顧客体験再構築を起点としたDX ~ 日本ダイレクトマーケティング学会20周年記念イベントより

2021年10月2日
去る2021年9月3日~11日に、日本ダイレクトマーケティング学会の20周年を記念したイベントが開催されました。今回のテーマは、「New Horizons for Direct Marketing―社会変容で加速するダイレクトマーケティングの新たな挑戦」。4日に開催された「第20回全国研究発表大会」前後の日程では、20周年を期して発足した4つのプロジェクトの中から、テクノロジー関連、顧客接点関連、経営管理関連の3つのプロジェクトによる発表が行われました。本日はこの中で私自身もメンバーを担っている顧客接点関連のプロジェクトによるセミナーの概要をご紹介したいと思います。

同セミナーのテーマは、「顧客体験再構築を起点としたDX」。東洋大学准教授 大瀬良伸先生による解題に引き続き、花王 DX戦略推進センター ECビジネス推進部の三澤拓哉さんによる花王の化粧品事業におけるDXへの取り組み、スカパーのコンタクトセンター子会社を率いておられたNeoContact 代表取締役 出水啓一朗氏によるコールセンターを起点にしたDXへの取り組みに関する講演を経て、登壇者によるパネルディスカッションが開催されました。

まず大瀬良先生の解題では、本日のテーマは言わば顧客体験を高めるマーケティング活動であり、CXとDXのかけ算のようなものであるとして、それぞれの定義や特徴を改めて振り返り。続いて、①SNSの活用、②オンライン接客、③ライブコマース、④スマホアプリの開発といったフロントサイドの研究を紹介した後、その裏側ではマーケティングデータの統合、各種システムの導入、組織の変革が行われているとして、各講師にバトンを渡しました。

これに続く三澤さんの演題は、「花王が目指すDX ~生活者にとって価値あるCX創造に向けて~」。同社では、ブランドや手法の多様化に伴いシステムがサイロ化し、顧客接点の変革が急務となっていることを受けて、2021年1月から各ブランドに横串を刺した形でDX戦略推進センターを発足、全社一丸となってのDX推進に乗り出しました。

DXへの取り組みに当たっては、これを生活者のためのものと位置づけ、ブランドパーパスに則ったカスタマーサクセスを達成する上で、商品の機能だけでは埋められないギャップをさまざまな体験で埋めていくことを目指したとのこと。私の中では、ビジネスモデルではなくカスタマーサクセスを目指すことにより、関係者との意識合わせもスムーズになると言われていたことが心に残りました。

次に化粧品事業における課題として、テクノロジーの進化によりカスタマーサクセスへの道のりが多様化していることを受けて、来店時のみならずデジタル上の行動分析により顧客理解を深めてカウンセリング販売をアップデートすること、店頭や直販ECといったチャネルを越えて顧客を正しく識別可能なシステムフローを開発することなどを提示。

続いて、化粧品事業におけるカスタマーサクセスの実現に向けた具体的な手法として、LINEを活用したCRM、美容情報発信スタジオの開設、B2B2Cモデルを想定した外部共創によるカスタマーサクセスの支援などを紹介。最後に今後のアップデートとして、パーパスのCXへの落とし込み、DXのKPIマネジメントの整備、人材育成の3点に言及、同社創業者の逸話を紹介した上で、講演を締めくくられました。

これに続く出水さんの演題は、「コンタクトセンターを起点としたDX~企業は自ら顧客接点をデザインできているか?」。まずは、企業内のコンタクトセンターの変遷を振り返った上で、製品・サービスの複雑化やコミュニケーションチャネルの多様化が進む中、お客さまからのコンタクトは増加傾向にあり、かつさまざまなチャネルで寄せられるようになっているとして、顧客接点をマネジメントする組織(ヘッドクォーター)の重要性に言及。

こうした中、企業都合により都度、構築されてきた部分的なシステムではなく、カスタマージャーニー全体を見据えたカスタマーサクセスを実現するためのシステムが必要であるとした上で、CXとEXとDXの関係に言及。CXを目的とすれば、EXはそのために必要な条件であり、DXはそのための手段であるというそのご説明は、私にとってはとても納得感の高いものでした。

続いて、コンタクトセンターをステージ1(1拠点で対応)、ステージ2(複数拠点があるものの、センター間の連携はない)、ステージ3(ヘッドクォーターがセンターをコントロール)、ステージ4(在宅スタッフ等も巻き込んだバーチャルセンター)に分類、現在の日本のセンターはステージ1か2であるとした上で、DXを活用し、EX→CXを実現するステージ4のコンタクトセンターについて詳述されました。

これはクラウド型のシステムを活用したバーチャルなコンタクトセンターであり、一次対応はAI BoT、二次対応以降は人(マルチチャネル、マルチタスク)が対応、システム面ではクラウド型のPBXやCRMから基幹システムに連携するシンプルな構造で、SMSやMAなどWeb系のシステムともシームレスに繋がっているとのこと。

引き続き、コンサルティング先のコンタクトセンターにおけるヘッドクォーターの構築プロセスを紹介した上で、システムの導入自体ではなく、これを導入する基盤が整っていることが大切であると主張。Adam Grant著・楠木建氏監修の『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)を参照しつつ、これからの企業に必要なのは顧客接点における「Giver」の精神であり、コンタクトセンターは「Giver」であり続けることで、そこで働く人とお客さまとの絆を作っていくことが重要であるとして講演を締めくくられました。

ゲストによる講演終了後は、大瀬良先生の司会のもと、各講師への質問に続いて、組織面やDXを通したCX構築の課題についてのディスカッションを展開。組織作りについては、三澤さんが花王社内のCRM的な組織に所属するメンバーを集めて新組織を立ち上げたことを披露すれば、出水さんは情シス型ではなく外部のパートナーを交えたプロジェクト型組織の有効性を指摘。EX関連では、三澤さんはブランドコンセプトをいかに熱く語るか、出水さんはお客さまの声や顧客接点を担うスタッフの声を経営層に上げていくことの重要性を強調。課題としては、従業員のテクノストレスやKPI/ROI、社内の説得方法などについてディスカッションされました。

本セミナーは、日本ダイレクトマーケティング学会20周年記念イベントの一環として開催された
本セミナーは、日本ダイレクトマーケティング学会20周年記念イベントの一環として開催された
なお、本プロジェクトでは、当面はDXをテーマに、定例会開催や調査などを通して研究活動を継続していく意向。現在は企業のDXの前提となるであろう生活者のデジタルトランスフォーメーションに関するネットリサーチに着手しています。ご興味のある方は、日本ダイレクトマーケティング学会にご入会の上、私たちの仲間に加わっていただけませんか? こちらよりお問い合わせをお待ちしております。

※同学会の20周年記念イベント全体のプログラムはこちらをご参照ください。