいるという。年齢層を見ると、30代が42%と最多で、40代が22%、50代と60代がそれぞれ12%と続く。相談者の居住地域は、関東地方が52%、近畿地方が19%、北陸・中部地方が14%であることから、大都市圏からの相談が多いことがうかがえる。

149

ぜん息電話相談室の様子。相談が寄せられない時間を利用して対応履歴を入力する

明るく、ポジティブで人間味のある対応に努める

 相談室の運営には、専門的、かつ多岐にわたる相談に答えられる知識と医療現場での勤務経験を持つ人材が求められるとともに、コールセンターを運営するノウハウもなくてはならない。そこで同機構では、医療業界に精通しており、医療関連のコールセンター運営経験も持つ企業に、ぜん息電話相談室の運営を委託している。
 実際に相談に当たるのは、3名の保健師・看護師であり、通常は、保健師もしくは看護師が1名で対応している。保健師と看護師は、生活上のアドバイスなど提供できる情報が限られるため、予約制で専門医による相談も実施している。専門医による相談は月に3回行っており、小児、成人それぞれの専門医が対応に当たっている。専門医は、相談者に対応するほか、保健師や看護師にもアドバイスを行っている。規模は小さいが、保健師・看護師・専門医といった専門家たちがタッグを組み、それぞれの力を活かしながら相談に当たるパワフルな相談室である。
 相談に当たっては、明るく、ポジティブ、かつ人間味のある対応をすること。また、感情的になって電話をかけてくる方もいることから、どんな状況でも冷静に対応することに努めているという。

通話料金を気にせず気軽に相談してもらうためにフリーダイヤルを導入

 受け付けチャネルには電話、ファクス、Webメールを利用している。
 電話の受付時間帯は、平日の午前9時から午後5時まで。電話回線には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用している。同相談室は1拠点で全国からの相談に対応していることから、どこからでも通話料金を気にすることなく、気軽に相談してもらおうと、フリーダイヤルの導入を決めたという。また、最近は携帯電話の利用が増えていることから、携帯電話からの着信も可能にしている。
 ファクスには、一般加入回線を使用し、Webメールは、同機構のWebサイト内に問い合わせフォームを設けて受け付けている。
 ファクスとWebメールで寄せられた相談へは、まず受信した旨を返信することで、「返事がこない」というクレームを回避している。返信は、ファクスにはファクスまたはeメール、Webメールにはeメールで行い、可能な限りスピーディな対応を心掛けている。しかし、センシティブな相談内容については、専門医とも十分に相談、確認を行う必要があることから、若干の日数を要する。

対応履歴をデータベース化しリピーターに対応

 同相談室に寄せられた相談内容とその回答は、いったん、ぜん息電話相談対応記録用紙に記入した後、データベースに登録し、電子データで管理している。
 登録情報には、相談内容や回答のほか、任意で相談者から提供された相談者の年齢、性別、連絡先が含まれている。
 2回、3回と繰り返し相談を寄せる患者も多いことから、これらの登録情報の中から過去の相談内容を閲覧しながら対応することで、リピーターへのスムーズな回答を実現している。同じことを何度も聞く必要がない上、相談者の症状や事情を踏まえたきめ細かな対応ができるため、リピーターの満足度も高いようだ。
 もうひとつの活用方法としては、相談室のマニュアルおよびWebサイトで公開する情報の充実が挙げられる。前者については、マニュアルを整備することで、対応のバラツキをなくすのが狙いである。後者については、同機構のWebサイトの1コンテンツである「ぜん息などの情報館」のQ&A集に問い合わせの多い内容を掲載することで、相談者がインターネットにアクセスできる環境にあれば、いつでも欲しい情報を見つけることができるようにしている。

149s3

環境再生保全機構のWebサイトの1コンテンツである、ぜん息とCOPDの総合情報サイト「ぜん息などの情報館」では、よくある質問とその答えをぜん息の種類ごとにわかりやすく紹介している

5年目を迎えて自らの使命を再認識

 現在、同相談室が課題として挙げているのは次の3点である。
 ひとつ目は、あふれ呼への対応である。以前は、相談室のPRに全国版の新聞を活用していたが、広告出稿日に相談件数が集中してしまうことから、現在では地方版に切り替えている。出稿時期をずらしてエリア別に相談室を告知することで、相談件数の集中を緩和。あふれ呼を最少限に抑える工夫をしているが、天候などの影響で相談件数が増えたり、一時的に相談が重なったりした場合にはあふれ呼が生じてしまうのだ。
 2つ目は、スタッフの確保だ。相談内容がぜん息とCOPDに限定されているため、必要な人材の条件は明確。しかし、これらに精通している保健師、看護師の採用に苦労しているとのこと。
 3つ目は、スタッフの確保に付随したことで、相談員としての適正の見極めを挙げている。保健師、看護師として病院で勤務した経験があったとしても、電話など非対面での相談業務に適しているとは限らないからだ。
 同相談室が毎年実施している、電話による相談者を対象とした満足度調査の結果を見ると、2007年度は5段階中、上位2段階の評価をした相談者が92%に達した。開設から5年目を迎えた今、同相談室ではぜん息相談へのニーズは確実にあるとの見解を強めており、自らの使命を再認識している。今後は課題に取り組みながら、患者や家族の不安や疑問の解消、治療意欲の向上を継続的にサポートしていく考えである。

149s2

ぜん息電話相談室の告知に利用しているチラシ(左)と情報誌「すこやかライフ」(右)


月刊『アイ・エム・プレス』2008年10月号の記事