2026 EU&アフリカ旅行こぼれ話⑪:異文化を体験して感じたのは?

2026年10月1日
「2026 EU&アフリカ旅行こぼれ話」最終回となる今回は、異文化体験についての話で締めくくりたいと思います。その前提として、自身のアパルトマンの一部屋をパリでの宿として提供してくれ、かつ、南仏~スペイン~モロッコ旅行に同行した“親戚”のことを軽くお話ししておきましょう。彼女は日本人である私の従姉妹のフランス人の夫との間の娘。パリ生まれ、パリ育ちのフランス人で、母語はフランス語です。英語はそこそこ話しますし、40年ぐらい前に日本に留学し、日本語を勉強したこともありますが、本人曰く日本語は忘れかけているとのこと。

方や私は、大学をフランス語で受験し、仏文科で学んだことから、当時は英語よりフランス語の方が得意でしたが、就職してからはフランス語とは何十年もご無沙汰で、彼女の日本語以上に忘却の彼方。そんな中、私たちは、時折、日本語やフランス語の単語や表現を織り交ぜながらも、基本的には英語で語り合っています。お互い、母語ではない言語で会話するのですから、そもそも込み入った話には時間を要するし、疲れている時には上手く言葉が出てこなかったりしますが、そこは何とか乗り越えたとしても、最後に残るのは文化や風習の違いでした。

例えばアパルトマンに入ると、彼女は靴を脱いで、常に床の上をペタペタと裸足で歩いており、「靴は履いたままでも、脱いでも良い」と言うのですが、日本人の私は靴で歩くこともある床の上を靴下で歩くのにはどうも抵抗があり、室内では、あらかじめそれを見越して持参したサンダルを履いていました。また、「2026 EU&アフリカ旅行こぼれ話⑦」でも触れたように、エアコンがないというのも大きな違いなら、食洗機の使い方にも大きな違いがありました。

ある日の夕食時、彼女の子供たちを交えて、彼女の手料理を味わう機会があったのですが、私は午後から出かけていて何も手伝わなかったので申し訳ないと思い、食器を手洗いしようとすると、「食洗機で洗うから良い」と言われました。そこで、汚れがしっかり落ちるように、少し水洗いしてから食洗機に入れると、彼女は肩をすぼめて両手を広げながら、「あなたは食洗機に入れるのに、その前に洗うの?」と、呆れたような顔を向けてきました。

260622202713092
子どもたちを交えて薄暗い中で振る舞われた手料理の数々。スープは、アンダルシア地方はセビリアで食べた「サルモレホ」を再現したもの。「事件」が起こったのは、この後、食器を洗おうとした時のこと

私自身、食器は手洗い派なのですが、日本では食洗機を使う場合にも、油汚れがひどい時は下洗いすることがありますよね。後から尋ねたところによると、パリでは水道代が高いことに加え、夜間は電気料金が安いことから、彼女はその日の食器を夕食後にまとめて洗うのを常としているそうです。そんな中で、気遣いからとは言え、私が昼夜を問わず、洗剤を使ってこまめに手洗いしようとしたり、ましてや食洗機に入れる前に下洗いしようとしたりしたことは、彼女にとっては余計なこと、あるいは自分のやり方を無視されたように映ったのかもしれません。

そしてその背景には、水道光熱費の問題だけでなく、彼女自身の環境問題への意識の高さが横たわってもいるようです。この夏の猛暑の中、パリでは昔ながらのアパルトマンでも使える簡易エアコンが飛ぶように売れていると聞きますが、彼女はこれを頑なに拒否。皆がエアコンを使うようになれば環境問題がますます深刻になるのは目に見えているので、自分はそのムーブメントには乗らないと意志を固めているかのようでした。実際、彼女は生ゴミの処理に簡易コンポストのようなものも使い始めているそうで、その環境意識の高さは半端ではありませんでした。

食洗機に話を戻せば、日本ではまだまだ贅沢品と考えられているところもあれば、何事でも手仕事の方が丁寧といった文化があるように感じられます。しかし、ことエアコンとなると、私自身を含め都市部に住む多くの日本人は、その使用が環境問題に繋がることは知っていても、この猛暑の中でそれを手放そうとは思いもしません。こうした中、私には、エアコンを使わないことの方がよほど不思議に見える一方、彼女には、食洗機があるのに人間がわざわざ手をかけて食器を洗うことの方が不思議に映る。何を機械に任せ、何を人間が担うのか。その線引きは、どうやら私と彼女とではかなり異なるようです。

異文化体験とは、単に日本では馴染みのない習慣に触れるだけではなく、自分にとっての「当たり前」が相手にとっては必ずしもそうとは限らず、自分にとっては「気遣い」のつもりが相手にとっては受け入れがたい場合もある。突き詰めれば、「合理性」の基準自体が、育った社会や環境、そして個人によって異なるという現実を目の当たりにすることなのかもしれません。親戚との2週間の「共同生活」を通じて、そんなことを感じさせられました。

【後日談】 この話をSNSに投稿したところ、日本でヨーロッパ製の食洗機を使っている友人から、なんと「予洗いしないでください」という注意書きがあり、それを読んで驚いたとのコメントが。日本の常識が世界の常識とは限らないことは分かっていても、まさか食洗機の設計思想からして違うとは……。ったく、何があるかわかったもんじゃありません(笑)。

<完>